第790話 新生魔王軍

――時は同じく、魔王軍の本拠地では剣の魔王であるバッシュに対し、始祖の魔王の直属の配下にして自らの魂を分けて死霊人形以上の存在と化したダークが跪き、その隣にはジャガンも立っていた。



「ダークよ……今後はこの俺に忠誠を誓う事を約束するか?」

「はっ……貴方様こそ始祖の魔王の後継者に相応しい存在、私に残された命を貴方様のために使う事を誓います」

「ふん……お前の言葉には重さが感じられないな」



ある意味では不老不死の存在に近いダークの言葉にジャガンは鼻で笑うが、決してダークもふざけているわけではない。彼の目的はあくまでも消えてしまった始祖の魔王の意思を引き継ぎ、この世界を魔王軍が征服する事こそが目的である。


ダークは始祖の魔王が討ち取られようと彼が望んだ魔王軍による世界の国々の支配という目的を果たすため、今日まで暗躍してきた。そして世界で最も力のある存在は剣の魔王しか残されておらず、もう他に魔王と呼ばれる存在はいない。


剣の魔王は自分の手元に存在する「鬼王」に視線を向け、勇者が聖剣を使用するように彼は妖刀と呼ばれる武器を好んで使う。そして鬼王は彼がこれまでに手にした妖刀の中で最も強く、同時に現在の肉体に丁度いい武器だった。



「……あの勇者はどうした?」

「彼はもう勇者ではありません。ホムラならば彼の目的を果たすため、ここを去りました」

「目的だと?勝手に行かせたのか!?」

「私も止めたのですが、指図される謂れはないと告げ、この地を去りました。ですが、必ず戻ってくるでしょう。彼の命を握っているのはこの私ですので……」

「そうか……」



剣の勇者であるシュンの肉体を奪ったホムラは魔王軍の本拠地から立ち去り、単独行動を行う。彼は別に魔王軍に属するつもりはなく、自分の目的を果たすために先に動く。


だが、ホムラが勇者の肉体を憑依できるのはダークの力があってこそであり、いずれはダークは自分の元に戻ってくると確信していた。ならば彼の事は放置し、今後は本格的に魔王軍の戦力強化のために動く事にした。



「剣の魔王様……いえ、バッシュ様。我々は勇者を討ち取らなければなりません、奴等は世界征服の最も障害となる存在、特に解析の勇者は何としても真っ先に始末しなければなりません」

「……お前の報告によると奴の能力は我々には通用しないという話だったな?」

「はい、それは間違いありません。しかし、私達の肉体が無事であったとしてもそれ以外の物体は奴の能力の対象となります」

「……俄かには信じられんな、指で文字を描くだけでどんな物でも作り出せるとは」



レアの能力の秘密は既に見抜かれ、バッシュやジャガン、そしてこの場には存在しないホムラにも伝えられている。だが、能力を明かされてもジャガンは半信半疑であり、バッシュの方もまともに取り合わない。



「まあいい、奴がどんな能力を持っていようと必ず使用る際は指で文字を書くというのであれば……そんな暇を与えなければいいだけの話だ」

「その通りだな」

「油断は禁物です、奴は始祖の魔王様だけではなく、海の魔王や地の魔王を討ち取る程の力を持っています……恐らく、歴代で召喚された勇者の中でも最強と言っても過言ではありません」

「最強、か。それは楽しみだ」



バッシュは自分の胸元に手を押し当て、現在は消えているが彼はかつて勇者達に敗れて死んでしまった。しかし、死霊人形と化して復活した事により、再び勇者と戦う機会を得られた。


強いて言えば自分を打ち倒した勇者と再戦したかったが、それはもう敵わぬ願いだった。だが、歴代最強の勇者がこの時代にいるのならばその勇者を倒した時、バッシュは歴代最強の魔王の証明の証となる。


今までに復活させた魔王が全て討ち取られた以上、解析の勇者は魔王を越えた存在と化した。ならばその存在を討ち取った時、バッシュは最強の魔王へと至れる。そう考えると彼は珍しく笑みを浮かべた。



「ダーク……奴等を倒す計画はお前に任せる。その間、俺はこの鬼王を使いこなすため、外へ出向く」

「お待ちください、日中の間は私が用意した鎧を身に付けてください」

「あの鎧か……まあ、いいだろう」

「バッシュ様、お供します」



死霊人形やアンデッドの類は日中の間は行動が制限されるため、如何に剣の魔王であろうと迂闊には外に出る事は出来ない。だからこそギガンの様に特殊な鎧を身に付ける必要があり、彼はダークが用意した漆黒の鎧を纏う。


ジャガンの方も外に赴く時のために鎧は用意されており、二人はそれを身に付けると、外へ赴く。バッシュの目的は牙路に生息する牙竜を相手に鬼王の試し切りのために向かう――






牙竜「俺達が何をしたというんだ(´;ω;`)」

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