第792話 修行の最終段階

――死の森にて地竜の討伐を果たした後も3人の勇者の修行は続き、時には岩山を素手で登ったり、錘を身に付けた状態で海を泳ぎ、砂漠を徒歩で横断するなど中には何の意味があるのか分からない修行も多かった。


だが、厳しい修行を乗り越える度に勇者達の精神力は鍛え上げられ、最初の頃は修行の過酷さに泣き言ばかりを言っていたヒナやシゲルもたくましく成長し、現在では二人とも以前とは見違えるほどに精神的な成長を果たす。



『ギアアアアッ!!』

「ちっ、また現れやがったか!!」

「シゲル君、卯月さんを守って!!」

「大丈夫!!もう私だって戦えるよ!!」



巨塔の大迷宮の第一階層にてゴブリンキングの群れと遭遇したレア達は戦闘を開始する。元々この巨塔の大迷宮の第一階層はゴブリン種しか存在しない草原なのだが、連日にゴブリンを狩り続けた事によって環境が変化し、大量のゴブリンキングが誕生する。


大迷宮では魔物を一定数狩り続けると、出現する魔物の強さが変化する性質を持ち合わせ、連日にゴブリンを倒し続けた結果、ゴブリンの上位種のホブゴブリンやゴブリンキングが現れる様になった。それらを相手に3人の勇者は臆さずに戦う。



「いっくよ〜!!ライトニング!!」

「ギャアアッ!?」



ヒナは接近してきたゴブリンキングの1体に対して杖を構えると、瞬時に杖先から魔法陣を展開して電撃を放つ。前までは魔法を発動させるのに溜めを必要としたが、中級魔法程度ならば彼女は瞬時に魔法を発動出来るようになった。



「うおっ、やるなっ!!なら俺も負けてられねえ……はああっ!!」

「ギアッ!?」

「ウギィッ……!?」



シゲルは気合の雄叫びを上げると、右拳を握りしめて狙いを定める。その様子を見てゴブリンキング達は警戒したように注意すると、シゲルは目を見開いて拳を突き出す。



「勁撃!!」

「アガァアアアアッ!?」



強烈な拳の一撃がゴブリンキングの腹部に的中すると、衝撃波のような振動が全身に伝わり、攻撃を受けたゴブリンキングは身体中から血を流しながら倒れ込む。


シゲルが使用したのは地竜戦でも使用した「発勁」と呼ばれる戦技の上位互換であり、相手の内部に衝撃を与える「発勁」と「拳打」と呼ばれる戦技を組み合わせた一撃である。敵に打撃と衝撃を同時に与えるシゲルの必殺技である。



「二人とも凄いな……なら、俺だって負けてられないよ!!」

『ギアアアアッ!!』



仲間達がやられた事で残りのゴブリンキング達も激高し、3人へ襲い掛かろうと同時に仕掛ける。しかし、それに対してレアは手首に取り付けた「黒色の魔石」のブレスレットに掌を構えると、黒色の渦が空間に誕生した。



「はああああっ!!」

『ギアッ……!?』



空中に突如として誕生した黒渦にゴブリンキングは動揺するが、そこから更にレアは黒渦の中に手を突っ込むと、内部から巨大な大剣を引き抜く。地竜戦でも利用したドラゴンスレイヤーをレアは引き抜くと、ゴブリンキングの群れに目掛けて振り払う。



「だあああああっ!!」

『ッ――!?』



ゴブリンキング達の胴体に巨大な刃が横切ると、上半身と下半身が切り裂かれ、断末魔の悲鳴を上げながらゴブリンキングの群れは倒れ込む。ゴブリンキングの血に染まったドラゴンスレイヤーをレアは振り払うと、やがて黒渦の中へと戻す。



「ふうっ……やっぱり、ドラゴンスレイヤーは凄いな。普通の剣なら倒せなかったよ」

「いや、そんなもんを軽々と扱えるお前の方が凄いわ……」

「でも、これで修行完了だね!!」



巨人族が扱うような大きさのドラゴンスレイヤーを軽々と振り回すレアにシゲルは呆れた表情を浮かべるが、ヒナは嬉しそうにはしゃぐ。先ほどの戦闘で指定された数の魔物を倒す事に成功した。


この連日はレア達は巨塔の大迷宮へと潜り、一定数の魔物を倒す事だけに集中した。そのシゲルもヒナも急速にレベルが上昇し、今ではゴブリンキング程度の魔物ならば苦戦もしない。


そして成長をしているのは二人だけではなく、レアの方もドラゴンスレイヤーの扱いに慣れてきた。彼が身に付けているのは「収納石」と呼ばれる闇属性の特殊な魔石であり、本人の任意で異空間から物体を取り出す事が出来る。



(これのお陰でドラゴンスレイヤーも他の聖剣も持ち運びが楽になったな……)



収納石のブレスレットのお陰でレアはいつでも聖剣を取り出せるようになり、戦闘面では状況に適した聖剣を取り出せるようになった。最近はドラゴンスレイヤーを使う機会も多く、竜種などの敵の場合はドラゴンスレイヤーの方が普通の聖剣よりも効果が高い。


3人は課せられた修行を全て終了し、後は修行を終えた事を報告すれば二人の勇者は帝国へ帰還するつもりだった。だが、レアは巨塔の大迷宮に訪れた理由は他にも存在し、すぐには戻れなかった。

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