第831話 怯える火竜

「今更水臭い事を言ってんじゃねえよ。それによ、魔王軍の奴等は俺達も迷惑してるんだ」

「そうそう、その悪い人たちのせいでシュン君も酷い目に遭ったんだよね?なら、許せないよ〜」



魔王軍との因縁は帝国に所属する勇者二人ともあり、そもそも魔王軍を倒すためにこの場の3人は地球から召喚されたのである。そう考えれば魔王軍を倒すために勇者同士が力を合わせるのは至極当然だった。


現在では所属する国は違えど、元々は同じ世界の人間であるため、シゲルもヒナもレアの立場など気にしない。そもそも二人の場合は立場などをあまり気にする正確ではなく、シュンと違って二人とも頭は固くはない。



「俺達は勇者以前にクラスメイトなんだからよ、変にかしこまる必要なんてないだろ」

「そうだよ〜それにレア君にはいっぱい助けて貰ったからね。今度は私達がお返しする番だよ〜」

「そうか……なら、ついでにもう一つの秘密を明かしたいんだけど、いいかな?」

「なんだよ、まだあるのか?」



レアの言葉にシゲルは頭を掻き、ヒナもレアがどのような秘密を抱えているのか気になると、この際にレアは二人に自分のもう一つの秘密を明かそうとした。



「実は俺の能力を使えば……何だ!?」

「ひうっ!?」

「ガアアッ!?」

「えっ!?きゅ、急にどうしたんだよ!?」



秘密を明かす前にレアとアカとヒナは同時に同じ方向に振り返り、嫌な予感を抱く。その様子を見てシゲルは何事かと思うが、唐突にヒナは身体を震わせて座り込む。



「な、何……この、嫌な感じ……!?」

「ど、どうした!?いったい何があった!?」

「この感じ……俺の魔力感知が発動している。でも、何か変だ!!」

「ガウウッ……」



レア達はキャンピングカーから抜け出すと、北東の方角に視線を向ける。何かは分からないが、強大な魔力を持つ存在が移動している事を感じとる。


魔力感知の技能はレアだけではなく、勇者の中で唯一の魔術師であるヒナに至っては最初から習得していた。火竜のアカの場合は優れた野生本能が危険を伝えているらしく、シゲルの方も3人が見つめる方向を見て表情を険しくさせた。



「な、何だ……あっちの方からなんか、変な感じがするな」



シゲルはこの世界で初めて竜種と遭遇した時の事をシゲルは思い出し、圧倒的な存在感を放つ竜種と対峙した時、彼は自分が兎のようなか弱い動物になったような気分だった。しかし、今はそれ以上の感覚に陥り、まるで自分が昆虫の様に力の弱い存在になったような気分である。


すぐにレアは地図製作を発動させ、ケモノ王国内の領地の表示できる範囲を開く。その結果、巨大な敵の反応が表示され、しかも王都へ向かっていた。現在は牙山へ近付いており、もう間もなく王都へ辿り着ける様子だった。



「何だ、この反応……まさか、竜種なのか!?」

「竜種だと!?それ、やばいんじゃないのか!?」

「また、森の中で襲ってきたおっきな亀さんみたいなのが現れたの!?」

「ガウッ……」



反応を確認したレアはそのあまりの大きさから普通の生物ではないと判断し、このままでは王都へ辿り着く事を確認する。ここから王都まではかなりの距離が存在し、すぐに戻る事は出来ない。



「もう休んでいる暇はない……急いで王都へ戻らないと!!」

「戻るって、どうやってだよ!?」

「で、でも……本当に放っておいたらまずい気がするよ。怖いけど、行かないと駄目な気がする……」



ヒナも王都に接近する敵の存在に気付き、このまま自分達が王都へ戻らなければ王都は無事では済まない。だが、戻るにしても方法は限られており、レアはアカへ振り返る。



「アカ、王都まで俺達を運んでくれ!!」

「ガウッ!?」

「おい、待てよ。こいつも疲れてるんだろ?それにそんなにすぐに王都へ辿り着けるのか?」

「そんな事を言っている場合じゃないんだよ!!他に方法はないんだ、頼むよアカ!!」

「ガウウッ……」



レアの言葉に対してアカは怯えた表情を浮かべ、ヒナの後ろに隠れてしまう。優れた野生本能が危険な存在に近付く事を拒否しており、その様子を見てヒナも可哀想に思う。



「だ、駄目だよ〜こんなに怯えているのに無理をさせたら可哀想だよ〜」

「でも、他に方法が……」

「おい、本当に何とかならないのか!?そうだ、なら自動車でも飛行機でも作って飛べばいいんじゃないのか!?」

「無理だ、自動車で移動するにしても牙山は通り抜けられないし、飛行機だと俺達は運転なんて出来るはずが……」



シゲルの言葉にレアは途中で言葉を止め、ここである事を思いつく。この方法が上手く行けばもしかしたら王都へ辿り着ける可能性もあるが、危険も大きい。だが、自分の能力を信じてレアは挑む事にした。



「二人とも……俺に命を預けてくれる?」

「え?」

「な、何をするつもりなの?」

「……飛ぶんだよ、今から」



レアの言葉に二人の勇者とアカは意味が理解できずに首を傾げるが、この数分後に二人はとんでもない目に巻き込まれる事になる――

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