第840話 勇者達の帰還
――異変を感知したのは王都の住民だけではなく、城壁や城外に存在するリル達や兵士達も感じ取っていた。王城から一番離れているにも関わらず、禍々しい魔力と気配を感じ取った者達は顔色が青くなる。
「皆、感じ取ったか……?」
「これほどの魔力、嫌でも感じ取れる……魔力感知の技能を身に付けていない者でもな」
「何なんですかこれ……鳥肌が立ちましたよ」
リル、カレハ、リリスの3人は王城へと視線を向け、他の者達も無意識に王城が存在する方角へと顔を向ける。崩壊した王城の方にて何か起きたのは確かだが、今の所は変化は見られない。
だが、変化は目で見えなくとも身体の方は危険を感じ取り、まるで始祖の魔王が襲来した時の事を思い出す。恐らくは始祖の魔王と同等か、それ以上の存在が王城で待ち構えているはずだった
「まさか、剣の魔王なのか……」
「奴め、自分の配下の力を吸収したというのか……」
「これはやばそうですね……もう、私達の手に負える相手じゃないかもしれません」
王城から放たれる魔力を感じとるだけでリル達は震えが止まらず、本能が危険を知らせている。しかし、だからといってこのまま引き下がるわけにもいかない。
「住民の避難を急がせろ!!もしかしたらこの王都全体が戦場と化すかもしれん!!一刻も早く、住民の避難をっ!!」
「動けるものはすぐに避難を急がせろ!!負傷者も治療が済み次第に避難活動を手伝え!!もう一刻の猶予もないぞ!!」
「戦士達よ、我々はいち早く王城へ向かい、魔王を見張るぞ!!いざとなれば我等が盾となって戦うのじゃ!!」
『はっ!!』
リル、チイ、カレハの指示の元にケモノ王国の兵士と森の戦士達は動き出し、動けるものはすぐに避難活動を手伝うために行動を開始しようとした時、ここで城壁の方にクロミンを抱えたサンが現れた。
「きゅろろっ!!皆、大変!!」
「サンちゃん!?どうしたんだ急に……君には避難活動を手伝う様に言っただろう?」
「そんな事を言ってる場合じゃない!!あれを見て!!」
「ぷるる〜んっ!!」
戦闘に巻き込まないように住民の避難活動に向かわせていたサンがクロミンと共に戻ってきた事にリル達は戸惑うが、彼女の頭に乗ったクロミンが空に注意するように耳のような触手を伸ばす。
二人の行動を見て全員が上空を見上げると、そこには月の光を遮断する大きな影が差し、その光景を見たリリスは信じられない声を上げた。
「あれは……まさか、飛行船!?」
「そんな馬鹿なっ!?大破したんじゃないのか!?」
「もう修理が完了したのか!?」
王都に墜落したはずの飛行船が浮かんでいる事に全員が気づき、信じられない表情を浮かべる。飛行船は街中に墜落した後、現在は修復中である。その飛行船が浮かんでいる事にリル達は何が起きたのかと戸惑い、ここである結論に至る。
「壊れたはずの飛行船がどうして……」
「修理が完了したなんて聞いてませんよ!!」
「いや、ちょっと待て!!様子がおかしいぞ!?」
王都へ向けて接近してくる飛行船は徐々に高度を落としていき、やがて地上へと不時着する。その光景を見て他の者達は唖然とするが、不時着した飛行船から人影が現れる。
「あいてててっ……二人とも、生きてる?」
「し、死ぬかと思ったぞ……」
「う〜ん、お尻痛いよ〜……」
「シャアアッ……」
不時着した際に壊れた飛行船の中からレア、シゲル、ヒナ、そして火竜のアカが姿を現すと、全員が驚いた様子で慌てて彼等の元へ向かう。
「レア!!無事だったのか!!」
「心配していたでござる!!」
「しかし、これはどういうことだ?どうして飛行船を君が……」
「えっと、とりあえず皆が無事で良かったよ。この飛行船についてはちょっと説明すると長くなるんだけど……」
レア達が帰還した事で全員が安堵する中、彼等が乗ってきた飛行船を見て誰もが戸惑い、どうしてこの場に存在するはずがない飛行船に乗り込んできたのかを説明する前にリリスが察する。
「この飛行船は……そういうことですか、私達が飛行船を完成させたから文字変換の能力で作り出す事が出来たんですね!!」
「うん、そういう事……前に何度か飛行船を見学してもらったし、操縦方法も解析の能力でどうにか覚えたよ」
「けど、着地を失敗した時は死ぬかと思ったぞ……」
「怖かったよ〜……」
「ご、ごめん……運転方法は分かっても、技術が追いついていなかった」
飛行船がもう間もなく開発する事はレアもリリスから話を聞いていたため、駄目元で彼は飛行船を文字変換の能力で作り出す。その後は解析の能力を利用して飛行船を調べ上げ、操縦方法を知った。
だが、運転の仕方は分かっても初めて飛行船を操縦したために上手く扱えず、着地に関しては失敗してしまった。それでも短時間で王都に戻る事には成功し、レアは状況を確認する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます