第800話 因縁の相手

――同時刻、ケモノ王国の北方領地の方でも転移台から大量のアンデッドが転移され、その対処のためにガームは自分の領地の兵士達を引き連れて対処を行う。



「ガーム将軍!!いくら倒してもアンデッドの数が減りません!!」

「こちらの被害は甚大です!!教会に協力を求めていますが、まだ聖水を確保しきれていません!!」

「泣き言を抜かすな!!ここで我々が食い止めなければどうしようもないのだ!!」



北方領地では転移台はガームが暮らす屋敷の中ではなく、彼の領地に存在する砦の中で保管されていた。しかし、その砦も大量のアンデッドが占拠し、アンデッドの大群が外へ出てこないようにガームは動かせるだけの兵士を連れて砦を包囲した。


現時点ではアンデッドがどうして大量に湧き出したのか理由は掴めておらず、砦から急に大量のアンデッドが出現したという報告だけを受けていた。ガームも事態を完璧には把握しておらず、今回の攻撃が魔王軍の仕業なのかと疑う。



「砦から更に新手が出現しました!!しかも今度は巨人族のアンデッドも多数含まれております!!」

「くっ……魔王軍め、いつのまに我が砦に侵入してきたのだ!!」

「まさか地下から忍び込んできたのか!?それとも……」

「今は言い争っている暇はない、なんとしても食い止めろ!!砦を焼き払えっ、時間はないぞ!!」



アンデッドが出現する理由も分からず、砦の内部で何が起きているのかはガームも把握していない。だが、このままでは溢れるアンデッドを抑えきれないと判断したガームは火を放ち、砦を焼き尽くす事で内部のアンデッドを焼き払う事を決断した。



「何としても食い止めよ!!我々はケモノ王国最強の軍隊だ、アンデッド如きに後れを取る事は許されん!!」

「はっ、はい!!」

「火矢を放て!!油と火属性の粉末も用意しろ!!」



ガームの指示の元、すぐに弓兵が集められて砦に向けて火矢を放つ。ケモノ王国では魔術師の数は少なく、火責めを行う際は魔法の力ではなく、火矢や油を使用しなければならない。


油の他に火属性の粉末を用意したのは可燃性が高く、火薬の代わりに利用できる。但し、魔石や魔法の類で起こした炎は火力は強いが長続きはせず、短期決戦の際にしか使用されない。



「砦に投げこめ!!奴等を焼き尽くせ、1匹も逃すな!!」

「うおおおおっ!!」

『がああああっ!!』



砦に向けて次々と油の入った小壺や魔石の粉末が入った袋が放り込まれ、兵士達は火矢を放つ。砦のあちこちに火が放たれ、内部に存在するアンデッドも焼かれていく。


死体が焼かれる臭いが充満し、鼻が利く獣人族の兵士にとっては最悪の状況に陥り、彼等は悪臭を耐えながら戦湧けらばならない。一方でアンデッドの方も身体が焼き尽くされては流石に活動が出来ず、どんどんと地面に倒れ込む。



「将軍!!奴ら、次々と倒れていきます!!この調子ならば……」

「油断はするな!!休まずに火矢を撃ち続けろ!!」

「はいっ!!弓兵、もっと撃ち込め!!」

『はっ!!』



弓兵は次々と火矢を放ち、やがて砦全体が炎に包まれていく。その光景を確認してガームはこれでアンデッドは始末出来たかと思った時、不意に砦の中から咆哮が響き渡る。




――シャアアアアアッ!!




まるで竜種や蛇のような声を想像させる咆哮が放たれると、焼け崩れていく建物の中から全身が火に飲み込まれた人影が姿を現す。その光景を見た者達は驚き戸惑い、やがて火に包まれた人影は地面に転がり込む。


身体に纏った炎を地面に転がる事で消し去ると、姿を現したのは人間とはかけ離れた容貌をした生物であり、まるでトカゲと人間が合わさったような存在だった。それを見たガームはすぐに正体に気付く。



「まさか……竜人リザードマンか!?」

「あ、あれは……間違いありません!!奴です!!」

「あの時の化物か!?」



ガームの言葉を聞いて他の兵士達も戸惑い、一方で砦から抜け出してきた竜人は身体を起き上げると、堂々と言い放つ。



『我が名はジャン!!剣の魔王様の配下にして蛇竜軍王なり!!今日を以てこの地は魔王様の物となる!!降伏するならば奴隷として生かしてやろう!!だが、歯向かう者は全員焼き尽くしてやる!!』



剣の魔王の片腕である「ジャン」が姿を現すと、兵士達に対して宣言を行う。その光景を見ていたガームは怒り狂い、彼と対峙するのは初めての事ではない。



「おのれ……よくも我々の前に姿を現せたな!!」



かつてジャンはギガンと共に復活し、この北方領地に侵入して大きな被害を与えた。この場に存在する兵士達の多くもジャンの姿を目撃しており、前回はジャンによって大勢の仲間を殺された事を思い出す。


憎き仇が現れた事にガームは怒り狂い、兵士達も殺気立つ。その光景にジャンは臆した様子もなく、むしろ嬉しそうに笑みを浮かべた。



『ふん、誰かと思えば我が復活した時に相手をしてやった雑魚共か!!ならば貴様等に奴隷としての価値もない、ここで死ぬがいい!!』

「貴様ぁあああっ!!」

「生かして帰すなっ!!」

「戦友の仇、ここで討てっ!!」



ジャンの元に大勢の兵士が押し寄せ、それに対してジャンは逃げる素振りもなく、堂々と正面から迎え撃つ――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る