第798話 その頃の帝国では……

――巨塔の大迷宮にてシゲルが転移台から送り込まれるアンデッドと対峙している頃、帝国の城の方でも大惨事が勃発していた。それはケモノ王国から送り込まれた転移台が勝手に起動し、大量のアンデッドがこちらにも出現していた。



『アアアアアアッ……!!』

「な、何だこいつらは!?」

「きゃあああっ!?」

「ア、アンデッドがどうしてここに!?」



城の中は混乱に陥り、大量のアンデッドに対して使用人は逃げ惑い、兵士達は必死に戦うが、次々とアンデッドが転移台から送り込まれてきた。



「いったいどうなってるんだ!?何が起きてるんだこれは!!」

「分からん!!だが、転移台が設置されている部屋からこいつらが出現しているようだぞ!!」

「まさか……ケモノ王国の仕業か!?奴等、この城にアンデッドを送り込んでいるのか!?」



転移台から大量のアンデッドが出現している事に兵士達は気づき、転移台を送り込んだのがケモノ王国である事から彼等はケモノ王国が仕掛けてきたのかと勘違いする。


帝国と王国は同盟関係とはいえ、これまでに何も因縁がなかったわけではない。特にこの一年の間に両国は色々と問題があったため、兵士達は王国が仕掛けてきたと判断した。



「くそ、奴らめ!!よりにもよってこの王城を狙うとは!!」

「許せん、あいつらめ!!」

「まさか、勇者様達を独占するつもりか!?」



勇者がケモノ王国に送り込まれた途端にアンデッドの大群が王城内に出現した事で兵士達は一層に王国を怪しみ、これは王国が帝国に対して戦争を仕掛けているのではないかと考える輩も居た。



「奴ら、本格的に我等と戦うつもりか!!」

「おのれ、小国の分際で……」

「今はそんな事を言っている場合か!!早く、こいつらを何とかしろ!!」

「何とかと言われても……どうすればいいんだ!?」

『アアアアッ!!』



アンデッドの大群は次々と転移台から送り込まれ、このままでは城を飲み尽くす勢いで数を増していく。兵士達も応戦するが抑えきれる数ではなく、しかもアンデッドを普通の武器ではアンデッドを完全に倒す事は出来ない。


このままでは城を放棄して逃げ出す以外に方法はないのだが、アンデッドに覆いつくされた廊下にて一人の将軍が駆け抜け、大量のアンデッドを吹き飛ばす。



「ふんっ!!」

『ぎゃあああっ!?』

「キ、キニク将軍!?」



姿を現したのはこの国の将軍にして勇者達の指導役でもあるキニクが現れると、彼は人間とは思えぬ圧倒的な筋力でアンデッド達を吹き飛ばし、転移台が存在する部屋へと向かう。



「退け!!退くんだ!!」

「があっ!?」

「あがぁっ!?」

「ぎゃああっ!?」

「す、すげぇっ……あのアンデッドの大群の中を移動してるぞ!?」

「なんて人だ……」



キニクはアンデッドを蹴散らしながら転移台が設置されている部屋へと向かい、徐々に近付いていく。だが、彼が部屋の前に辿り着く前に今度は部屋の内側の扉を破壊して巨人族のアンデッドが出現した。



「ふうっ……ふうっ……!!」

「……巨人族か、面白い!!」

「だ、駄目です将軍!!それはいくらなんでも……!?」



巨人族のアンデッドを見たキニクは頬に汗を垂らしながらも向かい合い、両腕を広げる。いくらキニクが人間の中では腕力に優れているとはいえ、相手は全ての種族の中でも力に特化した存在である。


兵士達はキニクが巨人族のアンデッドに襲い掛かられる場面を見て彼が殺されると思ったが、この時に反対方向の通路からアンデッドの群れを飛び越え、巨人族のアンデッドの背中に剣を突き刺す少女が現れた。



「はあああっ!!」

「がああああっ!?」

「アリシア姫!?」



姿を現したのは本物の聖剣フラガラッハを携えたアリシアであり、彼女は聖剣を突き刺した瞬間に巨人族のアンデッドは悲鳴を上げ、そのまま浄化されて骸と化す。


聖剣フラガラッハはエクスカリバーと同様に聖属性の魔力を宿しており、聖剣で攻撃されたアンデッドは闇属性の魔力が浄化され、一瞬で元の死体と化す。アリシアは剣を引き抜くと、続けて周囲に存在するアンデッドに聖剣を振り払う。



「剣舞!!」

『あぁああああっ!?』



アリシアは舞うように剣を振り払い、次々とアンデッドを切り払うと、刃が掠っただけでもアンデッドたちは浄化され、倒れ込む。廊下を埋め尽くす勢いで増えていたアンデッドたちは次々と浄化されていく光景に兵士も将軍も驚愕する。



「す、凄い……流石はアリシア様!!」

「これが聖剣フラガラッハの力なのか……」

「でも、いくらなんでも凄すぎないか?アリシア様がここまでお強く成長されていたなんて……」



普段からアリシアと接している者から見ても現在の彼女の動きは常識離れしており、今までのアリシアとはかけ離れた力に戸惑う。しかし、そんな呆然としている者達に対してアリシアは一括する。



「何を呆けているのですか!!貴方達もしっかりと戦いなさい!!」

「は、はい!!」

「姫様に加勢しろ!!」

「うおおおおっ!!」



アリシアの激励に兵士達も士気を取り戻し、彼等もアリシアに加勢してアンデッドの討伐に尽力を尽くす。その一方でアリシアはアンデッドが出現した部屋に視線を向け、キニクに頷く。

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