第833話 炎龍
黒炎の肉体と化した炎龍は牙山の頂上に辿り着くと、遠目から見える王都に視線を向け、全身を変化させる。まるで火山の噴火の如く、肉体を流動化させて遥か上空へと移動を行う。
牙山の頂上から上空へ飛び立った炎龍は羽根を広げ、王都へ向けて移動を行う。その姿はまるで始祖の魔王が憑依した雷龍と酷似しているが、始祖の魔王と違う点は現在の炎龍に実体はない。
『ウォオオオオンッ!!』
理性も完全に失った炎龍は咆哮を放ち、そのおぞましい鳴き声を耳にした生物たちは悲鳴を上げて逃げ出す。地上に生息する動物や魔物は炎龍の姿を見ただけで恐れおののき、逃走した。
『アアアアアアッ!!』
そして遂に炎龍は王都に接近すると、城壁に待ち構えていた王都の守備軍も動き出し、まずは魔導大砲で攻撃を行う。
「遂に来ましたよ!!チイさん、やっちゃってください!!」
「ほ、本当に私が撃つのか!?」
「いいから早く撃ってください!!こっちに来ますよ!!」
魔導大砲には何故かチイが存在し、彼女が砲口を炎龍に定め、点火の準備を行う。どうしてチイがこの役目を担っているかというと、彼女が装備している武器が関係している。
――チイはレアが制作したフラガラッハを装備しており、フラガラッハには攻撃力を増加する機能が備わっている。その機能を利用して魔導大砲の威力を最大限に引き得上げようという試みだが、そのためにはフラガラッハを装備している者が攻撃を行わなければならない。
魔導大砲の発射の準備はリリスが行い、最終的にチイが点火する事によって効果を発揮する。この方法を思いついたのはリリスだが、実際に行うのは初めてだった。
「本当に上手く行くのか!?」
「やってみないと分かりませんよ!!ほら、今です!!」
「くぅっ……どうなってもしらないぞ!!」
リリスの言われるままにチイは魔導大砲を発射させると、砲口から青色の光が放たれ、一直線に空を飛行する炎龍に向けて放たれる。その攻撃に対して炎龍は胴体の部分が射抜かれ、驚愕の表情を浮かべた。
『ガハァッ!?』
「や、やった!?」
「一発で倒したのでござるか!?」
「水属性の砲弾でしたが……効果は抜群ですね!!」
砲撃というよりも光線の如く発射された魔石の塊が見事に炎龍の胴体を貫き、発射されたのは火属性を打ち消す水属性の魔石で合った事が幸いしたのか、炎龍は胸元を完全に貫かれた。
普通の生物ならば胸元を射抜かれれば即死は免れないが、現在の炎龍の肉体は黒炎で構成されているため、胸元に空いた大穴も瞬時に塞いでしまう。
『グゥウウウッ……!!』
「だ、駄目か!?塞がってしまったぞ!!」
「再生能力も持っているのか……」
「いえ、違います!!再生というよりは他の箇所を引き寄せて傷口を塞いだように見えます!!ほら、ちょっとだけ身体が縮んでますよ!?」
「言われてみれば確かに……」
リリスの言葉に地上の者達は炎龍の肉体が僅かにだが縮小化している事に気付き、どうやら魔導大砲の攻撃で黒炎の一部が失った事により、炎龍が弱体化した事を知る。
炎龍の肉体はあくまでも黒炎によって構成された存在であるため、その黒炎を削り切れば肉体を維持できずに消滅する。その事を見抜いたリリスは黒炎を削り取る攻撃を促す。
「奴も不死身ではありません!!この調子で攻撃を続けて黒炎を引き剥がしましょう!!」
「だが、もうこの魔導大砲は使えないぞ!?」
チイは魔導大砲を指差すと、先ほどの攻撃の際に魔導大砲は完全に壊れてしまった。想定以上の攻撃威力によって魔導大砲は壊れてしまい、完全に使い物にならない。
残りの魔導大砲の数は3つだけであり、この3つを使用して炎龍を何とか倒さなければならない。だが、炎龍も先ほどの攻撃を受けて警戒心を高め、上空を移動するのを止めて地上へと降りたつ。
『ウグゥウウウッ……!!』
「くっ……何という威圧感だ」
「怯むな!!ここで我々が食い止めなければこの街は終わりだぞ!!」
「全員、聖水の準備は出来たか!!行くぞ!!」
地上の者達は聖水を使用して武器に降り注ぎ、聖属性の魔力を武器に宿す。黒炎を形成するのは闇属性の魔力も混じっているため、聖属性の武器でも効果はあるはずだった。
弓兵は矢を撃ち込む際に矢じりに聖水を含め、炎龍へ向けて放つ。矢に浸す程度ならば無駄に聖水を使用する必要もなく、次々と撃ち込める。
「矢を放て!!奴を仕留めろ!!」
「撃て撃てっ!!」
「くたばれ、化物め!!」
数百の兵士が矢を構えると、地上へと降りたった炎龍へ向けて一斉に放つ。その攻撃を目にした炎龍は意外な事に矢を警戒したように動き出し、距離を置く。
どうやら炎龍は矢から放たれる聖属性の魔力に気付いたらしく、警戒したように距離を置くと、攻撃を回避していく。その様子を見ていたリルはやはり炎龍の弱点が聖属性である事を見抜いた。
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