第835話 恐怖の伝染

「ぎゃあああっ!?」

「うわぁああっ!?」

「な、何が……ひいいっ!?」



地面が盛り上がった瞬間、黒炎の腕が出現して兵士達を薙ぎ払う。吹き飛ばされた兵士達は黒炎が全身に襲い掛かり、身体が焼き尽くされていく。



「いぎゃあああっ!?」

「お、おい!!落ち着け、こっちに来るな……がああっ!?」

「いかん!!この炎に触れるんじゃない!?少しでも触れたら焼き尽くされるぞ!!」



炎を浴びた者に触れると、炎が燃え移ってしまい、次々と被害者が増していく。しかもただの炎ではないため、水を浴びようが地面にこすりつけようが消える事はない。


次々と兵士達に燃え移っていく黒炎を見て城壁の上のリルは歯を食いしばり、このままでは地上の兵士が全滅してしまう。だが、対抗しようにも相手は地中の中を潜っており、攻撃手段がない。



「くそっ!!何処だ、何処に隠れた!?」

「落ち着け、取り乱しても何も好転はせんぞ!!奴が地中から現れた時、攻撃するしかあるまい」

「しかし、何処から現れるのか……」



カレハはリルを落ち着かせようとするが、話し合っている間にも地面が盛り上がり、今度は炎龍の尻尾が出現した。尻尾を鞭のようにしならせ、地上の兵士達へ向けて薙ぎ払われる。



「うぎゃあああっ!?」

「や、止めてくれぇっ!!」

「いやだぁああっ!?」



今度は一気に100名を超える人数が黒炎へと襲われ、身体が焼かれていく。その光景はあまりにも無惨で見た者は恐怖を抱き、兵士達は怯え始める。


相手が生身の生物であれば勇敢な兵士達は戦えたかもしれない。だが、相手は普通の生物ではなく、肉体に触れるだけで焼き尽くされる存在となると兵士達が怖気づくのも仕方がない。相手が地中に隠れて攻撃する事もあり、何時どのような状況で攻撃を仕掛けられるか分からない事もあって兵士達の恐怖は最高潮に達した。



「も、もう駄目だ……逃げろ、逃げるんだ!!」

「こんなの勝てるはずがない!!」

「嫌だ、もう戦いたくない!!」



兵士達が怯え始めた様子は城壁の上から確認したリルは歯を食いしばり、この状況で彼等に戦えというのはあまりにも酷な話だった。だが、ここで引き下がれば今度は王都が危険に晒される。


まだ王都には数万人の住民が残っており、避難も完了していない。そんな状況で炎龍が乗り込めばどれだけの被害が生まれるのか想像もつかない。



「――逃げるな、怯えるな、戦え!!我々がここで退けばお前達の家族や、友人が、仲間がどうなると思う!!戦え、最後まで戦えっ!!」

『っ――!?』



リルの声が響き渡り、その言葉を耳にした兵士達の動きが止まる。そして真っ先に動いたのは白狼騎士団の面々であり、彼等は武器を掲げて地上から出現した炎龍の尻尾へと向かう。



「女王陛下の命令だ!!戦えっ!!戦うんだ!!」

『うおおおおおっ!!』



オウソウを筆頭に騎士団も動き出し、聖水を振りかけた武器を手にして彼等は炎龍のの尻尾へと向かう。その姿を見て聖水が手元にある兵士達も、覚悟を決めた様に立ち向かう。



「続けぇっ!!」

「王国兵士の意地を見せろ!!」

「やってやらぁっ!!」



兵士達も聖水を手にすると炎龍の尻尾に目掛けて接近し、聖水の入った小瓶を投げ込む。聖水が炎龍の尻尾にふりまかれ、さらに聖水を浴びた武器が次々と炎龍の尻尾を襲う。




『ッ――――!?』




地中に存在する炎龍の呻き声が響き渡り、尻尾を攻撃された炎龍は慌てて地中の中へと引き返す。攻撃を受けた事で警戒したのか今度は瞬時に出てくる様子がない。


だが、このまま黙って引き返すはずもなく、しばらく経過すると炎龍は遂に城門の前の地面から顔を出現させると、咆哮を放つ。



『アギャアアアアッ!!』

「ぐうっ……!?」

「何という声を……!?」



城壁の上に立っていたリル達は遂に姿を現した炎龍と対面し、すぐに炎龍の行動を読み取る。炎龍は口元を開くと黒炎を迸らせ、城門を破壊しようとしていた。それを見たリリスは即座に魔導大砲の向きを変えると、ハンゾウに合図を出す。



「ハンゾウ!!やっちゃってください!!」

「合点承知!!」



ハンゾウは魔導大砲を点火させると、フラガラッハの効果によって限界まで攻撃が強化された砲撃が発射された。魔導大砲から放たれたのは水属性の魔弾であり、水属性の魔力が光線の如く放たれ、炎龍の頭部を撃ち抜く――

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