第801話 ケモノ王国の王都では

――世界各地にて送り込まれた転移台から大量のアンデッドが出現する頃、ケモノ王国の王都の王城でも同様に転移台に異変が起きていた。この王城には複数の転移台が存在し、その全ての転移台からアンデッドが出現していた。



『アアアアアッ!!』

「だ、団長!!やはりこいつら、転移台から出現しているようです!!」

「いくら倒しても切りがありません!!」

「泣き言を言うな!!何としても食い止めろっ!!」



城内に滞在していたチイは白狼騎士団の騎士達と共に王城に乗り込んできたアンデッドを打ち倒し、転移台が設置されている部屋へ向かう。全ての転移台は王城の一室に保管しているため、そこから一気に大量のアンデッドが溢れて城の内部に押し寄せていた。


聖剣フラガラッハを所持するチイを筆頭に白狼騎士団も対処するが、アンデッドの数があまりにも多く、しかもいくら倒しても新手が押し寄せる状態だった。その事からチイは煩わしく思い、援軍はまだかと怒鳴りつける。



「くっ、まだ他の者は来ないのか!?」

「遅くなったでござる!!」

「……お待たせっ」



チイの怒鳴り声に返事が来た瞬間、何処からともなくハンゾウとネコミンが姿を現す。二人ともチイと同様に聖剣フラガラッハを所持しており、それらを利用してアンデッドを切り裂く。



「二人とも、遅いぞ!!」

「面目ないでござる!!少し城下町の方を出歩いていたのでござるが……」

「言い訳は後、今は倒す事に集中する」

『アアアアッ!!』



大量のアンデッドに対して聖剣を所持したチイたちが対処するが、他の地域で召喚されるアンデッドよりもこの城に送り込まれるアンデッドは数が多く、しかも巨人族やドワーフなどのアンデッドも多数含まれていた。


巨人族のアンデッドは巨体を生かして押し潰そうとするのに対し、ドワーフの方は小柄な体型を生かして攻撃を搔い潜りながら襲い掛かる。やがて白狼騎士団にも被害が生じ始め、次々とやられていく。



「がああっ!!」

「ぐあっ!?」

「お、おい!!大丈夫か……うわぁっ!?」

「あがぁっ!!」

「くっ、私の部下から離れろっ!!」



チイは出来る限りは他の団員の援護に回るが、それでも敵の数が多すぎて全ての団員を守り切る事が出来ない。白狼騎士団は正真正銘この国の騎士団の中でも最強の騎士団だが、それでも敵の数があまりにも多く、同時に強すぎた。



「ふんっ!!」

「があっ……!?」



ハンゾウは巨人族のアンデッドに向けて刃を振りかざし、その胴体に突き刺す。アンデッドは聖剣の力で浄化されようとするが、この時に突き刺された刃を握りしめる。



「あああっ……!!」

「ぬあっ!?は、離すでござるっ!!」

「ハンゾウ、気を付けて!!」

『がああっ!!』



聖剣を掴まれたハンゾウは必死に引き抜こうとするが、そんな彼女の傍に他のアンデッドが押し寄せ、彼女は聖剣を手放して避けるしかなかった。巨人族のアンデッドは前のめりに倒れ込み、その際に聖剣は下敷きになってしまう。


これでは回収するのに時間が掛かってしまい、その間にハンゾウは他のアンデッドに追い込まれる。この際に彼女は腰に差していた刀に視線を向け、覚悟を決めた様に引き抜く。



「こうなれば仕方ないでござる……我が妖刀の力、味わわせるでござる!!」

「妖刀!?」

「ハンゾウ、それは……!?」



ハンゾウは覚悟を決めた様に刀を引き抜くと、その刃の色は紅色に光り輝いている事にチイ達は気づき、驚愕の表情を浮かべた。ハンゾウが持つ刀は明らかに普通の武器ではなく、妖刀の類であった。



「紅月!!お主の力を貸してほしいでござる!!」

「紅月、だと!?」

「まさか、ツルギが所有していたあの刀?」

『おあっ……!?』



刃を晒したハンゾウは刀を構えると、それを見たチイとネコミンは驚きを隠せず、ハンゾウが取り出したのは間違いなく、あの剣聖のツルギが所有していた妖刀「紅月」だった。


ツルギが打ち倒された後、彼が所持していた妖刀は回収され、後に和国に彼女が帰還した際に和国の鍛冶師に打ち直された。ハンゾウが一時期帰還が遅れたのはこの妖刀を磨き上げるためでもあり、彼女は打ち直された紅月を振りかざす。



「参る!!」

「待て、ハンゾウ!!こいつらには普通の武器は……」

『があああっ!!』



如何に妖刀とはいえ、聖属性の魔力を宿していない武器ではアンデッドを浄化する事は出来ない。だが、それはハンゾウも承知済みであり、彼女は妖刀で切り払う。



「かあっ!!」

「ぎゃうっ!?」

「あがぁっ!?」

「あああっ!?」



妖刀で切り裂かれたアンデッドたちは悲鳴を上げ、切り裂かれた箇所は地面におちた瞬間、灰のように消えてしまう。その光景にチイたちは驚くと、ハンゾウは紅月を手にしながら告げる。



「この刀が妖刀を呼ばれた所以は切りつけた傷口が治らず、この刀に突き刺された存在は生命力を奪われるでござる。しかし、打ち直されたこの刀は相手の生命力を絶つ力を手に入れたでござる!!」

「で、ではアンデッドにも対抗できるのか!?」

「その通り!!この刀はもう妖刀ではござらん、和国一の鍛冶師に鍛え上げられた真の名刀と進化したでござる!!」



ハンゾウは誇らしげに紅月を構えると、彼女はアンデッドの大群に向けて突っ込み、まるで舞うように相手を切りつけていく。

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