第809話 魔王の望む物とは……

『さあ、待たせたな……お前達には色々と聞きたいことがある』

「ぐっ……貴様、何の目的があってここへ来た!!」



リルとライオネルは身構えると、それに対してバッシュは何か考え込むように天井を見上げ、淡々と告げた。



『解析の勇者を探している、それだけだ』

「何だと……つまり、狙いはレア君か」

「おのれ!!勇者殿を狙うつもりか!!」

『お前達は勘違いをしている』



レアを狙うと聞いてリルとライオネルは怒気を放つが、そんな二人に対してバッシュはあくまでも冷静な口調で告げる。



『俺の目的は解析の勇者を殺しにきたわけではない。確かに俺は勇者に敗れたが、この時代に勇者に恨みはないからな』

「なんだと……転移台からアンデッドを出現させたのはお前達の仕業だろう!!」

『それは勝手にダークの奴がやった事だ。まあ、奴の計画に乗った時点で俺も無関係とは言えないがな』

「貴様……!!」

『だが、解析の勇者を引き渡すのであればこの国への攻撃を中止しよう。いや、解析の勇者が俺の願いを一つだけ叶えてくれれば魔王軍を解散させる。それならばどうだ?』

「何!?」



バッシュの言葉にリルとライオネルは驚きを隠せず、魔王軍を解散させるという衝撃な内容を告げられた事に戸惑う。とても信じられる内容ではないが、こんな状況でくだらない嘘を言う理由がない。


レアの力を借りれれば魔王軍を解散させるという言葉に嘘はなく、バッシュの目的は解析の勇者の力を利用し、今現在の状況から脱するためには彼の力が必要だと告げた。



『解析の勇者ならばどんな物も作り出せる能力を持っていると聞いた。伝説の聖剣でさえも作り出す能力、ならばその力を使えばこの俺自身を生き返らせる方法もあるんじゃないのか』

「馬鹿な……そんな事、出来るはずがない。死んだ人間を完璧に蘇らせる方法なんてあるわけがないだろう!!」

『本当にそう言い切れるのか?女王よ、お前ならどう思う?』

「それは……」



バッシュの言葉にライオネルは否定するが、リルの方は即答する事が出来なかった。これまでにレアが見せてきた文字変換の力を思い返し、彼ならば本当に人を蘇らせる事が出来るのではないかと考えてしまう。


だが、レア本人は死体に対しては解析の能力が通用しないという話をしていた事を思い出し、彼自身が死体を蘇らせる事は出来ない。それを思い出したリルはバッシュに不可能だと伝えた。



「……不可能だ、確かにレア君は特別な力を持っている。だが、死人を蘇らせる術などあるはずがない」

『そうか、だがどんな物でも作り出せる力ならば……伝説の秘薬をも作り出せるのではないか?』

「伝説の秘薬……まさか、復活薬の事を言っているのか!?」



伝説の秘薬という言葉にすぐにリルの脳裏に過去に召喚された勇者が残したという薬の事を思い出す。薬を作り出したのはかつて森の民を疫病から救い出した勇者と同一人物であり、その勇者はありとあらゆる薬を作り出した。その中の一つは人を蘇らせる薬も含まれていたという。


復活薬とは傷や怪我を治す回復薬を究極的に高めた効果を持ち合わせ、既に死亡した人間であろうと効果を発揮する。復活薬を浴びた死体は肉体の機能が復活し、破損した箇所は再生を行う。それは脳細胞であろうと例外ではなく、生前と同じ状態に戻すという。つまり、肉体が原型を留める程に残っていれば復活薬で蘇生を果たす事が出来ると伝えられていた。



「馬鹿な、あれはただの伝説だ!!人が蘇るはずがない!!」

『何故、言い切れる?お前達も勇者という存在と触れ合ったならば知っているだろう。奴等は特異な存在だと……我々が持ち合わせない特殊な能力を奴等は持っている。ならば、その能力を使えば人を蘇らせる術を持っていてもおかしくはあるまい』

「そ、それは……」



バッシュの言葉にリルはこれまでにレアが引き起こした「奇跡」を思い返し、どんな窮地に陥ろうとレアの「解析」と「文字変換」の能力で乗り越えてきた事を思い出す。


レアの能力は4人の勇者の中でも最も異質であり、その気になればこの世界を支配する能力を持っている。仮に悪人がレアの能力を手にした場合、この世界はどうなるのか考えるだけでも恐ろしい。


文字を書き換えるだけであらゆる物を作り出すレアならば本当に伝説の秘薬を作り出せるかもしれず、それを否定する事は出来ない。バッシュの目的はレアに秘薬を作り出し、現在の自分の状況を抜け出すのが目的だった。



『所詮は今の俺は他人に生かされている傀儡にしか過ぎん。だが、もしもこの肉体を蘇らせる事が出来れば俺は自由を取り戻せる……そのためならば手段は選ばんぞ』

「ぐっ……」

「リル女王、下がれ!!ここれは俺が食い止める!!なんとしても逃げるのだ!!」



バッシュの目的を聞かされたリルとライオネルは彼が本気で言っている事がひしひしと伝わり、目的のためならばバッシュはレアが訪れる前に彼の大切な人間を拘束し、人質にして交渉を仕掛けるためにこの城に訪れていた。

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