第788話 魔法の勇者と拳の勇者
「もう、怒ったよ〜!!」
「あれは……ヒナ様!?」
「ゆ、勇者様だ!!帝国の勇者様が戦っているぞ!!」
「す、凄い……これは広域魔法か!?」」
杖を掲げたヒナは上空に魔法陣を展開させると、そこから雷を次々と放つ。彼女が使用したのは「サンダーストーム」と呼ばれる魔法であり、風属性と雷属性を組み合わせた広域魔法である。
先ほどアンデッドを焼き尽くすために使用した「ファイアストーム」が火炎の旋風に対し、今回のサンダーストームは雷属性の魔力で構成した雷を降り注ぎ、更に敵が逃れられない様に風属性の魔力で動きを封じていた。
「てりゃあああっ!!」
『アァアアアアッ……!?』
強烈な風圧が地竜の身体を取り囲み、逃げ場を失った状態から天上から雷が降り注ぐ。単純な威力ならばファイアストームを上回り、徐々に地竜の岩石のような外殻が剥がれ落ちていく。
「す、凄い!!この調子ならば倒せるのでは!?」
「流石は勇者様……まさか、これほどの力を持っておられるとは」
「……いや、このままでは駄目かもしれん。あまりにも魔力を使っておられる」
ヒナの姿を見て戦士達は地竜を倒せるのではないかと思ったが、カレハは広域魔法を展開するヒナを見てこの調子で魔法を発動を維持すればいずれ魔力が尽きてしまう事を予想する。
広域魔法の弱点は砲撃魔法よりも攻撃範囲が広い分、反面に魔力の消費量が大きい。そのため、徐々にヒナも疲労が蓄積して魔法が維持できずに膝をつく。
「う、ううっ……も、もう無理……!!」
「いかん、すぐにヒナ様を救い出せ!!」
「は、はい!!」
「勇者様、御逃げ下さい!!」
遂に限界が訪れたのか地竜の上空に浮かんでいた魔法陣が消え去ると、風圧と雷から解放された地竜が目を見開き、自分の正面に立つヒナに視線を向けた。
――ウオオオオッ!!
自分を追い詰めたヒナに対して地竜は怒りをあらわにして大きな顎を開くと、彼女を飲み込もうと近づく。しかし、ヒナが飲み込まれる寸前にて地竜の頭部に飛びつく人間が存在した。
「おらぁっ!!よそ見してんじゃないぞ!!」
『オオッ……!?』
「シ、シゲル様!?」
「生きておられたのか……しかし、いったい何を!?」
地竜の頭部に飛びついてきたのは拳の勇者であるシゲルであり、彼を見た戦士達は呆気にとられた。シゲルが無事であった事を喜ぶ暇もなく、この状況下で彼が何を仕出かすつもりなのかと戸惑う。
拳の勇者であるシゲルは格闘家であるため、格闘技術に優れている彼は対人戦では無類の強さを誇る。だが、相手は山のように巨大な質量の敵であり、そんな相手に格闘技術が通じるはずがない。
しかし、シゲルも考え無しで地竜に挑んだわけではなく、彼は体内の気を集中させると、地竜の頭に掌を構え、戦技を発動させる。
「発勁!!」
『オアアッ……!?』
シゲルの掌が触れた箇所に衝撃波のような物が発生し、地竜の体内にまで衝撃が伝わる。体内の内側まで衝撃が広がり、頭の中で守られている脳にも振動が走って脳震盪を引き起こす。
「へっ……どうだ!!てめえみたいな相手にはこの手の技が通用する事は知ってんだよ!!」
『オオオオッ……!?』
大迷宮にてシゲルは「ロックゴーレム」を相手に戦い続けた時、岩石のような外殻で覆われたゴーレムを倒すための有効手段として「発勁」という戦技を身に付けていた。
発勁とは現実世界にも存在する技だが、こちらの世界では衝撃を敵の身体に伝える攻撃として分類され、この技を利用してシゲルは地竜の脳内に衝撃を与える。かつて牙竜などの魔物と戦った時からシゲルも自分なりに考えて身に付けた必殺技でもある。
「くたばれ!!」
『オアッ!?アアッ!?ガハァッ!?』
「い、今じゃ!!今のうちに早くヒナ様を連れ出せ!!」
「は、はい!!」
シゲルが地竜の頭部に連続で発勁を発動させて動きを止める中、すぐに森の戦士達がヒナの救出へと向かう。だが、地竜も攻撃を受けるばかりではなく、身体を震わせてシゲルを振り払う。
『アアアアアッ……!!』
「うおっ!?」
「いかん、今度はシゲル様が……!!」
地竜は頭を激しく揺らすとシゲルは体勢を崩し、地上へと落下する。その光景を見てカレハは咄嗟に芭蕉戦を振りかざし、落下速度を風圧の力で抑えると、シゲルを枯れ木が重なり合った場所へと墜落する。
「いでぇっ!?」
「今だ!!シゲル様も救い出せ!!」
「勇者様、こちらです!!」
地上に落下したシゲルも森の戦士達は救出すると、ここでカレハは撤退を決意した。現時点では地竜を倒す術がなく、先ほどのシゲルの攻撃で地竜の動きは鈍っており、逃げるのならば今の内だった。
「退散じゃ!!ここは退くぞ、儂が殿を務める!!」
「ぞ、族長!!待ってください、あれを見てください!!」
「何じゃ、こんな時に……あれは!?」
カレハが退散の指示を出した時、傍に控えていた戦士が上空を指差す。その戦士の言葉にカレハは上空を見上げると、そこには思いもよらぬ光景が広がっていた。
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