第845話 最終決戦

「文字変換の能力が扱えればどんな大けがを負おうと治療する事が可能なはずです。それを考慮すれば文字変換の能力は残しておくべきでしょう」

「まあ、そうだろうけど……」

「確実に倒せるという保証はありませんが、地球の核兵器でも作り出しますか?」

「それは駄目だよ」



核兵器という言葉にレアは即座に否定し、そんな物をこの世界に持ち込むわけにはいかない。第一に核兵器でも倒せる保証などないため、もしも失敗したら最悪の大惨事を引き起こす。


しかし、地球の兵器の類ならば敵の意表を付ける可能性もあった。この世界には存在しないはずの武器を利用し、攻撃されたとなればバッシュも動揺するかもしれない。



「……地球の武器か、それもいいかもしれない」

「え?半分は冗談だったんですけど……何かいい作戦を思いつきました?」

「ああ、思いついたかもしれない」



兵器ではなくても地球で作り出された道具の中でバッシュに有効な物を考え込み、ここである事を思い出す。それはアンデッドや死霊人形の類が日中の間は動きが鈍くなるという話を思い出す。



「……もしかしたらこの方法なら、となると頼れるとしたら」



レアは皆に振り返り、自分の作戦を結構出来る人間を探す。そして彼が目に止めたのはアカとその隣に立つサンの姿だった。



「サン、アカ、それにクロミン……君達に重要な任務を与える」

「シャウッ!?」

「きゅろっ?」

「ぷるるんっ?」



自分達が呼び出されるとは思わなかった3人(匹?)は驚いた表情を浮かべるが、レア自身は至極真面目な表情を浮かべ、自分が考えた作戦を伝える――






――それから時間がしばらく経過し、夜明けまであと1時間という時刻を迎えると、遂にレア達は動き出す。今の所はバッシュが動く様子はないが、これ以上に時間を消費すればバッシュが夜が明ける前に避難するために動き出すかもしれず、動くしかなかった。


全ての準備を整えると、まずはバッシュの元に向かう者を決める。最初にバッシュに挑むのはレア、シュン、シゲルの3人であり、ヒナの場合はある準備のために後から追いかける事になる。



「じゃあ、合図をしたら頼んだよ」

「う、うん……初めて使う魔法だから成功するか分からないけど、頑張るね!!」

「本当に頼むぞ……」

「よし、行こう……二人とも、必ず生き残ろう」



バッシュの元に向かう前にレアはヒナと打ち合わせを行い、彼女にも重要な役目を任せる。それと同時にレアはリリスから受け取った筒状の道具も取り出す。



「これを引っ張ればいいんだね」

「そうですよ、ても武器としては使えないですから気を付けてください。半分はおふざけで作った道具ですからね、祭りの時に使おうと思った物ですから」

「国の予算で何てものを作ろうとしてるんだ……」

「でも、面白そう。魔王を倒したらこれで盛大に祝いたい」

「そうだな、確かにこの魔道具は面白そうだ」



リリスが制作した魔道具を受け取ったレアは使い方を再確認し、これがヒナの魔法の合図となる。使う場面はよく考えねばならず、失敗は許されない。


全ての準備を整え、王城の前に辿り着いた一行は緊張した面持ちながらも歩み出す。念のためにレアは地図製作の画面を開くが、反応が大きすぎるせいで画面が真っ赤に染まっていた。魔力感知も気配感知も相手の存在感が大きすぎて上手く発動しない。



(これが最後の戦いになるかもしれない……いや、ここで終わらせるんだ)



剣の魔王バッシュを倒せば全てが終わる、そう考えたレアはシュンとシゲルに振り返ると、二人とも顔色は悪いながらも頷いてくれる。


シュンはレアから託された「フラガラッハ」と「デュランダル」を握りしめ、一方でシゲルの方も同じくフラガラッハを背中に括り付けていた。これらの類はレアが万が一のために保管していた予備であるため、今日の分の文字変換は使用していない。


レアもフラガラッハとアスカロンを装備し、更に懐にはリリスから受け取った魔道具を隠しておく。バッシュとの戦闘が始まった際にこれを利用し、王城の外に待機するヒナに合図を送る。それが作戦の第一段階でもあった。



「行こう、二人とも!!」

「おうっ!!」

「僕達の手で……終わらせるんだ!!」



3人は気合を込めると王城の城門を潜り抜け、最強の魔王が待ち構える城内へと入り込む。その様子を他の者達は心配した様子で見つめ、彼等が合図を出すまでの間はここで待機する事しか出来なかった――

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