第813話 転移台の行先の指定

「見せてやろう、我が森の民の秘宝……緑刃刀!!」



カレハは異空間に繋がる黒渦から緑色の刃の刀を取り出すと、バッシュの元へ向かう。その刀を見てバッシュは鬼王を構えると、刃同士が重なり合う。



「はああっ!!」

『ぬうっ……!?』



緑刃刀と鬼王が触れた瞬間、凄まじい風圧が発生した。その風圧によってバッシュの身体は大きく後退し、それを見たカレハは笑みを浮かべた。



『馬鹿な……この俺が押されただと?』

「どうじゃ、我が里に伝わる神剣は……この刀はいずれ復活するであろう魔王を打ち倒すためだけに撃ち込まれた武器、こうして使用する日が来るとは思わなかったがのう」

『緑刃刀……なるほど、少しは楽しめそうだ』



仮にも聖剣に匹敵する力を持つ鬼王と打ち合っても壊れないどころか、逆に押し飛ばした事にバッシュは緑刃刀に興味を抱き、改めて向かい合う。


緑刃刀を手にしたカレハはバッシュと向かい合い、刀身に風を纏う。緑刃刀は芭蕉扇と同じく風圧を発生させるが、芭蕉扇と違う点は何かを切りつけない限りは風圧を生み出す事が出来ない。



「行くぞ、魔王よ……勇者様の手を煩わせるまでもない!!ここで貴様を討ち取る!!」

『やれるものならやってみろ……だが、俺にばかり構ってる場合か?』

「何じゃと……!?」



バッシュの言いぶりにカレハは疑問を抱くと、ここで背後の方から物音を耳にして彼女は振り返る。廊下の奥の方から巨人族のアンデッドの集団が迫り、それを見たカレハは戸惑う。



『アァアアアッ……!!』

「なっ!?これは……!?」

『俺に注意を向けすぎたな。こうして争っている間にもダークはアンデッドを送り込んでいる。悠長にしている暇はないぞ』

「そんな馬鹿な、どうして転移台をお前達が使える!?」



転移台からアンデッドが送り込まれる事の原因はまだ判明しておらず、そもそも全ての転移台からアンデッドが送り込まれている理由がリル達には分からなかった。


最初は転移台からアンデッドが出現した時は別の場所に設置した遂となる転移台が占拠されたかと思ったが、世界中の国々に送り込まれた転移台全て魔王軍の手に落ちたとは考えられない。それならばどうやって魔王軍は転移台を操作しているのかとリルが問い質すと、バッシュはあっさりと真実を伝えた。



『お前達はどうやら知らないようだが、あの転移台は元々は波長を変更させれば自由に別の転移台に飛ばす事が出来る。そして大迷宮の転移台に繋げる事もな』

「な、何だと!?」

「まさか……!?」

『現在はダークの奴が管理している転移台からお前達の勇者が作り出した転移台全てにアンデッドを送り込んでいる。今頃、世界中でここと同じ騒ぎが起きているだろう』



転移台の秘密を明かしたバッシュに対してリル達は唖然とするが、すぐに納得した。転移台からアンデッドを送り込んでいるのは魔王軍で間違いなく、同時に巨塔の大迷宮に魔王軍が乗り込んできた原因も判明した。


巨塔の大迷宮を管理していた際、魔王軍が突如として内部から転移してきたと考えていたが、実際の所は大迷宮の内部に繋がる転移台に魔王軍の幹部であるダークが転移し、大迷宮に封じられていたギガンを復活させて外に出たに過ぎない。そしてこれまでに魔王軍が世界中に現れた理由も転移台が関わっているのだろう。



『魔王軍はかつて世界中に転移台を設置してきた。現在の時代では生憎と使用できる転移台の数は限られているが、お前達の動きをかく乱する程度の事は容易かった』

「そういう事でござるか……どうりでいくら探しても魔王軍を見つける事も捕まえる事も出来ないと思ったでござる」

「なら、お前が復活した時も急に姿を消したのはやはり転移台のせいか……」

『あの魔道具は元々は始祖の魔王が勇者から奪い取った魔道具……開発するのに時間と費用が掛かり過ぎるのが問題だが、歴代に魔王を告げた者達によって世界中にちりばめられた』



転移台は歴史上で魔王と呼ばれた者達が作り上げ、各時代によって別々の場所に配置されていた。バッシュも魔王軍の本拠地にしようとしていた大迷宮の城に転移台を製作しており、それを利用していたという。


ダークは外の世界に隠されていた転移台を利用し、巨塔の大迷宮の魔王城に転移する。その後にギガンを復活させた後、ケモノ王国の攪乱も兼ねて敢えて巨塔の大迷宮の外に繋がる転移台から抜け出す。


魔王軍がこれまでに大きな騒動を引き起こし、姿を消した時も転移台が利用がされ、今まで巧妙に隠れていたらしい。しかもレアが作り上げた転移台でさえも魔王軍の転移台と繋げる事が出来る事が発覚し、それを利用してダークはレアが制作した世界中の転移台にアンデッドの大群を送り込んでいた。

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