第803話 大将軍VS勇者

――時刻は数分前に遡り、転移台から溢れるアンデッドに紛れ、玉座の間に向かう人影が存在した。城内は大量のアンデッドの出現によって混乱状態へと陥り、誰もその人影に気付く事はない。


城内に存在する獣人族の兵士達は人よりも鼻が利くため、普通ならば侵入者が現れたとしても臭いで気づく可能性が高い。だが、アンデッドの腐敗臭が城内に放たれた事で侵入者は誰にも気づかれる事はなく、玉座の間の扉の前へと到達した。



「ここか……女王とやらがいる場所は」



玉座の間の扉に辿り着いた侵入者は全身をマントで覆い込み、音も立てずに扉へと近寄る。そして腰に差した剣を引き抜こうとした時、上空から大きな影が現れる。



「ぬんっ!!」

「ぐぅっ……!?」



上空から突如として現れた人影の正体は大将軍であるライオネルだった。彼は両手に鉤爪を装着した状態で侵入者に襲い掛かり、その身に付けていたマントを切り裂く。



「貴様、何者だ!!」

「……よく気づいたな、やっと歯ごたえの有りそうな奴が出てきたな」



ライオネルは身構えると、マントを切り裂かれた侵入者は笑みを浮かべ、破れたマントを脱ぎ去る。正体を現したのは人間の少年であり、その手には魔剣「カグツチ」が握りしめられていた。


侵入者の容姿、更には手にした武器を見てライオネルは驚き、事前に彼も帝国の勇者の報告を受けていた。すぐにライオネルは少年の正体が「シュン」だと気付くと、激高したように怒鳴りつける。



「まさか、帝国の勇者か……いったい何をしに来た!?」

「さあな……それを答える義理はない」

「そうか、ならば貴様を侵入者と判断し、この場で拘束してやろう!!」



相手が勇者であろうと城内に勝手に忍び込んだ存在を許しはせず、ライオネルは両手の鉤爪を重ね合わせると怒気を放つ。その彼の威圧感にシュンに憑依したホムラは笑みを浮かべ、この時代に訪れて初めて出会った強者に喜ぶ。



「いいね、あんた……少しだけ遊んでやるよ」

「舐めるな、ガキがっ!!」



ライオネルはホムラに対して右腕を振りかざすと、勢いよく振り下ろす。その光景を見たホムラは咄嗟に剣で受けようとしたが、ここで右腕の鉤爪が刃に触れる寸前に停止し、反対の左腕が襲い掛かる。



「ぬんっ!!」

「おっと、フェイントかっ!!中々やるな!!」



右腕を囮にして本命は左腕の鉤爪で胸元を貫こうとしてきたライオネルにホムラは少しだけ驚いた表情を浮かべるが、尋常ではない反射神経で攻撃を躱す。


自分の攻撃を軽々と躱したホムラにライオネルは一瞬だけ驚くが、すぐに気を取り直して攻撃を続ける。相手に攻撃を仕掛ける暇もなく、反撃の隙も与えずに攻勢を仕掛けた。



「がああっ!!」

「うおっ!?獣かよ!?」



鋭い犬歯を剥き出しにして噛みつこうとしてきたライオネルに慌ててホムラは後ろに下がって距離を取るが、即座にライオネルはその後を追いかけ、鍵爪を振りかざす。


この国の大将軍であるライオネルの実力は高く、特にレアが訪れてからはより一層に鍛錬に励む。この国の将軍の頂点に立つ身として彼も修行は怠らず、そのレベルはもう60を軽く超え、70に近い。



「ぬんっ!!」

「うおっ!?」



鉤爪の一撃が遂にホムラの刃を弾き返し、彼に隙を作り出す。その光景を見てライオネルは右足を繰り出し、ホムラの身体を蹴り飛ばす。



「これで終わりだ!!」

「ぐふっ!?」



ホムラの身体が大きく吹き飛ぶと近くの柱に叩き込まれ、この際に柱に罅割れが生じるほどの勢いで叩きつけられる。ホムラは血反吐を吐きながら床に倒れ込み、動かなくなった。


その光景を見てライオネルは倒したかと思ったが、蹴りつける際に感じた違和感にライオネルは冷や汗を流し、倒れ込んだホムラに視線を向けた。



(何だ、今の感触は……!?)



蹴りつけた際にライオネルはホムラの胴体に足が触れたのだが、その時に感じたのはまるで鋼鉄の塊を蹴り込んだかのような感覚であり、尋常じゃない程にホムラの肉体は硬かった。巨人族の中には筋肉を凝縮させて防御を固める「硬皮」と呼ばれる戦技を扱う存在もいると聞くが、ホムラの場合も肉体が異様に硬い。



「……ちっ、流石に今のは油断してたな」

「貴様……!?」

「だが、その程度の攻撃じゃ……勇者の肉体は壊れないんだよ」



ホムラは何事もなかったように立ち上がると、口元の血を拭って笑みを浮かべた。自分の一撃を受けても尚立ち上がったホムラにライオネルは戸惑うが、すぐに彼は回し蹴りを繰り出す。



「このっ……!?」

「ぐっ……効かねえなぁっ!?」



ライオネルの回し蹴りが今度は顔面に的中したが、ホムラはその場に踏み止まると、少しだけ鼻血を流しながらも彼は拳を振りかざし、ライオネルの身体を殴り飛ばす。


殴りつけられたライオネルの身体は数メートルは後退し、体調が2メートル近くも存在し、体格に関しては城内の中で最も大きい自分が吹き飛ばされた事にライオネルは戸惑う。

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