第836話 死肉の砲弾

――炎龍の頭部が光線によって撃ち抜かれた瞬間、誰もがその光景を見て勝利を確信しかけた。普通の生物ならば頭を貫通すれば生きているはずがない。


しかし、すぐに察しの良い者ならばこの程度の攻撃では炎龍は倒す事が出来ないのは予測済みだった。なぜならば現在の炎龍は普通の生物ではなく、炎の塊のような生物なのである。


現在の炎龍は黒炎が竜の形に変化した存在に過ぎず、頭を吹き飛ばした所で炎の一部が損失したに過ぎない。実際に炎龍は頭部が撃ち抜かれた直後、瞬時に他の箇所から炎を引き寄せて再生を果たす。



『アガァアアアアッ!!』

「駄目だ、また再生しました!!」

「いいえ、でもまた小さくなりましたよ!!やっぱり攻撃は通じてるんです!!」



二度目の砲撃を受けた際に炎龍も大部分の黒炎を失い、肉体が更に縮小化した。現在は元の状態の半分近くにまで戻っており、やがて炎龍は地中から抜け出す。


予想通りに現在の炎龍の体型は元の半分程度しかなく、この調子ならば残りの二つの魔導大砲を撃ち込めば炎龍を追い詰める可能性も出てきた。だが、炎龍も流石に二度の攻撃を受けて警戒したように城壁から離れた。



『グウウッ……!!』

「あ、やばい……あんまり離れすぎると魔導大砲の威力も低下します!!どうにか至近距離から撃ち込まないと……」

「また奴が城壁に近付けさせないと駄目という事か!?」

「この魔導大砲とやらを移動させる事は出来ないの?」

「無理ですよ、しっかりと固定しないと発射する時にバランスを崩して狙いが大きく反れる可能性もありますからね」



魔導大砲は発射の際に強烈な反動があるため、固定した状態で撃ち込まなければならない。そのために運び出した魔導大砲は全て城壁に固定しており、方向を変える程度ならば出来るが持ち運ぶ事は不可能だった。



「奴をもう一度この場所へ引き寄せなければならないか……聖水の攻撃は受けるようだが、致命傷は与えられないようだな」

「恐らくは闇属性よりも火属性の性質の方が高いんでしょうね。こんな時に人魚族の方々がいればよかったのに……」

「ない物ねだりをしてもしょうがない」



人魚族がここにいれば彼等の魔法で炎龍にも対抗で来たかもしれないが、海底王国からケモノ王国まで相当な距離が存在し、転移台が使用できない状況では彼等を呼び寄せる事も出来ない。


現状の戦力だけで炎龍に対抗するしかないのは理解しているが、やはりこの場に勇者達がいないのは痛手だった。だが、必ずやレア達はここへ向かっている事を信じてリルは指揮を執る。



「必ずレア君は来てくれるはずだ……最後まで諦めるな、戦うんだ!!」

「うむ、確かにそれはその通りじゃが……勇者、か」

「族長?何か考えがあるのですか?」



リルの言葉にカレハは何か考え込み、その様子を見てリドが尋ねるが、その返答を聞く前に炎龍が動き出す。




――オァアアアアッ!!




炎龍は咆哮を放つと同時に再び形を変化させ、今度は人型へと姿を変えていく。先ほどまでは火竜や牙竜を想像させる姿だったが、今度は元々の「竜人」に近い姿へと変化を果たす。


龍の姿から今度は漆黒の巨人と変化した存在は兵士達に視線を向け、続いて城壁に顔を向ける。炎龍から巨人へと変化を果たした相手にリル達は戸惑うが、やがて巨人は動き出した。



『アアアアッ!!』

「なっ!?」

「こ、こっちに来るぞっ!?」

「いかん、退けぇっ!?」



巨人は真っ先に白狼騎士団の元へ駆け出し、その様子を見ていた騎士達は慌てて引き下がろうとしたが、彼等が逃げる前に巨人は腕を伸ばすと数名の騎士を掴み上げる。



「ぎゃああっ!?」

「や、焼かれ……あああっ!?」

「助けてくれぇえええっ!?」

「お、お前達!!くそ、離せっ!!」

「駄目だ、オウソウ!!近づくな、お前も焼かれるぞ!?」



数名の騎士を巨人は両手で掴み上げた途端、巨人が纏う黒炎が騎士達へと襲い掛かり、身体を焼き尽くす。その光景を見たオウソウは咄嗟に彼等を助けようとしたが、他の者がそれを止めた。


もう助けた所で黒炎に覆われた者達を救い出す手段はなく、やがて騎士達は力尽きたのか動かなくなった。その様子を確認した巨人は城壁に視線を向け、あろう事か握りしめた騎士達の死体を投げ込む。



『ガアアッ!!』

「なっ……皆、避けろっ!!」

「いかん、逃げるのじゃ!?」

「ひいっ!?」



死体を投げ込んできた巨人の姿を見て慌てて城壁の上に立っていた者達はその場を離れると、投げ込まれた死体が城壁へと叩き込まれ、どれほどの力で投げ込まれたのか城門付近の城壁に突き刺さり、罅割れが生じた。


騎士達をまるで砲弾の如く投げつけてきた巨人の行動にリル達は顔色を青ざめるが、その間にも巨人は地上の兵士達に視線を向け、彼等を放り込むために腕を伸ばす。

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