第815話 王城の崩壊

『見せてやろう……この鬼王の力をな』

「鬼王!?馬鹿な、その妖刀は!?」

「鬼王……その名前、何処かで聞いたような」



バッシュが鬼王の名前を明かした途端にカレハは血相を変え、ハンゾウも聞き覚えがあるのか訝し気な表情を浮かべる。だが、彼女が鬼王の正体に至る前にバッシュは剣を振りかざす。


刀身から黒色の炎のような魔力が纏い、それを見たリルは先ほど倒したホムラが所持していた妖刀と同じ系統の武器かと思ったが、バッシュが振り翳した瞬間に魔力は変化する。



『はああっ!!』

「きゃっ!?」

「な、何だ……この魔力は!?」

「馬鹿なっ!?」



天井に向けてバッシュは鬼王を突き出すと、刀身に纏っていた魔力が一直線に伸び、まるで巨大な黒色の刃へと変化を果たす。その刃の大きさは尋常ではなく、天井を貫通して天まで届く。



『鬼王、その力を見せてみろ!!』

「まずい、皆避けろ!!」

「よ、避けろと言われても……!?」

「とにかく、離れるじゃ!!」



危険を察した者達はバッシュから距離を取ろうとしたが、バッシュは鬼王を振り下ろした瞬間、巨大な漆黒の刃が王城を切り裂く。この切り裂くというのは文字通りの意味であり、本当にバッシュは城その物を切り裂いた。


王城は内側から出現した刃によって切り裂かれ、この際に建物全体に衝撃が広がり、二つに切り裂かれた城は徐々に倒壊を始める。天井は崩れ始め、床や壁も罅割れていく光景を見て崩壊までそれほどの時間はなかった。



「いかん!!このままでは城が……!?」

「そ、そんな馬鹿な……ここは王城だぞ!?何百年もケモノ王国の王都の象徴として君臨してきた城が……」

「言っている場合か!!今は早くこの城から抜け出すしかないぞ!!」

『……逃げられるのなら逃げるがいい、もし生き延びれたのなら勇者に伝えろ。俺はここで待つとな』



城の崩壊を招いたバッシュ本人は焦った様子もなく、その場に座り込む。その様子を見てリルは驚愕の表情を浮かべるが、すぐにバッシュの正体は死霊人形である事と先ほどの見せた力を思い出す。


仮に王城が崩壊したとしてもバッシュならば死ぬことはなく、この場所に訪れるであろう勇者を待ち続ける事が出来る。その事に気付いたリルはバッシュの思惑に怒りを抱き、この相手は自分の目的のためだけに城を崩壊させたのだ。



「貴様、レア君を招くためだけにこの城を……!!」

「リル様!!そいつに構っている暇はありません、すぐに城内の人間を避難させないと!!」

「くっ……ライオネル将軍を運び出せ!!」

「はっ、はい!!」



先の戦闘で気絶したライオネルを白狼騎士団の面々が持ち上げ、一方で廊下に現れたアンデッドの対処はカレハが行う。彼女は緑刃刀と芭蕉扇を片手にアンデッドの群れを吹き飛ばし、皆を先導した。



「ええい、退け!!骸などに構っている暇はないわ!!」

『アアアアッ……!?』



次々と現れるアンデッドをカレハは吹き飛ばすが、下手に風圧を強めると崩壊を始めた城を刺激し、瓦解が早まる危険性もある。そのために力を最低限に抑えて対処するしかない。



「くぅっ、数が多すぎる……このままでは脱出は間に合わんぞ!!」

「そもそも外に出ても平気なのか!?」

「弱音を吐くな!!今は一刻も早く、ここから抜け出すんだ!!」



遂には天井が崩れ始め、瓦礫が降り注ぎ始める。リル達は必死に廊下を駆け抜ける中、その様子をバッシュは座ったまま見送る。彼はレアが訪れるまで、本当にこの城の中で待ち続けるつもりだった――






――城内に存在する者達は一先ずは外へ抜け出そうとするが、アンデッドが転移する転移台は城の正門の近くに存在する事もあり、正門からは脱出は難しかった。しかも裏門の方はバッシュが繰り出した漆黒の刃が直撃し、城壁が崩壊して塞がってしまう。


生き延びた人間は中庭に集まり、崩壊していく城の様子を見守るしかなかった。もしも崩れた城が中庭の方にも倒れ込んだ場合、生き延びる術はない。それでも城内に存在する全員が生き残る可能性に賭けて中庭へと向かう。



「リル様!!正門も裏門も駄目です、突破は不可能です!!」

「城壁を乗り越える事は出来ないのか?」

「私達なら可能でしょうが、使用人や新兵は……」



中庭に城内に残っていた者達が全員集まると、リルは崩れ始めていく城を見上げ、悔しく思う。この城はケモノ王国が建国してから何百年も王都の象徴として君臨してきた城である。


その城が崩壊していく光景にリルは言葉に出来ない想いを抱くが、今は一刻も早く全員を避難させる必要がある。だが、正門も裏門も突破は出来ず、城壁を乗り越えて逃げる方法も難しい。


王城を取り囲む城壁は外部からの侵入者の対策のため、簡単に登れないように設計されており、しかも乗り越えたとしても城の周囲には堀が存在する。普段から訓練を受けている兵士ならばともかく、使用人やレベルが低い新兵では城壁から飛び降りれば命はない。

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