第821話 反撃開始!!
――死霊使いにして悪霊であるダークは自分の魂を分割させ、別々の死体に憑依する術を身に付ける。この技術を応用すれば他の生物を操る事も不可能ではない。但し、この能力は普通の生物には通用しない。
ダークが操作できる存在は死体に限られるが、ゴーレム種の場合は別であり、厳密に言えばゴーレム種は実体を持たない。全てのゴーレム種は「核」と呼ばれる魔石が本体であり、この核が砂や岩、あるいはマグマなどに取り込まれる事で肉体を形成する。
普通の生物だった場合、生きている生物は必ずや聖属性の魔力を宿す。聖属性の魔力は生命力その物と言っても過言ではなく、仮死状態にでも追い込まなければ悪霊といえども生物には簡単に取り付く事は出来ない。そういう意味ではシュンに執り憑いたホムラは奇跡的な存在だった。
だが、ゴーレム種の場合は普通の生物とは違い、彼等は聖属性の魔力を持たない。だからこそダークは死体と同じ要領でゴーレムに憑依する事ができた。正確に言えば自分の魔力を分け与える事でゴーレムを操作する事が出来る。地の魔王も同じ能力を持ち合わせているが、ダークの方が精度が高い。
「魔王軍の主力となるゴーレムを失ったのは痛いですが……それ相応の代償は得ましたね」
長年の間、魔王軍の復活のためだけにダークは長い時を費やして戦力を集めていた。死体だけではなく、ゴーレム種や有能な人材を集め、それを管理してきた。全て始祖の魔王の意思を継ぎ、魔王軍の世界征服という野望を果たすためである。
この第三階層に現れたゴーレム種は後々に魔王軍が各国に戦争を挑む際に世界中から集めたゴーレム種だったが、解析の勇者の命と引き換えならば失っても悪くはない。むしろこの程度の損失であの勇者を倒しただけでも補って余りある成果だった。
「これで世界征服は果たされる……始祖の魔王様、貴方の願いが成就します」
ダークはもうこの世から完全に消え去った始祖の魔王の事を想い、魔王軍の悲願が果たされると確信した。彼女は転移台へと向かい、外へ脱出の準備を行う。しかし、ここでダークは不意に違和感を感じとる。
「……?」
転移台の前へ辿り着いたダークは周囲の光景を振り返り、注意深く観察を行う。しかし、いくら見ても人影など見当たらず、そもそも街その物が崩壊してしまった。仮にレアが生き残っていたとしても隠れる場所などはない。
「気にしすぎか……」
仮にレアが「隠密」や「気配遮断」などの技能を使用していたとしても、それを見破る術をダークは持ち合わせている。彼女は悪霊が死体に憑依した存在のため、生物の存在を感知する力を持つ。特にレベルが高い者や勇者のような特殊な存在は見抜けないはずがない。
勇者の力は感じられず、自分の気にし過ぎかと思い込んだダークは転移台を発動させようとした時、ここである事に気付いた。それは転移台が光り輝いた際、不自然に光が遮られた場所がある事を知る。
「これは……まさか!?」
「……はああっ!!」
転移台が起動する直前、台座から放たれた光の中から声が鳴り響き、何もないと思われた空間からレアが姿を現す。彼の手にはエクスカリバーが握りしめられ、ダークへ向けて突き出す。
「せいやぁっ!!」
「がはぁっ!?」
唐突に現れたレアの一撃を受けたダークは転移台から突き飛ばされ、この際にレアも下りる。二人が降りた途端に転移台は輝きを失い、起動は阻止された。
ダークはエクスカリバーの一撃を受けて倒れ込み、身体中から闇属性の魔力が溢れ出す。聖剣の一撃を受けた彼女は自分の魂を肉体に維持できず、徐々に力を失っていく。
「ま、さか……どうして……」
「……このマント、見覚えがあるだろ?」
「それは……見隠しのマント……!?」
かつてレアがダークの分裂体と初めて対峙した時、回収しておいた「見隠しのマント」なる物を見せつけるとダークは驚愕の表情を浮かべた。この見隠しのマントは身に付けるだけで存在感を完全に消し去り、あらゆる感知系の技能さえも無効化する。
生物の気配に敏感なダークでさえも見隠しのマントを身に付けたレアの存在には気づけず、まさか自分が所有していた魔道具を利用して出し抜かれるなど思いもしなかった。
「ふっ……まさか、そのマントを常備していたとは」
「リリスに万が一の場合に備えて常に持っておくように注意されていてね……収納石に入れていたんだよ」
「なるほど……でも、どうしてあの爆発から生き延びたのか、最後に教えてくれますか?」
ダークの身体からは闇属性の魔力がこぼれ、聖剣の一撃を受けた時点でダークの肉体はもう限界を迎えていた。いずれは魂を維持できず、完全に浄化される。だが、その前にダークはレアがどのような手段を用いて生き延びたのか知りたかった。
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