第785話 帝国の勇者も侮れない
「ぐるぐるぐる〜!!」
「うおおっ!?それ、回す意味あるのか!?」
「凄い……俺達には炎が近付いてこないんだ」
ファイアストームを展開したヒナは杖を振り回す動作を行い、シゲルから見れば彼女がふざけて杖を振り回しているようにしか見えないが、広域魔法に必要な動作かもしれずに止める事は出来ない。
その一方でレアの方は取り囲んぢ得たアンデッドの大群が火炎の竜巻によって焼き付くされる光景を確認し、これだけの規模の魔法ならば自分達も巻き込まれてもおかしくはないが、まるで3人の周りにだけ火炎は迫る様子はない。
(台風の目みたいにヒナさんの周りは襲ってこないのかな。それにこれだけ燃えていたら酸素もかなりやばそうだけど、苦しくもないや……)
燃え盛る炎の竜巻が周囲に展開されたにも関わらず、レア達は熱や呼吸が苦しくなるなる様子もない。この点に関しては魔法で作り出された炎と竜巻である事が重要かもしれず、使用者のヒナが敵と判断した相手しか焼き払わない様子だった。
――ギャアアアアアッ……!?
森中から押し寄せてきたアンデッドの大群はヒナの生み出したファイアストームによって次々と焼き尽くされ、遂には周辺の木々も巻き込む。やがて魔法の効果が切れるとレア達の周辺は炎によって焼き尽くされ、文字通りに焦土と化す。
「はあっ……つ、疲れたよ。もう無理〜」
「す、すげえな……これだけの魔法、何時の間に使えるようになったんだよ?」
「え?使ったのはこれで二度目だよ?」
「ええっ!?そうなの!?」
「うん、前にお城の中で使おうとした時、危うく城が燃え上がる所だったから絶対に城の中で使っちゃ駄目だって怒られたけど……」
「そりゃそうだろ!!」
ヒナが「ファイアストーム」を使用したのはこれで二度目らしく、最初に使用した時は危うく城が大炎上しかける大惨事を引き起こしかけたらしい。そのためにヒナは帝国にいた頃は広域魔法の使用は禁止されていた。
勇者の中でも魔法に特化したヒナは間違いなく4人の中でも突出した力を持っていた。レアも解析と文字変換の能力がない場合、聖剣でも所持していなければヒナの魔法に対抗する事は出来ない。
(何だかんだ言われてるけど、やっぱり他の皆も凄い能力を持ってるんだな……)
シゲルやヒナの話を聞く限りだとシュンはレアに大して大きな劣等感を抱いていたらしいが、レアが特別な力を持つように他の3人も相応の能力を身に付けていた。特にヒナの場合は4人の中でも唯一の魔術師であり、もしも彼女が先日の国同士の騎士団の対抗戦に参加していれば結果は大きく変わるだろう。
(あの時に白狼騎士団が勝てたのは卯月さんがいなかったお陰だな……もしも本格的に戦闘訓練に参加してたらどれだけ被害が出てたんだ)
ヒナが訓練に本格的に参加できなかった理由はケモノ王国側は味方となる勇者がレアしかおらず、3人の勇者が帝国に味方をするのは不公平という理由で彼女は騎士団の対抗戦には参加しなかった。
だが、実際の所は帝国がヒナを騎士団の対抗戦に参加させなかった理由は彼女の力が強すぎるため、下手をしたら死人が出るのを恐れて参加させなかったのかもしれない。
(もしかしたら俺達の中で一番強いのって……卯月さんかも)
単純に加護の能力無しで勇者同士が戦う場合、場所や状況によっては結果は変わるかもしれないが、魔法の力に突出したヒナが有利な可能性が高い。レア達の場合は近づかなければ戦えないが、ありとあらゆる魔法を扱えるヒナは遠距離から一方的に攻撃が出来る。
仮に聖剣も無しにレアがヒナに挑む場合、彼女に距離を取られると勝ち目はない。倒す方法があるとすれば接近戦しかなく、近づけさえすれば身体能力の差でヒナを取り押さえる事が出来るだろう。
(勇者といっても超人じゃないんだ、得手不得手あるのは当たり前の事なのに……)
レアは姿を晦ましたシュンの事を思い返し、あまり面識はないが彼は自分が勇者である事に拘り過ぎていた様に見えた。勇者はこの世界を救う存在、その重圧に耐え切れずに無茶苦茶な方法で強くなろうとしたり、時には手段を選ばなかった。
(勇者だって人間……完璧な存在になれるはずがないのに)
シュンの話を聞いたレアは彼が手に入れようとしていたのは弱点が存在しない、完璧な存在になろうとしていたのではないかと考えてしまう。実際の所は本人に聞かなければ分からないが、シュンがどうして自分なんかに対抗心を抱いて強くなろうとしたのか分からない。
――彼が暴走した理由はレアに対する嫉妬と、帝国を救う勇者として召喚された際、彼は強くなって期待に応えるという責任感の強さが原因だった。だが、レアには彼の心情を理解できる事は出来ず、それは他の二人も同じだった。
仮にシュンがレアに対抗心を抱かなければ、あるいは自分で思い悩まずに仲間に相談すれば今現在の状況には陥っていなかっただろう。
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