第834話 守備軍VS炎龍

「あの様子を見る限りだとやっぱりあんな姿になっても聖属性が弱点らしいですね!!それに水属性も十分に効果がありそうです!!」

「リリス、水属性か聖属性の魔石の砲弾はあるのか?」

「あいにくと聖属性はありませんね。攻撃には向かない系統ですし、それに聖属性の魔石は教会が独占しているので……」



水属性の魔石はともかく、聖属性の魔石に関しては生産方法は陽光教会が独占しており、彼等しか製造方法を知らない。そもそも聖属性の魔石は浄化や回復魔法などに利用されるため、攻撃に特化しているわけではないので流石のリリスも聖属性の魔石の砲弾は用意していなかった。


先ほどの攻撃で水属性の魔石の砲弾も炎龍に有効なのは判明し、幸いにも残りの魔導大砲の数の分の砲弾は用意されていた。しかし、炎龍を確実に倒すためには残りの3つの魔導大砲を確実に的中させなければならない。



「チイ、ハンゾウ、ネコミン、君達が頼りだ。フラガラッハを持っているの君達だけだからな」

「は、はい!!」

「そう言われると緊張するでござる……」

「これ、どうやって撃てばいいの……?」



残されたの魔導大砲の準備はフラガラッハを所持しているチイ、ハンゾウ、ネコミンに任せるしかなく、フラガラッハの効力で魔導大砲の威力を強化できるのはこの3人しかいない。


聖剣であるフラガラッハは所有者の変更は簡単には行えないため、この3人以外に魔導大砲を扱える者はいない。狙いを定める程度の補助ならば問題はないが、最終的に砲撃を撃ち込むのはこの3人である。



「陛下、炎龍が動き出しました!!どうやら再び飛び上がるつもりのようです!!」

「何だと!?」

「そうはさせぬわ、皆の者!!行くぞ!!」

『はっ!!』



兵士の言葉にリル達は地上を移動する炎龍に視線を向けると、再び羽根を広げて上空へと飛び立とうとしている姿があった。それを確認したカレハは森の民の戦士達に命じると、彼等は剣を構えて攻撃を行う。



「何としても空へ逃がしてはならん!!奴が飛べぬようにあの羽根を切り落とせ!!」

『はっ!!』



森の戦士達は剣を振りかざすと、風の精霊の力も借りてカマイタチのように風の魔力の斬撃を放ち、上空へ跳ぼうとする炎龍の羽根に攻撃を行う。風の斬撃が性とする度に炎龍の羽根が切り裂かれ、体勢を崩した炎龍は地上へ倒れ込む。



『ガアアッ……!?』

「おおっ、効いているのか!?」

「いや……よく見てください。切り裂かれてもすぐに身体は元に戻っています。どうやら風属性の攻撃では致命傷を与えられないようですね」



火属性が風属性に強いせいか、炎龍の肉体は羽根が切り裂かれても瞬時に再生を果たし、攻撃自体を受け付けていない。確かに切られれば形が崩れるのだが、瞬時に再生してしまうために有効打とはなり得ない。


やはり炎龍を仕留めるには聖属性と水属性のような相性の良い攻撃でしか通じず、その事を理解した者達は次の攻撃へと移る。炎龍が羽根を切り続けられて飛べない間に今度は地上の騎士団も動き出す。



「槍を放て!!奴を串刺しにしろ!!」

「うおおおっ!!」

「くたばれ、怪物がぁっ!!」



炎龍が動けない隙に地上の兵士達は槍を投擲し、当然だが刃先には聖水を浸している。放たれた槍は次々と炎龍の肉体に突き刺さると、炎龍は呻き声を上げる。



『アガァッ……!?』

「き、効いてるぞ!?」

「よし、早く次を投げろ!!」

「この化物がぁっ!!」



聖水を浴びた武器ならば通用する事が証明され、兵士達は次々と槍の投擲を行う。だが、それに対して炎龍も流石に黙って見ているはずがなく、両腕を振りかざして地面へと叩き込む。



『ガアアアアッ!!』

「うわぁっ!?」

「な、何だぁっ!?」

「ひいいっ!?」



地面に炎龍の両腕が叩き込まれた瞬間、強烈な振動が周囲へと広がり、地面が砕けるのと同時に土煙が舞い上がる。土煙によって炎龍の姿は覆い隠され、それを見たカレハは危険を察して芭蕉扇を取り出す。



「皆の者、下がれ!!」

「族長!?駄目です、これ以上に力を使うのは……」

「そんな事を言っている場合か!!」



既に疲労した状態のカレハにこれ以上の魔法を使用させるのは危険な行為である事は理解しているが、それでも彼女は止まらずに芭蕉扇を放つ。


芭蕉扇から繰り出された突風が炎龍の生み出した土煙を吹き飛ばすと、そこには炎龍の姿は存在せず、20メートル近くの巨体が完全に消えていた。そして炎龍が立っていた場所には巨大な穴が存在し、それを見たリル達は驚愕の表情を浮かべる。



「き、消えた!?」

「いえ、違います……これは、まさか!?」

「地面に潜ったのか!?」



信じられない事に炎龍は土煙に身を隠した一瞬の間に地面に潜り込み、姿を消した。そして残された大穴から考えられるのは地中へと潜り込んだとしか考えられない。


その予想は正しく、炎龍が消えた場所から少し離れた地面が盛り上がると、兵士達が存在する場所に向けて地面が盛り上がっていく。地中の中に潜り込んだ炎龍が移動しているのは間違いなく、やがて地上に降りた兵士達は吹き飛ばされる。

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