第839話 真の脅威
「……終わった、のか」
「やった、やったぞ!!遂に倒したのか!!」
「我等の勝利だぁっ!!」
完全に崩れ去った巨人の姿を見て兵士達は勝利を確信し、勝鬨を上げる。その一方で間近で巨人が崩れ去る光景を見ていたチイ達は警戒心を解かず、様子を伺う。
巨人は竜巻と魔導大砲によって完全に崩れ去り、もう種火程度の炎しか残っていない。だが、一欠けらであろうと黒炎が残っている事にチイは警戒心を抱き、フラガラッハで炎を消そうとした。
「これで……終わりだ!!」
「チイ殿、いけないでござる!!」
「なっ!?」
チイが聖剣を振り下ろそうとした瞬間、後ろからハンゾウが彼女を抱きしめて後方へ引き寄せる。止めを刺そうという寸前で止めた彼女にチイは驚愕するが、突如として周囲が騒がしくなった。
「うわぁあああっ!?」
「な、何だぁっ!?」
「ほ、炎が……勝手に!?」
周囲から悲鳴が響き渡り、何事かとチイは視線を向けるとそこには黒炎に襲われる兵士達の姿が存在した。これまでの炎龍や巨人との戦闘で散らばっていた黒炎が一か所に集まり始め、やがてチイが消そうとした黒炎の欠片も飲み込まれると、黒炎は人の形へと変化を果たす。
『キ、サマラ……』
「くっ……まだくたばっていなかったか!!」
元々の「竜人」の形態に近い姿に変化したジャンはチイ達と向き直り、理性を取り戻したのか言葉を発した。だが、元の状態と比べると大分弱まっていた。
ジャンは自分自身の肉体を確認すると、もう限界が近い事を悟り、この状態ではこの場に存在する者を倒せない事を知る。しかし、王都の中心には自分の主人が待ち構えている事を思い出し、笑みを浮かべた。
『ミゴトダ……ダガ、モウオソイ』
「何を言って……」
『アガァアアアアッ!!』
会話の際中にジャンは顎を開くと、上空に目掛けて黒炎を放つ。自分の肉体を構成する炎を唐突に吐き出したジャンにチイ達は驚くが、黒炎を放出する事にジャンの肉体は縮小化し、崩れ始める。
上空へ向けて放たれた黒炎は弧を描いて王都の北側にまで向かい、その様子を見ていたリルは嫌な予感を覚え、リリスとネコミンに指示を出す。
「リリス、奴を撃て!!」
「もう準備は出来てますよ!!ネコミンさん!!」
「んっ!!」
リリスの言葉にネコミンは魔導大砲を発射させると、黒炎を放つジャンに対して砲撃を行う。その様子に気付いたチイとハンゾウは慌てて距離を取ると、直後に砲口から水属性の魔力が放たれた。
魔導大砲の砲撃が直撃したジャンの肉体は粉々に吹き飛び、周囲一帯が凍り付く。その光景を見ていた者達はジャンを倒したように見えたが、既にジャンの放った黒炎は王城へと向かっていた――
――王都の北側に存在する王城では剣の魔王であるバッシュが鎮座しており、彼は上空から迫る気配を感じとると、顔を向ける。
ガアアアアッ――!!
竜種のような咆哮を放ちながら近付いてくる黒炎を見たバッシュは即座に状況を理解し、鬼王を構えた。上空から落ちてきた黒炎は鬼王の刀身に飲み込まれるように消え去り、やがて鬼王はより一層に魔力を纏う。
ジャンの魂と闇属性の魔力を吸収した事で鬼王はより禍々しい魔力を纏い、その様子を見たバッシュは頷くと、最後の最後に自分のために身を捧げたジャンに告げた。
『お前も逝ってしまったか……ここまでよくやってくれた。お前の仇はこの俺が必ず討とう』
黒炎を吸収した事で更なる力を得たバッシュは再び座り込み、勇者が訪れるのを待つ。だが、座っているだけでも彼の放たれる魔力の影響を受けて王都内でも異変が生じていた――
――王都では未だに避難が行われており、街の住民は外へ移動していた。兵士達の誘導の元、都の中に残っていた数万人の民の避難は終了していない。
「いったいどうなってるんだ、この国は!!次から次へと災厄が訪れて……」
「勇者様は何をしているんだ!?」
「くそっ、気分が悪い……まだ外に出られないのか?」
「お母さん、どこ!?うえええんっ!!」
「落ち着いて下さい!!我々が皆さんを守ります、だから焦らないでください!!」
攻撃を受けた東門以外の城門には大勢の住民と兵士が集まっており、彼等を外まで避難させる準備が行われていた。とりあえずは王都付近の村や街に住民を一時避難させようとしていたが、ここで人々は異変が起きた。
「うっ……な、何だ?」
「さ、寒気がする……」
「ど、どうして……」
「震えが止まらない……な、何が起きてるんだ?」
唐突に獣人族の住民は身体が震え始め、まるで大型の肉食動物を前にした小動物のような気分に陥る。獣人族は六種族の中で危険を察知する本能が優れており、彼等の肉体は理解した。王城から感じられる禍々しい気配を――
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