第827話 王都へ向けて
アカに乗り込んだ3人は王都へ向けて移動を開始し、今現在のアカの移動速度ならば半日も掛からずに王都へ辿り着けるだろう。だが、王都へ辿り着く前に問題があった。
「二人とも……王都へ辿り着いたら魔王軍と戦闘になるかもしれない。だから自信がなかったら途中で何処か安全な場所に降ろすから、その時は後で迎えに来るまで待っててくれる?」
「えっ!?」
「おい、今更何言ってんだ!!俺達だって戦うぞ、こんな目に遭わされて黙ってられるか!!」
レアの言葉にヒナは驚き、シゲルは反対するが、この二人は直接的に魔王軍と戦った事はないはずだった。だからこそレアは注意する。
「魔王軍と戦闘になった時、相手は全力で殺しに来る。そうなった場合、二人は本当に戦えるの?」
「あうっ……」
「……へっ、舐めんなよ。俺達だって今日まで遊んできたわけじゃねえ。誰であろうとぶっ飛ばしてやる!!」
魔王軍と戦う覚悟があるかを問われてヒナは悩むが、シゲルの方は覚悟は決まっていると伝える。しかし、本当に魔王軍との戦闘になった場合、真っ先に狙われるのは「勇者」と呼ばれる存在であるのは間違いない。
勇者の事を誰よりも警戒しているのが魔王軍であるため、彼等はどんな手を使っても勇者を葬ろうとするだろう。実際にレアは何度も命を狙われ、シュンに至っては連れ攫われている。だからこそシゲルとヒナは自分の身を自分で守れるぐらいに力を付けさせるため、修行を行わせた。
二人とも帝国にいた時よりも確実に成長しており、今ならば足手まといにはならない。だが、相手も転移台を利用して攻撃を仕掛けてきた辺り、今回は本格的に動き出したと考えるべきだろう。これが魔王軍との最後の戦いになる可能性も高く、レア自身も覚悟を決める。
(剣の魔王バッシュ……決着を付けてやる)
レアは剣の魔王と直接対峙した事はないが、歴代の魔王の中でもう残っているのは剣の魔王しか存在せず、もう他に魔王と呼ばれる存在はいない。そして死霊使いのダークが死んだ以上、もう魔王軍を蘇らせる存在もいなくなった。
剣の魔王バッシュを倒せば名実ともに魔王軍の根幹となる存在は消え、この世界に平和が訪れる。だが、最後にして最大の敵が待ち構えているとレアの直感が告げていた
――
――同時刻、王都では飛行船が避難が行われていた。本来ならば国内で最も警備が高く、安全な場所であるべきはずの王都だが、現在は住民を外へ避難させ、軍隊が崩壊した城を取り囲む。
建国された時から存在した王城は見るも無残な状態で破壊され、もう元に戻す事は出来ないだろう。原型がないほどに崩れた建物の残骸を遠目で兵士達は見つめ、その表情は悲壮感を浮かべていた。
「ああ、何てことだ……城が、我々の城が壊れるなんて」
「あそこには蘇った剣の魔王がいるのか……」
「くそ、どうしてこんな事に……勇者殿が不在の時に狙うとは卑怯な!!」
「いくら嘆いても状況は変わらん、それよりも見張りを怠るな。何時、またアンデッドが溢れかえるかも分からんのだぞ!!」
王城はケモノ王国の兵士に取り囲まれ、彼等全員が聖水を所持していた。先にアンデッドの大群が乗り込んできた事を想定し、全員がアンデッド対策を行っていた。仮に剣の魔王が現れた時の事も想定し、聖属性の魔力を宿す聖水を所持するのは当然だった。
飛行船で脱出した後、残念ながら飛行船は燃料切れのために街中に突っ込み、奇跡的に死者は出なかった。だが、肝心の飛行船の方は破損し、現在は急ピッチで修理が行われている。
王城の監視はチイが行い、内部の調査はハンゾウが行う。しばらく時間が経過すると、王城からハンゾウが姿を現し、報告を行う。
「チイ殿!!奴はどうやら建物の瓦礫の中に埋もれているようでござる!!姿を見たわけではないでござるが、禍々しい気配を感じ取ったでござる」
「そうか……私も地図製作で確認したが、奴に動きはない。いや、それどころか他に仲間の気配もないぞ」
「念のため、転移台の方は拙者が全て破壊したでござる。仮に転移台を利用して仲間を呼び出すつもりだったとしても、これでもう敵が現れる事はないはずでござる」
城内に残った剣の魔王に動きはなく、それが逆に不気味だった。転移台に関しては残念ながら破壊せざるを得ず、これで他の場所から魔王軍が乗り込んでくる可能性は消した。
「魔王め……いったい何を企んでいる。まさか、レアが来るまで本当にあの城で待ち構えるつもりか?」
「どうするでござる?今ならば魔王は一人……拙者たちが力を合わせれば勝てるのでは?」
「いや、それは無理だろう」
「リル様!?どうしてこちらに!?既に避難されたのでは……」
二人の元にリルが現れ、彼女の傍には包帯を巻いたライオネルの姿が存在した。まだ傷は完治していないようだが、それでも将軍の意地で同行してきたらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます