第794話 剣の勇者の能力
どうしてレアがカリバーンの回収を急いでいるのかというと、それは剣の勇者であるシュンが関わっていた。彼は大迷宮にて帝国と決別した後、姿を晦ました。最後に出会った者によると現在のシュンは正気ではなく、まるで何かに執り憑かれたように変貌してしまったという。
シュンの捜索は現在も行われているが、一向に進展はなく、足取りさえも掴めていない。だが、シュンが仮に魔王軍に寝返ったとしたら勇者が敵に回る事を意味している。
帝国の三勇者の中でもシュンは最も功績が多く、その剣技は帝国の将軍でさえも相手にならない程に成長していた。剣の勇者の称号は伊達ではなく、彼は僅か1年足らずで帝国の将軍達ですら敵わない剣技を身に付けた。
剣の勇者として召喚されたシュンは剣士や騎士、または侍などの剣や刀を扱う職業の人間の技能や戦技を全て身に付ける加護を持っている。さらに剣の勇者には特別な能力がもう一つだけ存在し、その能力が非常に厄介だった。
「刀剣に分類される武器なら使いこなす、か……」
――剣の勇者のみに与えられる能力、それは全ての刀剣を扱いこなす力を与えられるという点だった。この能力によってシュンは聖剣、魔剣、妖刀の類を扱える事を意味する。
厳密に言えば特殊な力を持つ剣を使いこなせる、というよりも聖剣のような選ばれた人間にしか扱えない武器を扱える力を持つ。つまり、普通の人間が扱えない武器を扱えるというだけで最初から聖剣や魔剣の能力を完璧に解放できるわけではない。
しかし、シュンは世界中に存在する全ての聖剣と魔剣を扱える力を有しており、彼がおかしくなる前は魔剣を制御出来ていたのはこの能力のお陰である。聖剣ならばレアも扱いこなせるが、彼の場合は自分で作り出した聖剣だからこそ使いこなせるのであり、正式に聖剣に認められたのはデュランダルだけである。
恐るべきことにシュンの能力は他人が既に所有している能力にも適応され、彼の場合はレアが所持している聖剣を手にしてもその聖剣の力を扱う事ができる。つまり聖剣の拒否反応は起きず、その能力だけを引き出す事も可能だった。
(もしもシュン君に聖剣が渡ったら厄介な事になる……もっと早く回収するべきだったかな)
一応は巨塔の大迷宮は見張りを立てており、今のところはシュンが転移台を使用したという報告は受けていない。修行の間は修行を優先して魔王の城に挑まなかったが、やっと修行を終えた事で本来の目的を果たせる。
(この階層はいつ砂嵐が起きているか分からないから挑むのも危険なんだよな……)
第三階層は一定の時間経過によって激しい砂嵐が発生し、砂嵐の激しさから建物などに避難しないと命の危機があった。だからこそ第三階層には迂闊に入り込める事が出来ず、レアも入念な準備が必要だった。
(次の砂嵐が発生する前に回収しとかないと……でも、何処にあるんだろう)
工房に辿り着いたレアは希少金属の回収を終えたが、肝心のカリバーンは発見できなかった。日記によればカリバーンはこの城の中に保管されているらしいが、正確な場所は分からず、日記にも地下に封じられているとしか記されていない。
城の地下はこちらの工房しか存在せず、この場所にカリバーンが封じられていると思われたが、それらしき物は存在しない。その代わりに工房の一番奥の壁には何か剣のような物が埋め込まれていた窪みが存在し、それを見たレアは一足遅かったと思う。
(まさかカリバーンはもう……!?でも、今朝までは誰も入っていないはずなのに……)
この数日の間はレア達は大迷宮で修行を行い、その間に何者かが入り込んだという報告は受けていない。しかし、かなり前にこの大迷宮から抜け出した人物が存在する事を思い出す。
(まさか、ギガンやあの少年が抜け出した時に持っていかれていたのか!?)
この巨塔の大迷宮にて死んでいたギガンはこの場所で蘇り、脱出を果たした。この時にもしかしたらカリバーンも回収されていたかもしれないが、正統な所有者以外は聖剣を扱える事はない。ましてやギガンも少年も死霊人形であり、そんな存在が聖剣に近付くだけで浄化されかねない。
だが、現実にカリバーンは既に存在しない事にレアは冷や汗を流し、まさかとは思うが既に魔王軍の手に渡ったのかと思われた時、ここで工房に衝撃が走った。地震のように激しい振動が襲い掛かり、立っていられずにレアは膝をつく。
「何だ!?」
最初は砂嵐が発生したのかとレアは考えたが、それにしては衝撃が激しく、徐々に工房に亀裂が生じ始めた。その様子を見てこのままだと生き埋めになると考えたレアは収納石のブレスレットに手を伸ばすと、聖剣を取り出す。
その直後に工房の天井部分が崩れ、大量の瓦礫と砂が襲い掛かった。それに対してレアは引き抜いた聖剣を構え、天井に向けて振り抜く――
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