第784話 広域魔法ファイアストーム

「なんか……かなりまずそうだ!!急いで逃げた方が良い!!」

「くそ、卯月しっかり付いて来いよ!!」

「わ、分かってるよ〜!!」

『オオオオッ……!!』



肉体が徐々に侵されているにも関わらず、地竜はアンデッドを喰らう事を止めず、やがて全身が黒色化していく。やがて全身が黒く染まると、事切れたのかレアの視界に表示されていた詳細画面が消えてしまう。



(画面が消えたという事は……死んだのか!?)



レアの解析の能力はあくまでも生物にしか通じず、仮に対象が死亡した場合は詳細画面を開く事は出来ない。アンデッドを食らい続けたせいで地竜の全身にアンデッドに宿る「呪詛」が伝わり、死亡したと考えられた。


いかに竜種であろうと生物であるならばアンデッドや死霊人形が宿す呪詛(闇属性の魔力の異称)に侵されれば無事では済まず、山の様に巨大な生物でさえも死に至らしめる。


地竜が本当に死んだのであれば脅威にはなり得ないかもしれないが、これまでの傾向から嫌な予感をレアは抱く。その予感はすぐに的中し、死んだと思われていた地竜が動き出す。




――ウオォオオオオッ……!!




おぞましい鳴き声が森中に響き渡り、全身が呪詛に侵された地竜が起き上がると、全身から闇属性の魔力を溢れ出す。雷龍や海龍の時と同様に呪詛に完全に侵されており、今度は自らがアンデッドとして蘇った。



「嘘だろ、おい!!あいつ、本当に何なんだ!?」

「こ、こんな修行なんて聞いてないよ〜!!」

「多分、この状況はカレハさんも予想していないと思う!!」



まさか地竜がアンデッドに変貌して暴走を始めるなどカレハや他の森の民も予想しているはずがなく、必死にレア達は逃げる事しか出来ない。戦おうにも今回の戦闘は修行のために聖剣の類は身に付けておらず、しかもあれほど巨体の相手だと対抗手段がない。


しかし、この死の森に存在する生物はレア達以外には存在せず、地竜を筆頭に森中に潜むアンデッドの大群も同時に襲い掛かってきた。レア達はアンデッドに襲われながらも地竜から逃げるしかなく、苦戦を強いられる。



「アアッ!!」

「うわっ!?このっ……退けっ!!」

「アガァッ!!」

「卯月さん、危ない!!」

「わあっ!?」



シゲルは噛みつこうとしてきたアンデッドを殴り飛ばし、ヒナに襲い掛かろうとしたアンデッドはレアが蹴り飛ばす。しかし、二人とも聖水の効果が切れたのか攻撃を受けてもアンデッドは怯む程度で倒せない。



『アガァアアアッ!!』

「うおおっ!?こいつら、どんだけいるんだよ!!」

「も、もう無理だよ……くたくただよ!!」

「くたくた……なら、これで平気だよね!!」



ヒナの言葉を聞いてレアは緊急事態のため、彼女に対して「解析」を発動させると、詳細画面を開く。そして状態の項目に指を走らせ、健康という文字に書き換えるとヒナは驚いた表情を浮かべる。



「あれ!?急に身体が楽になったよ!?それになんだか魔力も回復したみたい!!」

「ま、マジかよ!?」

「ヒナさん、この状況をどうにかする魔法はないの!?」

「えっと……そうだ!!前に覚えた広域魔法ならあるけど……」

「なら、それを早く使って!!ここは俺とシゲル君が抑えるから!!」

「くそっ……やってやらぁっ!!」



レアはシゲルと共にヒナに近付こうとするアンデッドを抑え込むと、ヒナはメモ帖を取り出して呪文を確認し、この世界の魔導士でも使い手が少ない「広域魔法」の発動の準備を行う。


普段からヒナが使用する魔法は「砲撃魔法」と呼ばれ、名前の通りに砲撃の如く魔力の塊を放つ。だが、広域魔法の場合は砲撃魔法よりも習得難易度、名前の通りに広範囲に攻撃魔法を発動させる高等魔術だった。



「えっと……よし、待っててね。この魔法、魔力を杖に貯めないといけないから……」

「は、早くしてくれ!!こいつら、どんどん増えてきたぞ!?」

「いくらなんでも多すぎる……くそ、こんな時に他の皆がいてくれたら」

『アガァアアアッ!!』



レアとシゲルは次々と押し寄せるアンデッドの大群に対処するのが精いっぱいであり、一方でヒナの方は精神を集中させるように杖を握りしめる。やがて杖の先端に取り付けられた風属性と火属性の魔石が輝き、彼女は天に翳す。



「よし、行くよ〜……ファイアストーム!!」

「うおっ!?」

「わあっ!?」

『アギャアアアアアッ!?』



ヒナが天に杖を掲げた瞬間、彼女の杖の先端から火属性と風属性の魔力で構成された魔法陣が誕生し、上下に重なる様に空中に展開した。


下側に存在する赤色の魔法陣から炎の魔力が噴き出した瞬間、緑色に輝く魔法陣が回転を始め、やがて竜巻と化す。噴き出した炎に竜巻が吸収すると、火炎旋風と化して周囲に存在するアンデッドを焼き尽くす。

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