第824話 闇の鎧

「……礼を言うぞ、お前達のお陰でようやくこの肉体の使い方を理解できた」

「ば、馬鹿な!?ど、どうして……」

「もう死霊使いは死んだのではなかったのか!?」



ジャンを蘇らせた死霊使いのダークは討ち取られたにも関わらず、何故か死霊人形のジャンは浄化する様子がなかった。先ほどまでは確かに苦しみもがき、今にも浄化しそうな彼であったが、現在は全身に闇の魔力を纏いながら平然としていた。


兵士によって身体を焼かれた後から態度が一変し、自分の身体の炎を吸い込み、更にアンデッドから闇属性の魔力を奪い取ったようにも見えた。魔力を吸い上げた途端にジャンの肉体に闇の魔力が纏い、雰囲気も変化する。



「なるほど、最初からこうして魔力を纏えば肉体を維持する事が出来るのか。これは良い事を知ったぞ」

「貴様……何を言っている!?」

「見ての通り、お前達のお陰で俺は傀儡から解放された!!もう何者であろうとこの俺を浄化する事は出来ん、そしてあの御方も今頃は気づいておられるだろう!!」



ジャンは空を見上げ、恐らくは王城に乗り込んだギガンの方にも異変が起きているはずだが、ジャン以上にギガンの肉体は特別なため、彼も今頃は死霊人形の枠を超えた存在へと変わっているはずだった。


死霊人形であるジャンがどうして死霊使いがいなくなった今も行動が出来るのか、それは彼の中に存在する魂を魔力で抑え込む方法を編み出したからである。全身に魔力を纏わせる事で肉体から抜け出そうとする魂を押され込む。


自分以外の肉体から生み出された魔力を吸収する事でジャンは全身に魔力を帯び、その力で肉体から離れようとする魂を抑えつける。いうなれば魔力の鎧に無理やりに魂を抑え込んでいるだけに過ぎず、もしも魔力が消えてなくなればジャンの肉体から魂が切り離され、彼は完全な死を迎えるだろう。


だが、逆を言えば肉体に魂が維持する限りは彼は生き続けられ、魔力を纏う事を忘れなければ真の意味で彼は「不死」の存在となり得る。しかも魔力の鎧を利用し、自分の肉体を形成する事も出来た。



「さて、お前達にはもう用はない。ここは去らせてもらうぞ」

「何だと!?」

「このまま行かせると思って……」

「ガアアッ!!」



立ち去ろうとするジャンに対して兵士達はが仕掛けようとしたが、そんな彼等にジャンは口元を開くと、黒炎の塊を吐き出す。その結果、近づこうとした兵士達とジャンの間の地面に黒炎が燃え広がり、お互いを妨げる。



「うわっ!?」

「な、何だと!?」

「くっ……この、逃げるな!!」

「ふん、口に気を付けろ……その気になればお前達をここで焼き尽くす事も出来るのだぞ」



黒炎によってガーム達は遮られてしまい、ジャンに近付く事も出来ない。黒炎に妨げられる兵士達の様子を見てジャンは高笑いを上げ、ゆっくりと転移台が存在する砦へと向かう。


既に砦は焼き払われ、もう原型を留めていない。焼け崩れた建物の残骸の中からジャンは転移台を見つけ出し、残骸を取り払う。そして転移台へと昇り込むと、最後にガームに振り返って告げた。



「貴様等との決着は必ず付けてやる……王都へ来い、そこで我々は待っているぞ」

「な、何だと!?」

「魔王軍はこれから世界征服のため、まずはこの国を支配する!!よく覚えておけ、この世界もう我々の物だ!!」



ジャンはそれだけを告げると転移台を起動させ、それを見たガームは止める事が出来ず、そのまま転移台は光り輝くとジャンの姿が消えてなくなる。その様子を見てガームは悔しがり、拳を地面に叩き込む。



「くそっ……すぐに王都へと向かうぞ!!奴を野放しには出来ん!!」

「は、はい!!」

「何という事だ……我々は何てことを」



止めを刺そうとジャンに攻撃を加えた兵士達は自分達の行為でジャンを復活させる切っ掛けを与えた事を嘆き、その場で俯く。だが、そんな彼等に対してガームは一括した。



「今は落ち込んでいる暇はない!!一刻も早く、奴を追いかけて始末しなければならん!!女王陛下をお守りするのだ、さっさと立て!!そして武器を持て!!我々は王国の盾、それを忘れるな!!今のお前達の姿を天上の世界のガオが見たらどう思う!?情けなくて嘆き悲しむぞ!!」

「王国の、盾……」

「そうだ、こんな所で死ねばガオ様も嘆かれる」

「我々はガオ様に女王様の事を託されたのだ……」



ガオの名前を出すと兵士達の態度が一変し、ガームの叔父であるガオは彼の配下とも古い付き合いだった。元々はガオが死んだのも魔王軍が関与していたからであり、ガームは兵士達に告げた。



「魔王軍こそが我々の敵、王国を仇を為す存在!!ならば我々のする事はただ一つ、奴を倒してガオの仇を討ち、この国の平和を取り戻すのだ!!」

『うおおおおっ!!』



ガームの言葉に兵士達は士気が上がり、ジャンが待ち構えているであろう王都へ向かう準備を行う――

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