第820話 自爆

今回の騒動は間違いなく魔王軍の策略である事は間違いなく、そうでなければ急に魔王城が崩壊するはずがない。転移台が存在する街に大量のゴーレムを待ち伏せさせている時点で確定していた。


しかし、それにも関わらずにどうして外へ繋がる転移台の警備がされていないのか怪しかった。転移台が存在する広間には魔物は配置されておらず、その事が逆にレアは怪しく思い、転移台を起動させる事に躊躇する。



(そうだ、魔王軍は転移台の行先を変更できるんだ……なら、まさかこの転移台も別の場所へ繋がっているんじゃないのか!?)



大迷宮の転移台さえも魔王軍が操れるかどうかは分からないが、これだけの数のゴーレムや砂鮫を街中に待ち伏せさせていたのに転移台だけ警戒していない事にレアは怪しく思う。



(どうすればいいんだ?転移台を使わないと外へ出られないのに……)



考えている間にもゴーレムの大群と砂鮫は迫っており、レアは判断に迫られた。この転移台を起動させてもしも大迷宮の外ではなく、別の行先に指定されていた場合は自分の身が危ない。かといって外へ抜け出す方法はこの転移台を利用する以外に方法はない。


転移台を使用するかどうかレアは思い悩むと、遂に広間にゴーレムの大群と砂鮫が乗り込む。考えている暇もなく、遂にレアは魔物に取り囲まれた。




――ゴォオオオオオッ!!




キングゴーレムの破片を吸収した事でより成長したロックゴーレム、サンドゴーレム、マグマゴーレムの3種類のゴーレムの大群、更には砂鮫が転移台の周囲を取り囲み、これで完全にレアは逃げ場を失う。



「くっ……こいつら」



取り囲んだ魔物の群れに対してレアは剣を構えるが、突如としてゴーレムの大群は動きを止めると、先のキングゴーレムの様に苦しみもがく。



『ゴアア……!?』

「えっ?」



ゴーレムの大群の様子がおかしい事に気付いたレアは何事かと思い、この時に解析の能力を発動させる。いったいゴーレムの身に何が起きたのか調べようとした。



「解析……なっ!?」



解析を発動した瞬間、視界に表示された画面を見てレアは顔色を青ざめ、一刻も早くこの場を離れる必要があった。だが、周囲は完全にゴーレムの大群に取り囲まれており、逃げ場などはない。


レアが焦っている間にもゴーレムの大群は苦しむように胸元を抑え、やがて目元を怪しく光り輝かせながら両腕を胸元に伸ばす。そして自らの体内に秘められた核を取り出そうとした。



『ゴガァアアアアッ!?』

「やばい!?」



無数のゴーレムが次々と体内に秘めた核を取り出した瞬間、レアは危険を察して両手の大剣を握りしめる。次の瞬間、マグマゴーレムの群れが核を取り出した瞬間、身体が崩れ去り、飛び散っていく。



『ゴァアアアッ……!?』



砕け散ったマグマゴーレムの破片が周囲に降り注ぎ、核を取り出した他のゴーレムの元へ降り注ぐ。その結果、マグマによってゴーレムの核が過熱し、内側に秘められた火属性の魔力が刺激され、爆発を引き起こす。


広場内にて火属性の魔石の爆発が連鎖し、爆発の際に発生した爆炎が他の火属性の魔石を巻き込み、更に爆発を誘導させる。連鎖的に爆発が発生していくと、やがて広間全体が爆炎に飲み込まれた――






――数秒後、第三階層に存在した街はまるで隕石でも落ちたような巨大なクレーターと化しており、多数のゴーレムの核の爆発によって跡形もなく吹き飛んでいた。全ての建物は砕け散り、もう原型さえも留めていない。


爆発の中心となった広間には転移台だけが取り残され、その場所に存在したはずのレアの姿はない。その代わりに砂鮫だけが倒れ込んでおり、爆発に巻き込まれた砂鮫はぴくりとも動かなかった。



「……どうやら、終わったようですね」



横たわった砂鮫の口の中からダークが姿を現し、彼女は周囲の状況を確認して頷く。実はダークは砂鮫の体内に隠れて様子を伺っており、この場所にゴーレムを誘導したのも当然だが彼女である。


魔王城を崩壊させたのも彼女の仕業であり、ダークはこの場所に訪れるであろう勇者を倒すために敢えて一人で待ち伏せしていた。勇者であるレアを葬る事が出来れば魔王軍は最大の脅威は消える。そう考えたダークは入念な計画の元、この地に待ち構えていた。



「思っていたよりもあっさりと終わりましたが……この爆発の威力ならば流石の勇者でも耐え切れなかったようですね」



勇者から正面に戦闘を挑んでも勝ち目はない。だからこそダークは策を講じて倒そうと考えた。そして彼女が編み出した作戦はゴーレムの核を利用した大爆発で勇者を倒す、それ以外に方法はないと彼女は判断した。


ダークは死霊使いではあるが、同時に彼女は「悪霊」と呼ばれる存在でもある。長い時を悪霊として過ごしたせいか彼女は普通の死霊使いでは持ち合わせない特殊能力をいくつか持ち合わせ、その内の一つが自分の魔力を他者に憑依させ、操る方法だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る