第822話 生き延びた理由

――時は少し前に遡り、多数のゴーレムに囲まれたレアに残された手段、それは損傷を最小限に抑える覚悟で行動するしかなかった。ドラゴンスレイヤーとデュランダルを手にしてレアは爆発の寸前、行動する。



『これしかない!!』



爆発の中心地に存在すれば流石のレアも耐え切れる自信はなく、一か八かの賭けになるがレアはドラゴンスレイヤーを盾代わりに利用し、デュランダル衝撃波で自分の身体を吹き飛ばす。


最初にデュランダルの刃から衝撃波を発生させる寸前に手放し、その後にドラゴンスレイヤーを盾として利用し、衝撃波を受ける。その結果、遥か上空までレアは衝撃波によって吹き飛ばされ、爆発の中心地から逃れる事に成功した。


その後は上空に浮かんでいる間に地上のゴーレム種が大爆発を引き起こし、その余波によって上空に飛んでいたレアも影響を受けて街の外まで吹き飛ばされる。この時に幸運だったのだがここが砂漠の階層だった事であり、レアは墜落の際に硬い地面ではなく、柔らかい砂によって衝撃が緩和された。



『いてててっ……鍛えておいて本当に良かった』



流石に吹き飛ばされた直後はレアも無傷とは言わず、相当な怪我を負ったが意識だけは保っていた。解析と文字変換の能力を利用してレアは自分の肉体を「健康」へと変更させる事で完全復活を果たし、そして見隠しのマントを身に付けて転移台へ向かう。


見隠しのマントを装備したのはゴーレムを操る黒幕が現れる事を想定し、案の定というべきかレアが死んだと思い込んだダークが姿を現す。その後はレアはダークの行動を監視し、密かにエクスカリバーを取り出す。


ダークが転移台を起動させる直前で気づかれてしまったのはレアにとっても予想外の事態であり、本音であればダークが何処へ向かうつもりだったのか知りたかった。だが、隠れきれないと判断したレアはダークを倒す事に決め、転移の直後に攻撃を繰り出す。



「――こっちもギリギリだったよ。本当に死ぬかと思った……一瞬でも判断が遅ければ助からなかったと思う」

「なるほど……それだけ聞ければ満足です」



倒れ込んだダークに大してレアは素直に賞賛し、仮に爆発が少しでも早く起きていればレアは助からなかっただろう。いくらレベルを上昇させて頑丈な肉体を得たとしても、街を吹き飛ばす程の爆発の中心地に存在すればレアも助からなかった。


今回のダークの計画は完璧であり、解析と文字変換の能力を持つレアを殺すには最も最善な能力だった。多数のゴーレムを待ち伏せさせ、更に自分自身も砂鮫に飲み込まれる事で姿を隠しながら状況を把握し、キングゴーレムなどの強力な個体が操られる前に自ら瓦解される。仮にレアだけではなく、他の仲間が行動していれば必ずや仲間達は犠牲になっていただろう。


レアが生き残れたのは運が良かったとしか言えず、仮にレアの傍に他の仲間が存在すればどうしてもレアは他の仲間を助けようとして生き残る事は出来なかっただろう。多数のゴーレムを爆破させるとなれば解析や文字変換の能力ではどうしようも出来ず、雨などを降らせていたとしても爆発は免れない。



「雨を生み出す力がある事を想定し、マグマゴーレムも用意していたというのに……まさか聖剣を利用して空へ逃げるとは、やはり勇者とは思いもよらない相手だ」

「……言い残す事はそれだけか?」

「ええ、もう十分です……私の目的は必ずや他の存在が果たす事でしょう」



既にダークの身体からは闇属性の魔力が溢れ、もう間もなく魔力が無くなれば完全に彼女はこの世から消し去る。だが、当の本人は悔しがる様子はない事にレアは不思議に思う。



「最期に言い残す事は……?」

「……魔王軍は終わらない、仮に私を倒した所で何も変わらない。いや、新たなる魔王が生まれる事になるでしょう」



意味深な言葉を残してダークはゆっくりと目を閉じると、不意に彼女の脳裏にとある青年の顔が思い浮かぶ。まさかこの状況下で青年の顔が頭に浮かんだ事にダークも意外に想い、苦笑いを浮かべた。



(恋人ごっこも……悪くはなかったかもしれませんね)



ダークの身体から闇属性の魔力が完全に消え去り、やがて女性の骸だけが残される。その骸を目にしたレアは黙って両手を重ね、今は埋葬する時間はないために骸を放置する。



「行こう、皆の所へ……」



邪魔者を打ち倒し、遂に転移台へ辿り着いたレアは早速だが起動させる。外の状況が気にかかり、一刻も早く他の皆と合流する必要があった――






※ダークの前世(悪霊と化す前)の性別は女性です。だからシュンの事を……

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