第826話 レアの帰還と状況把握

「――勇者様だ!!勇者様が戻ってこられたぞ!!」

「おお、無事であられたか!!」

「勇者様、ご無事で何よりです!!」

「皆……無事、じゃなさそうだね」



巨塔の大迷宮からレアは帰還すると、大勢の兵士達が彼を迎え入れたが、彼等の身体は傷だらけであった。しかも彼等以外には大量の死骸が山のように詰め込まれており、埋葬を行っていた。


巨塔の大迷宮の管理を行う兵士達はレアが王都から転移する際、事前に彼が設置した転移台から出現したアンデッドの大群に襲われた。この際に死亡者はいなかったのは二人の勇者の奮闘のお陰であり、すぐにシュンとヒナも駆けつけた。



「霧崎!!無事だったか、心配させやがって!!」

「レアく〜んっ!!無事だったんだね!!」

「うわっと……二人も無事で良かったよ」



レアが現れるとシゲルとヒナは安堵した表情で迎え入れ、ヒナに至ってはレアに抱き着く。彼女の大きな胸が押し付けられる形となり、その様子を兵士達は羨ましそうに眺める。



「二人とも、ここで何があったのか教えてくれる?といっても、だいたいの事は察しがつくんだけど……」

「いや、それがな……」

「急にあの台座からいっぱい魔物が出てきたんだよ〜だから私達、あれを壊すしかなくて……」



シゲルは言いにくそうな表情を浮かべ、ヒナが代わりに転移台が設置された場所を指差して話すと、レアは転移台を見て驚く。そこには転移台が幕の外から運び出され、無残な形で壊れていた。


いったいどんな壊し方をしたのか、転移台は全体が黒焦げと化しており、しかも真ん中の部分に嵌め込まれていた魔石は粉々に砕け散っていた。どうやらシゲルが魔石を破壊し、その後にヒナが魔法で破壊を試みようとしたらしい。



「こいつを作動させる魔石はぶっ壊したんだけどよ、その後にヒナの奴が火属性の上級魔法を撃ち込んだらアンデッドは出て来なくなったんだよ。でも、いったい何が起きたんだ?」

「魔王軍の仕業だよ。魔王軍が転移台を利用してアンデッドを送り込んだんだ……でも、そのアンデッドを操っていた死霊使いは多分、俺が倒したはずだけど」

「ええっ!?本当に!?」



レアの言葉を聞いて他の者達は驚くが、見るも無残に破壊された転移台を見てレアは考え込み、この状態では使用は出来ないだろう。そもそも下手に起動させても無事に他の場所に辿り着けるかは分からない。


転移台の制御は完全に魔王軍に奪われており、アンデッドを操る死霊使いのダークはレアが打ち倒した。だが、ダークの他にまだ仲間がいた場合、転移台を下手に使用すれば何処に飛ばされるかも分からない。



(転移台はもう使えない、となると馬やファングや徒歩で王都へ向かうしかないか。いや、王都以外の場所も気になるし……くそ、こんな事ならシロとクロか、クロミンを連れて来ればよかった)



ここから王都までは相当な距離が存在し、仮に馬やファング等の魔物を利用して戻るにしても時間が掛かり過ぎる。クロミン達は王都へ残っており、移動手段がないと思われたが、ここで聞き覚えのある声が響く。



「ガウッ!!」

「えっ!?この声は……」

「ああ、そういえばこいつもやってきたぞ……お前のペットだろ?」



聞き覚えのある声が後方から聞こえたレアは振り返ると、そこには火竜の幼体であるアカの姿が存在した。しばらくみないうちにまた成長したらしく、以前に遭遇した時よりも身体が二回り程大きくなっていた。


火竜などの竜種は成長が早く、大量の餌を摂取すれば更に成長が早まる。しかも巨塔の大迷宮で暮らしていたアカは外界の火竜よりも成長が早く、更に以前に確保したマグマゴーレムの核を大量摂取した事で短期間の間に大きく育っていた。


まだ成体とは言えないが、たくましく成長したアカにレアは驚き、一方でアカの方は嬉しそうにレアに頭を擦りつけてきた。



「ガアアッ!!」

「うわ、ちょっと痛いよ……でも、丁度良かった。火竜、俺達を王都まで運んでくれる?」

「ガウッ?」

「お、おい!?まさか、こいつに乗って移動するのか!?」

「わああっ!!この子に乗れるの!?もしかして空を飛んだりもできる!?」



レアの言葉を聞いてシゲルは顔色を変え、ヒナの方は期待する様な眼差しを向ける。そんな二人に対してレアは頷き、今のアカならば3人を乗せて空を飛ぶ事も難しくはない。



「アカに乗って行けば王都まですぐに辿り着けると思う。ここはもう転移台を破壊したから大丈夫だと思うけど、王都には世界中に置いてきた転移台がいくつもある……すぐに向かわないと!!」

「ちょっと待て!!俺は高い所が苦手で……うわぁっ!?」

「ガウッ!!」



抗議しようとするシゲルに大してアカは早く乗れとばかりに彼の服に噛みつき、自分の背中へと移動させる。レアは自ら乗り込み、ヒナに手を貸す。



「ほら、急ごう!!皆、悪いけどここは任せたよ!!ひと段落したら必ず戻ってくるから!!」

「は、はい!!分かりました!!」

「わああっ、本当に空を飛べるの〜?」

「ちょ、ちょっと待て!!実は俺、高所恐怖症……ぎゃああああっ!?」

「ガアアアッ!!」



3人を乗せたアカは翼を広げると、そのまま一気に上空に飛翔し、慌ててレア達は振り落とされないようにしがみつく。ちなみに順番はヒナが一番前に乗り、その後ろにレアが彼女を支え、シゲルはそんなレアの腰にしがみつく形だった

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