第841話 最後の決戦準備
「状況は……どうなってるの?」
「一言で言えば……最悪ですね、王城は崩壊して現在は魔王に占拠されています」
「魔王だと!?本当に魔王が現れたのか!!」
「私達がこの世界へ呼ばれた理由って……その魔王さんを倒すためなんだよね」
魔王が現れたという話にシゲルは興奮し、ヒナの方も流石に緊張の面持ちを浮かべる。その一方でレアは地図製作の画面を開き、画面上に表示されている反応を確認した。
確かに王城が存在する位置には大きな敵の反応が表示され、この反応こそが魔王であるのは間違いない。最後にして最大の敵が王城に待ち構えている事を自覚し、恐らくはこれが正真正銘の最後の戦いになるだろうと予想された。
もう魔王軍の幹部は残っておらず、これまでに魔王を復活させた死霊使いもレアの手で討たれた。残されたのは死霊使いの力を吸収し、死霊以上の存在とかした剣の魔王バッシュだけである。
「王都の人たちは大丈夫かな?」
「避難は進めていますが、まだ完全には終了していません。でも剣の魔王が動き出す様子は今の所はありません」
「あれ、そうなの?」
「恐らくだが……剣の魔王の目的は勇者、つまりは君達がここへ訪れるのを待っているんだ。この世界を救うべき存在にして自分の最大の脅威となり得る者が訪れるのを待っている」
「ちっ、余裕のつもりかよ……上等だ、ぶっ飛ばしてやる!!」
シゲルはバッシュがわざわざ待ち構えているという話に苛立ちを抱き、自分達を待っているのならば乗り込もうと考えるが、それに対してリルがそれを止めた。
「駄目だ!!奴は強すぎる……正直に言ってレア君以外の人間では太刀打ちできないだろう」
「何だと!?あんた、俺が足手まといになるというのか!?」
「その通りだ。奴はあまりにも強すぎる……いくら修行を積んだとはいえ、君では敵わないだろう」
「ふざけんなっ!!こっちは魔王をぶっ飛ばすためにこんな世界にまで連れて来られたんだぞ!!」
「け、喧嘩は駄目だよ〜!!」
リルとしては正論をいったつもりだが、その言葉に対してシゲルは我慢できずに彼女に近付こうとするが、それをヒナが遮る。だが、リルとしても別にふざけているつもりではない。
王城で見せつけられたバッシュの圧倒的な力に対抗できるのはこの世界で最も強く、他の魔王を倒したという実績を持つレア以外にはあり得ないと考えていた。正直に言えばバッシュはこれまでにリルが遭遇した敵の中でも誰よりも強く、恐ろしい存在故に対抗できるのはレアしかいないと考えている節はある。
多人数で挑んだとしてもバッシュに返り討ちに遭うだけであり、それならば無駄な犠牲を避けるために生半可な実力の人間は連れて行く事は出来ない。そう考えたリルはシゲルの同行を拒否しようとするが、ここでリリスが口を挟む。
「ちょっと待ってくださいよ、今更ながらに考えたんですけど朝が来ればバッシュの力も弱まると思いますよ」
「朝、だと?」
「死霊やアンデッドが力を思う存分に発揮できるのは夜の間だけ……つまり、日が照らす時間帯が訪れれば必ずに弱体化するはずです」
「あ、言われてみれば確かに……」
死霊やアンデッドの類が活動できるのは夜闇だけであり、実際にアンデッドの類は日中の間は光が届かない地面の中に潜り込む習性を持つ。いかにバッシュが圧倒的な力を持っていたとしても、日中の間ならば弱体化するのは目に見えていた。
「なら、朝を迎えるまでここで待機するというのか?だが、奴もそれは承知済みだろう」
「朝まで訪れるまでバッシュが動き出さないとは限らん。ここは奴が動き出す前に動くべきではないのか?」
「そうですね、確かに相手が動かないうちに仕掛けるのも有りかもしれません。ですけど、不用意に仕掛けても返り討ちに遭うだけです。なら、入念に作戦を立てましょう」
「作戦か……」
リリスの言う通りにバッシュが動かないのであれば作戦を立てて仕掛けるのが妥当であり、無策に突っ込んでも勝てる相手ではない。
これまでに得た剣の魔王の情報を集め、もう一度話し合う。バッシュが動き出す前にレア達は彼を仕掛ける必要があるが、夜明けまでは数時間の時を要する。
夜を迎えればバッシュも弱体化して倒せる可能性は高まるが、流石に夜明けまでバッシュが何もせずに待機するとは考えにくい。そのため、残された猶予は夜が明ける前となる。
「恐らくはこれが正真正銘、最後の戦いになるでしょう。それを踏まえた上で誰を向かわせるべきか、しっかりと話し合う必要があります」
「となると……レア君は確定だな。バッシュに対抗できるのは聖剣を操れるレア君以外にあり得ない」
「俺も行くぞ!!霧崎だけに無茶をさせられるかよ!!」
「わ、私も行くよ〜魔法で援護するからね!!」
シゲルとヒナは同行する事を訴えると、他の者達は難しい表情を浮かべる。二人の実力はこの数日の修行で磨かれているのは間違いないだろうが、それでも不安は隠せない。
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