第796話 転移台の秘密

――大迷宮の第三階層にてレアが砂嵐に襲われている頃、帝国の勇者であるシゲルとヒナは先に帰還し、休憩を取っていた。ここ最近は修行ばかりで身体を休める暇もなく、二人は久々に穏やかな時間を過ごす。



「う〜んっ、美味しいな。帝国のお菓子もいいけど、ケモノ王国のお菓子も美味しいよ」

「たくっ、本当に甘いものが好きだなお前……まあ、たまには悪く無いけどよ」



ヒナとシゲルはレアが戻ってくるまでの間、巨塔の大迷宮の管理を行う兵士の宿舎で休ませてもらっていた。修行を終えたら王都へ戻るように指示されているが、二人はレアが戻るまで待つ事にした。


帰還の方法はレアが以前に制作した「小型転移台」が巨塔の大迷宮にも送られているため、それを利用すれば一瞬で王都へ戻る事が出来る。巨塔の大迷宮以外にも緊急時に備え、転移台はケモノ王国の重要拠点に配置されている。



「はあ、それにしてもきつい修行だったな……けど、お陰で強くなれた気がするぜ」

「私もレベルが60まで上がったよ。いっぱい魔物さんを倒したし、新しい魔法も使えるようになったんだ〜」

「俺もあと少しで70だ……これだけの力があれば、あの馬鹿を止められるかもな」



シゲルは姿を消したシュンの事を思い返し、ため息を吐き出す。最後に彼と別れた時の出来事を思い出し、彼はシュンに殺されそうになった事を思い返す。



(くそっ……あの馬鹿、人の話を聞かずに行きやがって)



シュンが魔剣の力を利用し、自分達を殺そうとした事に関してはシゲルも色々と思う所はある。だが、それでも彼はシュンを助けたいと思っていた。シュンがあんな風に変貌する理由は自分達にもあると考え、彼はシュンがどこにいるのかと案じる。



(あの馬鹿、間違いだけは起こすなよ……)



考えたくはないが、もしもシュンが魔剣を利用して悪事に走った場合、止める事が出来るのは同じ勇者である自分達だけだとシゲルは考えていた。今のシュンの力は普通の人間が勝てるレベルではなく、仮に軍隊を派遣しても止められる保証はない。


シュンが手にした魔剣は絶大な力を誇り、その力は聖剣にも匹敵する。さらにシュンは剣の勇者であるため、魔剣や聖剣の力を普通以上に引き出す力を持っている。その事を考えると今のシュンを止められる人材は彼と同じ勇者である自分達しかいないと考えていた。



(あの野郎、一発ぶん殴って正気に戻してやる)



自分が殺されかけたにもかかわらずにシゲルはシュンの事を憎んではおらず、むしろ自分達の手ですくう事を誓う。この世界に召喚されてから1年近くが経過するが、シゲルはシュンの事を親友のように想っていた。


親友が過ちを犯したのならばそれを止めるのが自分の役目だとシゲルは考え、この修行が終わった後も彼は強くなるために特訓に励むつもりだった。しかし、そんな彼とヒナの元に慌てた様子の兵士が訪れる。



「た、大変です!!勇者様!!」

「むぐぅっ……!?」

「うおっ!?な、何だ急にっ!?」



部屋の中に許可もなく入ってきた兵士にシゲルとヒナは驚き、ヒナに至っては頬張っていた御茶菓子が喉に詰まりそうになった。その様子を見て兵士は慌てて膝をつくが、二人に用件を伝える。



「先ほど、解析の勇者様がお送りになられた小型転移台を管理する兵士から報告が届きました!!唐突に転移台が光り輝き、様子がおかしいとの事です!!」

「転移台?ああ、あのワープできる奴か」

「けほけほっ……わ、私達が移動する時に使った奴だよね」



小型転移台という言葉にヒナとシゲルは思い出し、数日前に二人は王都から巨塔の大迷宮まで転移する際に使用した魔道具だと思い出す。



「その小型転移台とやらがどうしたんだよ?急に光っただけか?」

「それが……我々も分かりません。小型転移台は我々も普段から使用していますが、起動させるとき以外に転移台が光った事など一度も有りません」

「誰かがこっちに転移しようとしてるのかな?」

「いえ、転移台の方は光を放ち続けるだけで未だに誰かが転移する様子はありません。ですが、転移台の方は使用不可能な状態です。こちら側では起動する事は出来なくなりました」

「何だと?じゃあ、俺達は戻れないのか!?」

「ええっ!?」



王都へ繋がっている小型転移台が突如として光り輝き、転移の機能が発動しなくなったという言葉にシゲルとヒナは驚き、この巨塔の大迷宮から王都までは相当な距離が存在する。


転移台を使用できなければ王都に移動するまで相当な時間が掛かるが、重要なのはどうして急に転移台が起動しなくなったのかだった。シゲルは転移台の事が気に掛かり、自分で調べる事にした。

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