第825話 バッシュの目的

『――う、ぐぅっ……ダークめ、しくじったか』



王都の王城の残骸を払い除け、バッシュは全身から闇の魔力を溢らせながら立ち上がった。彼を死霊人形として蘇らせたダークが死亡した事により、闇の魔力の制御が乱れて彼自身も浄化しかけていた。


しかし、ジャンの時と同様にダークは自らの意思で魔力を操作し、離れようとする闇の魔力を肉体に留める。その結果、全身を魔力で覆われた事で肉体と魂の分離を妨げ、どうにか肉体の操作を取り戻す。



「……これで今しばらくは持つだろう。だが、この肉体を完全な意味で復活させるにはやはり贄が必要か」



バッシュは肉体を維持すると声質が変化し、自分の肉体の限界を悟る。バッシュの場合はジャンと違って他者からわざわざ魔力を奪わず、自分の肉体に埋め込まれた死霊石のみで肉体を維持する程の魔力を引き出す。


死霊人形にとっては死霊石はゴーレムの核に等しく、人間で言えば心臓に当たる器官でもある。この死霊石を破壊されればもう二度とバッシュは蘇る事は出来ない。だが、彼はこの肉体から解放される術に心当たりがあった。



(恐らく、俺の肉体が蘇る方法があるとすればこの世で最も生命力に満ち溢れた存在、勇者から生命力を奪う事だ。しかも、ただの勇者ではない……この星で最も力を持つ存在へと進化を果たした勇者が必要となる)



死霊人形やアンデッドが生物を襲うのは彼等が持つ生命力を奪うためであり、特に勇者のような存在は圧倒的な力を持っている。そんな圧倒的な存在から生命力を奪えば死した人間の肉体も蘇る可能性もあった。


最もこれはあくまでも希望的な観測にしか過ぎず、今までにアンデッドや死霊人形の類が完全に蘇ったなどの事例はない。だが、過去に勇者を殺した死霊人形やアンデッドは存在せず、可能性があるとすればそれしか方法はない。



(この忌まわしい肉体から解放されるには勇者が必要だ……だが、ダークが用意したシュンという者の命では不十分。ならば、やはり解析の勇者の命が妥当か)



シュンに憑依したホムラが訪れた際、バッシュは彼を殺しても自分が生き返る事はないだろうと判断した。シュンは彼の生前にすらも及ばず、勇者としては未熟過ぎた。


しかし、噂に聞く解析の勇者ならばバッシュが満足するだけの生命力を持つ存在かもしれず、そもそも解析の勇者は他の勇者とは規格外の能力を持っている。それほどの力を持った存在ならばバッシュの目的も果たせるかもしれない。



「ここへ来い、勇者よ……俺は逃げも隠れもせん」



この王都の王城で待ち続ければ必ずや勇者が訪れると信じ、そのためならばバッシュは何日であろうとここへ待ち続ける覚悟だった。仮に万の軍隊が送り込まれようとバッシュは諦めるつもりはなく、この地にて解析の勇者であるレアを待ち続けるつもりだった――





※短めですが、ここまでにしておきます。

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