第782話 死霊の森の主

「ふうっ……これで少しは休めるよ。卯月さんのお陰でここら一帯のアンデッドは浄化されたと思う」

「さ、最初からやれよ」

「ご、ごめんね〜……初めて使った魔法だから、もうしばらくは休まないと発動できないかも」

「まあ、仕方ないよ。今のうちに魔力を回復させよう」



レアは二人に対して回復薬と魔力回復薬を取り出し、それぞれに渡す。ちなみにどちらもリリスが作り出した特製品であり、効果に関しては帝国で生産されている薬よりも高い。


怪我などをしなくても回復薬を飲めば体力を回復させる効果もあり、魔力回復薬の場合はゲームなどのように一瞬で魔法を回復させる効果はないが、時間経過によって魔力が徐々に回復していく。しかもリリスの作り出した薬は効能が高いため、二人ともすぐに体力と魔力を取り戻す。



「うお、凄いなこの薬……身体が軽くなったぞ」

「私も力が湧いてきたよ!!今なら何でもできそう!!」

「ふうっ……聖水も大分使ったから、補給しとかないと……」



レアは鞄の中に手を伸ばして新しい聖水を取り出そうとした時、不意に彼は異様な魔力を感知した。異変を感じたのはレアだけではなく、ヒナの方も顔色を変えて振り向いた。



「えっ!?な、何これ!?」

「うおっ!?急にどうした!?」

「何かが近付いてくる……凄い魔力だ、しかも地面の方からだ!!」

「何だって!?」



レアとヒナは地中から異様な魔力を発する存在が近付いている事に気付き、すぐに二人は駆け出す。慌ててシゲルもその後を追うと、やがて地面が盛り上がり、巨大な物体が出現した。




――オァアアアアッ……!!




森の中におぞましい咆哮が響き渡ると、姿を現したのは亀とトカゲが合わさったような生物だった。背中には巨岩を想像させる甲羅を背負っており、それでいながら牙竜のように恐ろしい形相に四肢をした異様な生物が出現する。


初めて見る生物にレアは驚きながらも「解析」を発動させ、敵の正体を調べる。相手が生物であれば解析の能力で調べられるため、即座に視界に詳細画面が表示された。



―――――地竜―――――


種族:上位竜種


性別:雄


状態:飢餓


特徴:地上に生息する竜種の中でも最大級の体格を誇り、岩石の如く硬質な肉体を持つ。基本的には地中の奥底に眠っているが、ひとたび目を覚ますと地上に出現し、ありとあらゆる物を食らいつくす。牙竜さえも捕食対象にするほどの驚異的な力を持つ。


その一方で背中の甲羅にはこれまでに食してきた鉱石の影響によって貴重な魔法金属の素材となり得る鉱石の塊であり、その価値は計り知れない。また、地中の栄養を全て吸いつくしているため、地竜が眠る土地は何十年も植物が育たない不毛な大地と化す。


――――――――――――



視界に表示された画面を確認してレアは巨大な生物の正体が「地竜」と呼ばれる竜種だと判明し、しかも「上位竜種」である事が発覚した。しかも説明文を確認する限りではこの死の森で植物が枯れた原因はこの地竜が元凶らしい。



「二人とも早く逃げて!!こいつがこの森の主みたいなもんだよ!!」

「主だと!?嘘だろ、おい!!おい、お前の魔法でどうにかできないのか!?」

「む、無理だよ〜!!あ、あんなの倒せないよ〜!!シゲル君こそ何とかしてよ〜!!」

「あんなデカブツに俺の拳が通じるはずないだろ!!」



シゲルはヒナに対して魔法でどうにかできないのかと問うが、相手は山のように巨大な生物のため、いかにヒナの魔法が強力でも容易に倒せる相手ではない。


地上に出現した地竜は木々をなぎ倒しながら移動し、一歩踏み出す事に地震のような強烈な振動が周囲へと広がる。そして自分が破壊した木々に喰らいつき、飲み込む。



「アガァアアアアッ……!!」

「か、枯れ木を食ってやがる……あいつ、ああ見えても草食獣なのか!?」

「いや、何でも食べるみたいだよ!!つまり、俺達も餌にされるかもしれない!!」

「ええっ!?私達はおいしくないよ!?」

「言ってる場合か、今のうちに逃げるぞ!!」



地竜が枯れ木を貪る間にレア達は逃げようとしたが、ここで森のあちこちから鳴き声が響くと、アンデッドの大群が押し寄せてきた。




――アァアアアアッ!!




アンデッドは唐突に出現した地竜に向けて駆け出し、この森の中で最も「生命力」を発揮する存在は地竜であった。アンデッドや死霊の類は生命力が強い存在に襲い掛かる傾向があり、彼等はレア達の事を無視して地竜へと襲い掛かる。



『ウガァアアアッ!!』

「……オアアッ!!」



しかし、戦力差は圧倒的であり、まるで巨象が自分に群がってきた昆虫を振り払うかの如く、地竜は大量のアンデッドを踏み潰す。いくら数が集まろうとアンデッドたちでは地竜に敵わず、次々と踏みつぶされていく。その様子を見てレア達は戦闘に巻き込まれないうちに逃げ出す事にした。

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