第829話 魔王を越えし魔力
「現在の所、魔王が動く様子はないでござる。恐らく、ここへレア殿が戻ってくるまで待ち構えるみたいでござる」
「そうか……」
「但し、拙者の眼から見ても魔王の様子が少しおかしかったでござる」
「おかしい?どういう意味だ?」
「全身に闇属性の魔力を纏っているというか……黒色の膜のような物で覆われていたでござる」
ハンゾウが調査した際、魔王の様子を伺った際は既にダークは死亡し、魔王自身はもう死霊人形から解放されていた。現在の魔王は闇属性の魔力を全身に覆い込む事で肉体に無理やりに憑依している状態である。
「魔力を膜状にして全身を覆い込んでいた?リリス、何をしているのか分かるか?」
「さあ、流石にそれだけでは分かりませんね。でも、魔力を操作するという点ではネコミンさんの魔爪術と通じる点がありますね」
「魔力を実体化させて身体を覆っているなら、自分の身を守っているのかもしれない」
ネコミンは魔術師ではあるが、彼女は自分の魔力を実体化させて獣の爪のように変化させて身に纏う事が出来る。但し、ネコミンの場合は手元の部分を魔力で覆い込むのが限界なのに対し、魔王の場合は全身に幕を覆い込んでいるという点が気にかかった。
時刻は現在は夜を迎えており、本来であればアンデッドや死霊人形にとっては最も力を発揮する時間帯だった。だが、それにも関わらずに魔王が動き出す様子がない事から本気でたった一人でレアを待ち構えている事を意味している。
「どうします?爆薬でも送りつけて嫌がらせでもしますか?」
「恐ろしい事をさらりと言うでござるな……しかし、爆薬程度でどうにかなる相手ではないと思うでござるよ」
「そうだ!!なら飛行船に積まれていた魔導大砲で攻撃を仕掛けるのはどうだ!?あの大砲の威力ならばもしかしたら損傷を与えられるかも……」
「無理ですよ、飛行船が墜落した時に魔導大砲も駄目になりました。今の所は修理に専念していますが、少なくとも修理には数日が掛かります」
「なら修道女を集めて浄化の魔法を使わせるのはどうだ?奴がどれだけ強くとも、所詮は死霊の類ならば浄化の魔法は有効的なはずだ」
「確かにそうだろうが、下手に修道女を近づければ無惨に殺される可能性が高いな。あれほどの戦闘力を持っているんだ、浄化の魔法を発動する前に動くだろう」
バッシュの戦闘力ならば仮に軍隊を派遣しても手も足も出ず、返り討ちにされる可能性が高い。その後も色々と案が出てきたが、結局は良案は見つからない。
これまでに戦った始祖の魔王や地の魔王などの存在はレアがいたからこそ対処出来たが、そのレアに頼れない今では魔王に対抗する手段が思いつかない。ここまで来てリル達は自分達がどれだけレアに頼り切っていた事を思い知らされる。
「こんな時にレア君がいれば……」
「レアさんが戻ってくるまで時間は掛かりますね。転移台が使えませんから、それに今も修行中だとしたら戻ってくるのは更に長引きますね」
「いや、そうでもないぞ」
「カレハ殿!?」
会話の際中にカレハが割込み、彼女は車椅子に乗っていた。車椅子を運ぶのは戦士長であるリョクであり、カレハは掌を空に翳して瞼を閉じる。
「風の精霊が知らせてくれている……勇者様達を乗せた火竜がこちらへ向かっていると、恐らくだがこの移動速度ならばそれほど時間は掛からぬ」
「それは本当ですか!?」
「そうか、レア君が来てくれるのなら……」
「だが……こちらへ近付いているのはどうやら勇者様達だけではないようじゃ」
『えっ?』
カレハは眉をしかめ、目元を開くと険しい表情を浮かべる。そんな彼女の態度にリル達は戸惑うが、カレハは東の方角を指差す。
「東の方角からこちらに向かう禍々しい魔力を感じ取った。恐らく、夜が明ける前にこちらへ辿り着くだろう」
「何だって!?」
「禍々しい魔力……まさか、魔王軍ですか!?」
「分からぬ……だが、この魔力量は城の中に閉じこもっているバッシュよりも大きいぞ」
「バッシュよりも……!?」
魔力の量だけならば東の方角から接近する存在の方がバッシュをも上回り、しかも移動速度が尋常ではない。恐らくは夜が明ける前に王都へ到着するという言葉に全員に戦慄が走る。
指示を仰ぐように全員がリルに視線を向けると、彼女は考えた末にまずは動きを見せないバッシュよりも王都の守護のため、迎撃の準備を進めた。
「リリス!!王都の城壁にも魔導大砲を設置する予定だったな?」
「ええ、まあ……東西南北の城門に魔導大砲を設置していますよ」
「ならばその魔導大砲は使えるんだな?」
「使おうと思えば使えますけど、飛行船の物よりも旧式なので1発撃てば壊れちゃいますよ?」
「1発か……ないよりはましだ、すぐに東門に動かせる魔導大砲を集めるんだ!!私達も迎え撃つ準備を行う、住民の避難も急げ!!」
『はっ!!』
リルの号令の元、兵士達は迅速に行動を開始し、こちらへ近寄る圧倒的な魔力を放つ存在に対して迎撃の準備を行う。
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