第783話 上位竜種「地竜」
――オァアアアアッ!!
足元に群がる大量のアンデッドを地竜は踏み潰していく。聖属性の攻撃で浄化されるか、あるいは火属性の魔法で身体を焼き尽くされなければ基本的にアンデッドは死ぬことはない。だが、身体を粉々どこからミンチのように押し潰されては流石のアンデッドも蘇る事は出来ない。
死霊の森には戦争で死んだアンデッドが多数存在するが、何万人が集まろうと地竜の巨体と力の前では抵抗すら出来ず、一方的に蹂躙される。しかし、アンデッドには恐怖の感情は存在せず、圧倒的な生命力を持つ地竜に臆さずに挑む。
『アガァアアアッ!!』
地竜の肉体に張り付いたアンデッドは地竜を食すために歯を食い込ませる。しかし、地竜の全身はまるで岩石の如く硬質な皮膚に覆われており、しかもゴーレムと違って正真正銘の肉体のため、水を浴びようと弱体化する事はない。
時には牙竜でさえも捕食対象にするほどの圧倒的な力を持つ地竜に歯向かえる力を持つ存在など、それこそ同じく上位竜種程度しか存在しない。仮に火竜が現れたとしても地竜に勝てる保証はなく、正に地上の主と言っても過言ではない。
(凄い光景だな……でも、狙いが俺達じゃないなら別にいいか)
レアは地竜の様子を観察し、最初に現れた時は魔王軍が何か仕掛けてきたのかと思ったが、地竜はレア達に対して全く眼中はなく、群がってくるアンデッドを煩わしそうに踏みつぶす。
この死霊の森は森の民が管理する森の一つであり、魔王軍が何かを仕掛けられるはずがない。そもそも死の森を管理するのは勇者を崇拝する森の民である事を考えても魔王軍が罠を仕掛けられるはずがない。
「ひええっ……な、なんだあの化物」
「あ、あんなの見たことないよ」
「俺もあんな化物を見るのは初めて……いや、そうでもないか」
「マジかよ!?あれ以外の化物を見た事あるのか!?」
過去にレアは「雷龍ボルテクス」や「海龍リバイアサン」とも対峙した事を思い出し、単純な戦闘力ならばこの2体も地竜には決して劣らない。どちらも倒すのは苦労した相手だが、地竜の場合はレア達が狙いでないのであれば今の段階で手を出すのは得策ではない。
(一応、念のために詳細画面は開いておこう。もしも俺達を襲ってきたときは倒すか、服従させるか……いや、服従させるのは無理だな。こんなでかいの飼えないよ)
地竜を味方に付ければ心強いかと思ったが、これほどの巨体の生物となると管理するのも難しく、面倒を見切れない。ここは見つかる前に退避した方が良いと判断したレアは二人を連れて森を抜け出そうとした時、視界に表示された地竜の画面に変化が訪れた。
(あれ、なんだこれ?)
レアの視界に表示された地竜の詳細画面の「状態」の項目が変化していた。
―――――地竜―――――
種族:上位竜種
性別:雄
状態:毒
――――――――――――
先ほどまでは状態の項目には「飢餓」と表示されていたが、いつの間にか「毒」へと変化していた。長い眠りから目覚めた地竜は餌を求めて地上に姿を現し、ありとあらゆる物を食らいつくす事は特徴の項目でレアも確認している。
実際に地竜も地上に出た瞬間、死の森を構成する大量の枯れ木を噛み砕いている所を見たが、何か悪い物でも食べたのか状態が「毒」へと移行していた。
―――――地竜―――――
種族:上位竜種
性別:雄
状態:猛毒
――――――――――――
更に時間が経過すると状態の項目が「毒」から「猛毒」へと変化を果たし、その様子を見てレアは嫌な予感を抱いて振り返ると、そこには大量のアンデッドを口の中に含む地竜の姿が存在した。
「アガァアアアッ……!!」
『アアアアッ……!?』
大きな口を開いた地竜は地上に存在するアンデッドを一気に口の中に頬張り、数十人のアンデッドを一度に口の中で嚙み潰すと、そのまま躊躇なく飲み込む。その様子を見てレアは度肝を抜かし、まさかアンデッドさえも餌の対象にしたのかと驚く。
「嘘だろ!?あいつ、アンデッドも食べるの!?」
「ええっ!?」
「おいおい、マジかよ!!それってやばいんじゃねえの!?」
アンデッドは人の死体に闇属性の魔力が宿り、蘇った存在である。死霊人形に限りなく近い存在ではあるが、その実体は中途半端に蘇ったため、理性も何もない化物である。
腐敗化した死体、更には普通の生物にとっては悪影響を生み出す闇属性の魔力を宿したアンデッドを喰らえばいかに竜種であろうと無事では済まず、みるみるうちに地竜は弱体化していく。それでも本能の逆らえないのか飢餓状態の地竜はアンデッドに喰らいついて飲み込む。
「おい、あいつどんどん身体が黒くなってないか!?」
「え?パンダさんみたいに?それともシマウマさん?」
「馬鹿野郎!!そんな次元じゃねえよ、ていうか実際に見た方が早いだろ!!」
シゲルの言葉に月の光で照らされた地竜にレアとヒナは注意深く視線を向けると、確かに地竜の身体のあちこちから黒色の斑点のような物が浮き上がり、やがて全体に広がっていく。
どうやら食したアンデッドの闇属性の魔力が地竜の身体に回り込んでいるらしく、このままだと地竜は闇属性の魔力に全身を侵されるのも時間の問題だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます