第807話 悪霊を絶つ

「ば、馬鹿な……くそ、軟弱な肉体め……」

「ここまでのようだ……これで終わりだ!!」

「舐めるな……獣人如きがぁっ!!」



膝を着いたホムラは顔色を青くしながらもカグツチを構えるが、黒炎を生み出す余力は残っておらず、何も反応を示さない。その様子を見ていたライオネルは鉤爪を振りかざし、渾身の一撃を加えようとした。



「うがぁっ!!」

「ぐうっ……がはぁっ!?」

「やったか!?」



振り払われた鉤爪に対してホムラは刃で受けようとしたが、その衝撃を抑えきれずに身体が吹き飛び、壁際へと叩きつけられる。その際に彼は口元から黒い血液のような物を吐き出し、倒れ込む。


リルはホムラを倒したのかと思ったが、ライオネルはそんな彼女を制するとゆっくりと彼の元に近付く。見た限りでは意識を失っているようだが油断は出来ず、ライオネルは倒れたホムラを見下ろす。



「まだ意識があるなら答えてもらうぞ、勇者よ!!我々に何の恨みがあってここへ来た!!」

「はっ……恨み、だと?そんな物はない、俺の狙いは……お前等なんかではない」

「何だと!?」



ライオネルはホムラの言い回しに怒りを抱き、彼の身体を持ち上げる。首を鷲摑みされながらもホムラは飄々とした態度と表情で言い放つ。



「俺を殺すのか、それもいいだろう。だが、俺を始末した所でこの世界の勇者が一人消えるだけだ……」

「貴様、何を言っている!!」

「待ってくれ!!大将軍、こいつには聞きたいことがある!!」



今すぐにでもホムラの首をへし折りかねないライオネルをリルは引き留めると、彼女はホムラの元へ向かい、以前に出会った時と明らかに異なる彼に疑問を抱く。


彼女が知っている「剣の勇者」は武人としても人としても未熟で情けない精神の男だったが、目の前に捕まっている青年は彼女が以前に遭遇した「シュン」とは性格が違い、まるで別人だった。実際に最初に遭遇した時から言動がおかしく、同一人物とは思えない。



(この男は本当にあの剣の勇者なのか?確かに見てくれはそっくりだが、態度も性格も全然違う……だが、別人とも思えない)



前に出会ったシュンと現在のホムラの違いにリルは気づき、今の彼が普通の状態ではない事は間違いなかった。すると、尾れたはずの妖刀が唐突に反応を示し、彼女は驚いたように振り返る。



(ムラマサ……!?)



リルは刃が折れたムラマサに視線を向け、ここで彼女は妖刀がホムラに反応を示している事に気付く。彼女は自分の妖刀に視線を向け、何を思ったのかゆっくりと刃を近づける。その行為にライオネルは驚愕した。



「リル女王!?いったいなにを……」

「黙っててくれ……今、集中しているんだ」

「何をするつもりだ……や、止めろっ!?」



妖刀の刃を伸ばしてきたリルに対して初めてホムラは動揺したような表情を浮かべ、彼は必死にライオネルを引き剥がそうともがく。どうやらムラマサの刃が近付くのを恐れているらしく、そんな彼を見てリルは思い切って妖刀の刃を触れさせる。


間違っても殺さないようにリルは刃をゆっくりと押し当てると、突如としてホムラの身体は硬直し、ここで彼の身体から闇属性の魔力が溢れ出す。それに反応するように妖刀の中に魔力が流れ込む。



「あがぁっ!?や、止めろっ……!?」

「こ、これは……!?」

「大将軍、そのまま抑えていろ!!」



ムラマサを通してホムラの身体に宿った闇属性の魔力を吸い上げていくと、唐突に彼は苦しみもがき始め、口元や目元から黒色の血のような物を流す。その血の正体が魔力の塊だと気付いたリルは更に魔力を搾り取る。


剣の勇者であるシュンに憑依したホムラの魂は闇属性の魔力の力によって肉体に執り憑いており、その魔力を奪われればホムラも無事では済まない。魔力を完全に失えばホムラは肉体に憑依する事は出来ず、彼は必死にもがく。



「や、止めろ……止めてくれぇっ……!!」

「そうか、お前の正体がやっとわかったぞ……勇者の肉体から離れろ、悪霊め!!」

「悪霊、だと……この俺を……誰だと思って……あ、がぁあああっ!?」



自分の事を悪霊呼ばわりしたリルに対してホムラは怒りを抱き、苦し紛れにカグツチを振り払おうとした。だが、それに対してライオネルは壁際にホムラを叩きつけ、反撃を阻止した。



「無駄なあがきをするな!!貴様はもう負けたんだ!!」

「負けた……ふざ、けるな……俺は、もっと強い肉体を手に入れて……この世界の、王に……!!」

「……お前に王を名乗る資格はない」



リルはホムラの言葉を聞いて淡々と告げると、刃を更に押し込む。その結果、肉体から黒煙のように闇属性の魔力がこぼれだし、やがて妖刀ムラマサの刀身が黒く染まった。


ライオネルはシュンを手放すと、彼が手にしていた妖刀カグツチが床に転がり、先ほどとは雰囲気が変わって赤色に光り輝く刀身と化す。長年の間、妖刀に憑依していたホムラの魂が消え去った事により、妖刀は本来の姿を取り戻したのだった。





※ちょっと遅れました。実はこっそり新作も投稿してます(^ω^)タイトルは「貧弱は英雄になれますか?」です。

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