第795話 魔王城崩壊

――瓦礫と砂に生き埋めにされる寸前、レアはデュランダルを取り出して衝撃波を放つ。今回ばかりは手加減など出来ず、全力の一撃を繰り出した。その結果、強烈な衝撃波が天井を破壊し、地上まで吹き飛ばす。


天井に出来た穴からレアは地上へ抜け出すと、何が起きたのか魔王城が崩壊し、建物は原型を留めていない程に砕け散っていた。建物が老朽化して壊れた可能性もあったが、それでも急に壊れるなど普通ではない。



「いったい何が……」



崩壊した城から抜け出したレアは周囲の様子を伺い、誰か他に潜り込んでいるのかを探す。念のために地図製作を発動させ、自分以外の存在が居るのかを確認する。



「反応は……ない?」



だが、予想に反して地図製作の画面上には生物の反応は捉え切れず、この地図製作は気配感知と魔力感知の二つの技能を取り込んで反応を示しているため、仮に相手が死霊人形やアンデッドの類でも表示される。


それでも反応がないという事はこの付近には敵が存在しない事を意味しており、偶然にも城が崩壊した事になる。しかし、何十年もしくは何百年も激しい砂嵐を受けてもびくともしなかった城が急に壊れるなど考えにくい。



(誰かがこの場所に忍び込んで城を破壊したのなら反応はあるはず。ただの偶然なのか……?)



レアは崩壊した城に視線を向け、念のために調査を行う。まだ敵が隠れている事を考慮し、慎重に行動を行う。



(そういえば前に鉱山で戦った敵も地図製作に反応がなかった。感知を無効化する魔道具でも身に付けて隠れているのか?)



ホムラ鉱山にてレアは自分の地図製作に反応しなかった死霊使いの少年の事を思い出し、彼は伝説級の魔道具「見隠しのマント」と呼ばれる代物を身に付けていた。その魔道具は前回で回収済みだが、もしかしたら同じ物を魔王軍が所持している可能性はあった。


敵に警戒しながらもレアは崩壊した魔王城の調査を行い、この時に瓦礫の中から思わぬ物を発見した。元々は城の頂点付近の部屋に隠された代物だと考えられ、驚いた様子でレアは発見した物を覗き込む。



「これは……転移台?どうしてこんな場所に……」



魔王城の最上階の部屋に隠されていたと思われる「転移台」を見てレアは動揺し、どうしてこの場所に転移台が存在するのかと戸惑う。この第三階層の転移台は魔王軍が作り出した街の方にあるはずだが、この場所にも転移台がある事に戸惑う。


基本的には各階層に存在する転移台は1つのはずであり、この第三階層に元から存在した転移台は魔王軍が作り出した街の広場にあった。こちらの方は元々は転移台が存在する場所に街を作り上げた可能性が高い。


だが、魔王城の最上階に存在する転移台は以前にレアが城を襲撃した暗殺者から回収した代物と同じ物であり、こちらは持ち運びが出来る転移台で間違いなかった。



「この転移台は俺達が使っている物と同じだとしたら……まさか、魔王軍がこれを作り出したのか?」



城の中に転移台が存在する事にレアは戸惑うが、もしも魔王軍がこの小型の転移台を開発していた場合、これを利用して外の世界へ移動していた可能性もある。レアは転移台に視線を向け、緊張した面持ちで触れる。



「こいつを使えば何処に転移されるんだ……?」



この転移台は行先が固定されているはずであり、同じ型の転移台にしか転移できない。それならばこの転移台を利用して別の場所へ転移できる可能性はあった。


幸いにも壊れてはおらず、このまま放置するわけにもいかない。もしも何者かが城を崩壊させる前にこの転移台を利用し、別の場所へ避難していたのであればこれを使用すれば逃げた人物を追いかけられるかもしれない。



(どうすればいいんだ、これ……)



転移台を前にしたレアは悩み、とりあえずは放置する事はあり得ない。だが、不用意に転移台を起動させても罠だった場合を考えると迂闊に使用する事も出来ない。悩んだ末にレアは転移台に視線を向け、ここで「解析」を発動させる。



(そうだ、解析を使えば行先が分かるかも……)



解析を発動させる事で転移台の詳細を確認し、行先の確認を行う。だが、この時にレアは転移台の内容を確認した瞬間、とんでもない事実が判明した。



「えっ……!?」



画面に表示された文章を確認し、その内容を見たレアは目を見開く。あまりの驚愕にレアはその場にへたりこみ、唖然とした。



「ま、まずい……すぐに、すぐに戻らないと!!」



レアは急いで大迷宮を脱出し、外に存在する者達と合流する事にした。急がなければ大惨事を引き起こしかねず、とんでもない事実を知ってしまったレアは急いで街の方角へ向かおうとした。


だが、最悪のタイミングで第三階層に砂嵐が発生する時間帯が訪れ、レアの身体に強烈な風圧と砂が襲い掛かる。魔王城が崩壊した事でレアは身を隠す術はなく、砂嵐の中を突き進む。



「くっ……こんな時に砂嵐なんて、いや、まさか!?」



この砂嵐すらも敵の計算の内だったのかとレアは焦り、どうにか身体を吹き飛ばされないように身を伏せながらレアは砂嵐の中を移動し、転移台が存在する街へと向かう――

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