第823話 魔王と邪竜
――ダークが討ち取られた瞬間、世界中に出現していたアンデッドにも異変が生じた。アンデッドたちを蘇らせた死霊使いの消失により、アンデッドの大群は次々と骸と化す。
世界各地に設置していた転移台から出現したアンデッドの大群は次々と倒れ込み、体内の闇属性の魔力が抜けて元の死体へと戻る。そのお陰でアンデッドの脅威からは逃れられたが、北方領地では状況が異なっていた。
『グゥウッ……アアアアッ!?』
「な、何だ!?」
「将軍!!奴が急に苦しみ始めました!!」
「どういう事だ……!?」
北方領地ではアンデッドと共に魔王の配下であるジャンが苦しみ始め、胸元を抑えつける。その様子を傷だらけのガームと彼の配下の兵士達が伺い、疑問を抱く。
ジャンとの戦闘でガームの手勢も相当な被害を受けたていたが、それでも一度は戦った相手であるため、対抗策の準備も整えていた。火体勢の能力が付与した防具を装備し、先ほどまではジャンを相手に激闘を繰り広げていた。
だが、唐突にジャンが苦しみ始めた事にガーム達は戸惑い、同時にジャンの他に暴れていたアンデッドの大群も倒れ出す光景を見て全てを察する。
『アァアアアア……!?』
「しょ、将軍!!見てください、アンデッドが倒れていきます!!」
「そうか……どうやら、死霊使いを何者かが倒したようだな」
アンデッドの大群が倒れ込む光景にガームは笑みを浮かべ、直感で彼は勇者であるレアが何かをしたと思った。これだけの規模のアンデッドを蘇らせる死霊使いなど相当な力を持っており、そんな相手を何とか出来るのは勇者しかいない。
「グゥウッ……ガハァッ!?」
「どうやら奴もこれで終わりか……出来る事ならば我々の手で止めを刺したかったが、仕方あるまい」
「将軍!!今のうちに攻撃するべきです!!奴は仲間の仇、このまま放置は出来ません!!」
ガームは弱り果てていくジャンの姿を見て止めを刺そうとするのは哀れに想い、自然に消えていくのを待とうとした。しかし、ガームの配下達はこれまでにジャンによって殺された仲間や怪我をした者達の事を思い出し、攻撃を止めなかった。
「奴は弱っているぞ!!今のうちに止めをさせ!!」
「待て!!奴をこれ以上に刺激するのは……」
「将軍、大丈夫です!!お前達、奴を爆破させろ!!」
「はっ!!」
コボルトに乗り込んだ騎獣兵と呼ばれる兵士達がジャンの元に近付き、この時に彼等の手には紐で縛り付けられていた小壺が握りしめられていた。兵士達はジャンに近付くと縄を握りしめて小壺を振り回し、勢いよくジャンに叩き込む。
「くたばれ!!」
「やああっ!!」
「グガァッ……!?」
小壺の中身は赤色の粉末が入っており、中身の正体は火属性の魔石を粉状になるまで削り取った物である。その中身がジャンの身体に降り注ぐと、火矢を構えた者達が次々と撃ち込む。
「よし、放てっ!!」
『うおおおっ!!』
火矢が次々とジャンの身体に撃ち込まれ、事前に火属性の魔石の粉末を浴びていたジャンの肉体は火薬以上に燃え上がり、全身を包み込む。
アンデッドの弱点は聖属性の魔法か、あるいは火属性の魔法などで身体を焼き尽くす事である。そのため、ジャンの肉体に火が包まれた瞬間に兵士達は歓喜の声を上げる。
「やった!!燃えたぞ!!」
「これで終わりだ!!」
「将軍、我々の勝利です!!すぐに勝鬨を!!」
「……待て、様子がおかしいぞ」
兵士達は燃え上がるジャンを見て勝利を確信したが、ガームだけは嫌な予感を覚え、先ほどからジャンが身動き一つしない。全身を焼かれているにも関わらず、ジャンはぴくりとも動かない。
先ほどまではもがき苦しんでいたにも関わらず、ジャンは身体が燃えながらも動く様子がなく、やがてゆっくりと口だけを開く。その途端、全身に燃え広がっていた炎に変化が起きた。
「アガァアアアアッ……!!」
「な、何だと!?」
「ま、まさか……炎を吸い込んでいる!?」
「馬鹿なっ……!?」
ジャンは口を開いた途端、全身に燃え広がっていた炎が口元に集まり始め、やがて身体に纏わりついていた炎を全て飲み込む。ジャンは炎を飲み込んだ途端、身体を起き上げると笑みを浮かべ、周囲に存在するアンデッドに視線を向けた。
『そういう、事か……ならば!!』
顎が外れんばかりにジャンは口元を開くと、倒れているアンデッドに対して大きく息を吸い込む。その吸引力は凄まじく、台風を想像させる勢いで周囲の物を吸い込む。
倒れ込んだ無数のアンデッドから闇属性の魔力が溢れ出すと、それをジャンは吸収する。闇属性の魔力を失ったアンデッドは完全な骸と化すだけではなく、肉体が廃となって消えていく。やがて1000体近くのアンデッドの闇属性の魔力を吸い込んだ途端、ジャンの肉体は闇の魔力に覆われた。
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