第793話 魔王城
――他の勇者二人を先に返した後、レアだけは第三階層へと転移すると、砂漠に存在する古城へと辿り着く。かつて剣の魔王とその配下が暮らしていた城であり、妖刀ムラマサが封じられていた場所でもある。
以前に地図製作で記録していた事もあって迷わずに辿り着く事に成功し、古城の中に入ったレアは解析の能力を発動しながら探索を行う。ここは元々は剣の魔王が使用していた城であるため、何か剣の魔王に関する手がかりが残っているかもしれなかった。
「魔王が作り出した城か……大迷宮を隠れ家にするなんて魔王らしいな」
この第三階層だけは他の階層とは違い、魔王軍が介入した痕跡は残っていた。魔王軍は外の世界で追い詰められ、巨塔の大迷宮に潜み、城と街の建設を行う。
最終的には生き残ったのは魔王城の管理を任された死霊使いのみであったが、ここで気になるのは剣の魔王は決戦の際、どうして自分の愛用する妖刀を城に置いて出向いたのかだった。
(リリスの話によるとこの地下に妖刀を作り出す工房があるらしいけど……)
以前に訪れた時は見つけられなかったが、城の地下には工房が存在し、そこで魔王が使用していた「妖刀」が作り出されていたという。剣の魔王は勇者に討ち取られた際、この城で作り出された妖刀を使用していた可能性が高い。
妖刀ムラマサの代わりに勇者との戦闘で使用するほどの妖刀がこの場所で作り出されたと判明した以上、調査を行う必要がある。リリスの目的は工房にまだ貴重な金属が保管されているのではないかと考えていた。
「あった……ここだな」
解析を頼りにレアは城の中を進んでいくと、隠し通路を発見した。解析の能力ならば何処に罠が仕掛けられ、秘密の抜け道だろうと見つける事は容易く、遂に地下の工房の出入口を発見した。
煉瓦製の壁にレアは右手を向けると、壁が回転して新しい通路が出現した。古典的な仕掛けではあるが相当に壁に力を込めなければ開く事はない仕組みであり、普通ならば気づく事は出来ない。
(この先が工房か……)
工房へと続く通路を抜けると、やがて漆黒の扉が立ちふさがり、その先には砂と埃まみれの工房が存在した。かなり長い期間を放置されていた割には中の方はそれほど汚れておらず、もしかしたら城の管理人が定期的に掃除をしていたのかもしれない。
「この場所で妖刀が作り出されていたのかな?」
工房の中を確認したレアは部屋の中を探索し、素材が保管されている倉庫を探し出す。そして壁際の方に棺桶を想像させる形の大きな箱が入っている事に気付く。
「この中か……?」
箱を確認したレアは鍵が掛かっている事に気付き、特殊な金属で構成されているのか箱を無理やり破壊するのは難しそうだった。箱を開けるには鍵が必要らしく、解析の能力と文字変換を発動して箱を開く。
「施錠を開錠に変更させて……よし、開いた」
詳細画面に表示された文章の一部を改竄し、箱の鍵を開いて中身を確認すると、そこには美しく光り輝く金属が幾つも入っていた。青色に光り輝く金属、赤色に煌めく水晶、漆黒の金属の塊など、どれもこれも現代では手に入りにくい希少金属ばかりである。
箱の中には当時の時代に剣の魔王が集めていた希少金属が保管されていたらしく、有難くレアは回収を行う。だが、これらの金属の類を手に入れるためにレアは訪れたわけではなく、この城に封印されているはずの武器を探し出す。
(リリスの確認した日記によると、この城に妖刀ムラマサ以外に封印された武器があるはずだけど……)
剣の魔王が愛用していた妖刀ムラマサはレアが回収したが、実はこの城にはそれ以上の価値を誇る武器が隠されているらしく、その武器は魔王には扱えなかった。
封印されている武器の名前は「カリバーン」と呼ばれ、なんとエクスカリバーの製作前に作り出された聖属性の聖剣だという。地球に伝わるエクスカリバーも一説によればカリバーンを打ち直した物と呼ばれるが、こちらの世界でも似たような経緯でカリバーンとエクスカリバーは生み出された。
――剣の魔王バッシュがまだ勇者だったころ、彼はカリバーンを手にして戦っていた。しかし、ある時に剣の魔王は妖刀を手にして精神を侵された事により、カリバーンを扱う事は出来なくなった。
カリバーンは正しき心の持ち主にしか扱えぬという言い伝えが残っており、悪に堕ちたバッシュには手が余る代物と化した。それでも伝説の聖剣に匹敵する力を持つカリバーンを放置は出来ず、城の中に封じ込める。
レアの目的は城の中に封じられたカリバーンを回収する事であり、危険を犯してこの城に戻ってきた。だが、レアがカリバーンを求めたのは決して聖剣を欲したからではなく、他の者にカリバーンが奪われる事を阻止するためであった。
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