第838話 3発目
「私達の剣を!!」
「どうか風の力で冷やしてほしいでござる!!」
チイとハンゾウが森の戦士達に対して叫ぶと、その声を聞いた戦士達は驚くが、すぐに二人の意図を察した戦士長のリドは攻撃を行う。
「よかろう、しっかりと持っていろっ!!はああっ!!」
「うわっ……助かった!!」
「かたじけない!!」
リドは二人が掲げた聖剣に風の刃を放つと、刀身に帯びた熱が風の力によって緩和し、これで火傷は避けられる。風の力で熱を散らしたチイとハンゾウは頷き、これで巨人に攻撃を再開できる。
だが、攻撃するにしても生半可な攻撃では巨人の肉体は削り切れず、確実に損傷を与えるにはもっと攻撃範囲の大きい攻撃を繰り出さなければならない。そこでハンゾウは鞘にフラガラッハを抑め、チイはシロに出来る限り近付くように促す。
「シロ、頼んだぞ……奴の頭上まで跳べ!!」
「ウォンッ!!」
「拙者達も続くでござる!!」
「ウォオンッ!!」
チイを乗せたシロが走り出すとハンゾウを乗せたクロもその後に続き、森の戦士達の攻撃で注意を逸らされた巨人に向かう。この時に巨人は視界の端に接近する二人の姿を捉え、4本の腕を伸ばす。
『ウガァアアアッ!!』
「シロ!!」
「クロ!!」
「「ウォオオオンッ!!」」
伸びてきた4本の腕に対してシロとクロは上空に飛びあがると、その背中に乗っていたチイとハンゾウは迫りくる腕に対して跳躍を行う。
迫りくる4本の腕に対してチイは両手で聖剣を構えた状態で身体を回転させ、一方でハンゾウの方は鞘に納めた聖剣を握りしめると、狙いを定めて刃を抜く。
「和風牙!!」
「居合!!」
『アギャアアアアッ!?』
4本の腕を二人が放った戦技によって切り裂かれ、切り落とされた4つの腕が地面へ衝突する。これによって巨人は更に肉体が縮小化すると、遂には4メートル程度の大きさへと変化する。
これでは大柄の巨人族と同程度の大きさしか存在せず、相手が小さくなった事で恐怖を抱いていた兵士達も勇気づけられ、戦う覚悟を決める。
「や、やった!!また小さくなったぞ!!」
「今なら倒せるかも……」
「そうだ、勝てるぞ!!もう少しで勝てるんだ!!」
「うおおおっ!!団長に続けぇっ!!」
縮小化した巨人の姿を見て兵士達も動き出し、一気に襲い掛かる。巨人は迫りくる兵士達に対して怒りを露にするが、もう先ほどまでの威圧感はない。
『ガアアアッ!!』
「ぐっ……怯むな、こいつはもう終わりだ!!」
「何でもいいから投げつけろ!!」
「力を合わせるんだ!!」
兵士達は巨人に対して有効な攻撃手段は持っていないが、それでも国を守るために彼等は戦う。森の戦士達もチイとハンゾウも彼等に続き、巨人を打ち倒そうとした時、ここで強烈な竜巻が巨人を取り囲む。
『アガァッ……!?』
「な、この竜巻は……」
「まさか……族長!?」
「何故だ、どうしてこんな時に!?」
巨人を取り囲んだ竜巻の正体が族長の芭蕉扇による攻撃だと悟った戦士達は驚いて城壁に振り返ると、そこには芭蕉扇を掲げる族長の姿が存在し、その隣には魔導大砲を構えるリリスとネコミンの姿が存在した。
「リリス、もう撃ってもいい?」
「まだですよ、私が合図したら撃ってください。照準をちゃんと合わせないと……よし、今です!!」
「んっ!!」
フラガラッハを装備したネコミンはリリスの合図の元、魔導大砲を発射させる。本来は距離が開きすぎると威力は発揮できないとリリスは言っていたが、現在の弱り切った巨人を倒すには十分な威力はあった。
城壁から発射された魔導大砲の砲弾は竜巻に覆われた巨人の元へ向かい、どうにか逃げようとした巨人だったが、竜巻に阻まれて逃げる事が出来ない。やがて巨人を取り囲む竜巻に水属性の魔力の砲弾が衝突すると、竜巻に水属性の魔力が流れ込まれ、まるで冷気の嵐と化す。
『アギャアアアッ!?』
「うわっ……下がれ、皆!!」
「氷漬けにされるでござる!?」
「「キャインッ!?」」
竜巻に水属性の魔力が帯びた影響で竜巻全体に冷気が発生し、中心部に存在する巨人だけではなく、周囲の者達にも冷気が放出される。慌ててシロとクロに乗り込んだチイとハンゾウは離れると、他の兵士や戦士達も避難を行う。
――アァアアアアッ!?
竜巻の中で巨人はもがき苦しみ、全身の炎が徐々に冷気の竜巻によって削り取られて生き、身体が縮小化していく。やがて竜巻が消えた頃にはもう巨人の姿は見当たらず、残されていたのは種火程度の黒炎だけだった。
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