第787話 勇者のために
「――勇者様達を守れ!!」
『うおおおおっ!!』
地竜に立ち向かっていたのは死の森に勇者3人を招いた森の民の戦士達と、族長であるカレハだった。彼女達は一丸となって地竜へ戦闘を挑み、戦闘不能に陥った勇者3人を救うために戦う。
芭蕉扇を振りかざしたカレハは強烈な風圧を放ち、地竜へと叩きつける。しかし、並の竜種ならば通じただろうが山のような巨体と重量を誇る地竜の前ではそよ風程度の効果しかなく、地竜は煩わしそうに方向を放つ。
――オァアアアアッ!!
地竜の咆哮が響き渡ると、先ほどのように衝撃波が拡散する。並の人間ならば立っていられない程の大音量であり、それを人間よりも聴覚が鋭いエルフの戦士達が耳にすればひとたまりもない。
「ぐあああっ……!?」
「み、耳がっ……!!」
「ええい、怯むなっ!!ここで勇者様を守れなければ我々はなんのために生きている!?」
両耳を塞いで苦しむエルフの戦士達にカレハは叱咤すると、戦士達は歯を食いしばりながらも立ち上がり、武器を手にした。彼等は圧倒的な力を持つ地竜に対し、臆さずに果敢に挑む。
「勇者様のために!!」
「行くぞぉおおおっ!!」
「うおおおおっ!!」
戦士達は剣を掲げると、地竜へ向けて駆け出す。その様子を見てカレハは芭蕉戦を振りかざすと、戦士達の身体を風圧を利用して浮上させる。
空に飛翔した戦士達は地竜へ向けて剣を振りかざし、外殻に目掛けて振り下ろす。彼等が身に付ける装備品は森の民に暮らす名工が作り出した代物であり、鋼鉄さえも切断する程の切れ味を誇る。
「このぉっ!!」
「くたばれっ!!」
「はああっ!!」
戦士達は地竜の外殻に張り付くと、剣を振り抜いて外殻を削り取ろうとした。だが、アンデッドと化したばかりの地竜の肉体は腐敗化の影響は殆どなく、外殻の硬度は落ちていない。
名工が作り出した戦士達の武器も地竜の外殻には分が悪く、表面を少し削り取る程度で殆ど損傷を与えられない。しかも地竜は身体に張り付いたエルフの戦士達を吹き飛ばそうと身体を震わせる。
――ウオオオオッ!!
地竜が激しく動くと、それによって戦士達は吹き飛ばされ、地面へと叩き込まれる。その様子を見てカレハ埒が明かないと判断すると、彼女は芭蕉戦を振りかざす。
「ええい、いい加減に黙らんかっ!!この岩亀め!!」
「オアッ……!?」
口を開いた地竜に対してカレハは芭蕉扇を振り抜き、強烈な風圧を口内へと放つ。叫んでいる最中に口元を攻撃された地竜は怯み、その様子を見たカレハは予想外に地竜が怯んだのを見て弱点を見抜く。
「そうか……皆、よく聞け!!いくらが硬い外殻に覆われていようと、奴も生物である事に変わりはない!!つまり、内部から攻撃を仕掛ければ倒せる可能性はある!!」
「内部……という事は奴の口内に入り込み、内側から攻撃を仕掛けろと!?」
「それしか方法はない!!後の事は任せたぞ!!」
「いけません、カレハ様!!その役目は我々が……」
自らを犠牲にして地竜の口内に飛び込もうとするカレハを他の戦士達は慌てて引き留め、それを煩わしそうにカレハは振り払う。だが、ここで彼女が死ねば森の民は大切な族長を失ってしまう。
「ええい、離さんかっ!!」
「なりませぬ!!それだけは絶対に!!」
「カレハ様がいなくなれば我々は生きていけませぬ!!」
「だが、この役目を全うできるのは儂しかおらぬ!!離せ、行かせてくれ!!」
カレハは数名の戦士達に取り押さえられるが、彼等は頑なにカレハを行かせようとはしない。しかし、言い争っている間にも地竜は次の攻撃に移ろうとしていた。
口内を攻撃された事で地竜も警戒心を抱いたのか、今度は圧倒的な質量差で圧し潰そうと突進を開始する。動き自体はカレハが「亀」と表現したようにゆっくりとしているが、なにしろ山の様に大きいために1歩踏み出す事に地面に振動が走り、距離を詰める。
『オガァアアアアッ!!』
「くっ!?もう躊躇している暇はない、離せっ!!」
「くうっ……!?」
「ここまでかっ!!」
迫りくる地竜の姿にカレハと戦士達は苦渋の決断を迫られるが、この時に地竜の背中の甲羅に突如として「雷」が降り注ぎ、地竜の全身に電流が走る。
『オアッ……!?』
「なっ!?雷!?」
「これは……まさか、魔法!?」
突如として地竜に降り注いだ雷にカレハ達は驚いて見上げると、地竜の上空にはいつの間にか黄色の魔法陣が展開され、そこから雷が次々と降り注ぐ。
雷を浴びた地竜は電流が全身に流れ込み、その度に悲鳴を漏らす。外見はゴーレムのような岩の塊に見えるが、地竜はあくまでも岩石のような皮膚に覆われた生物であるため、雷を受ければ無事ではない。
何者かが魔法で攻撃を仕掛けている事は間違いなく、これほどの芸当を出来る魔法使いはこの場には一人しかいない。カレハは周囲に視線を向けると、地竜の正面の位置に泥だらけのヒナが立っている事に気付く。
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