第781話 死霊の森
「ウアアアッ!!」
「ひいいっ!?こっちに来るんじゃねえっ!!」
「シゲル君、落ち着いて!!」
「わわわっ!?ば、バーンブラスト!!」
「うわぁっ!?卯月さん、無暗に砲撃魔法を使わないで!?俺達も巻き込まれるから!!」
迫りくるアンデッドからシゲルは逃げ回り、一方でヒナは杖を振り回して火属性の砲撃魔法を発動させる。勇者の中で唯一の魔導士であるヒナはありとあらゆる属性の魔法が扱えるが、彼女が得意としているのは火属性である。
基本的にはこの世界の人間は火属性の魔法を得意としており、ヒナの場合も彼女は火属性を得手としていた。杖の先端から魔法陣が展開され、火炎放射の如く次々とアンデッドを焼き払う。
――アァアアアアッ……!?
ヒナの魔法によってアンデッドは焼き尽くされていくが、同時に周囲の枯れ木に炎が燃え広がり、崩れているく。魔法で作り出した炎は時間経過でいずれは消えるが、燃え盛る枯れ木は崩れ落ち、倒木の危険性があった。
「まずい、木が倒れる……ヒナさん、それ以上の魔法は駄目だよ!!」
「ええっ!?な、ならどうすればいいの!?」
「こいつらには聖属性の魔法で対処するしかない!!確か、聖属性の魔法も使えたよね!?」
「一応は使えるけど……」
勇者であるヒナはありとあらゆる魔法を使用できる加護を持っているため、本来ならば治癒魔導士や修道女しか覚えられない聖属性の魔法も扱えた。本人は回復魔法以外は滅多に扱っていないが、一応は修道女が扱う浄化の魔法も発動できる。
「浄化の魔法を唱えて!!それまでは俺達が守るから!!」
「わ、分かった!!ちょっと待ってね、このメモに浄化の魔法の呪文が書かれているから」
「は、速くしろよ!!こっちはこんな気味悪いもんといつまでも戦えないぞ!?」
「アアッ!!」
シゲルは聖水を浴びせた闘拳を構え、遂に逃げるのを止めてアンデッドに殴りつける。腐敗化した死体を殴る感触に彼は気味悪く思うが、殴りつけられたアンデッドは聖水の効果によって憑依していた悪霊が浄化され、肉体は崩れていく。
レアの方も聖水を振りかけた剣を利用し、次々とアンデッドを切り裂いていく。だが、聖剣と違って聖水を浴びせた普通の剣ではアンデッドたちは確実に浄化は出来ず、斬られた個体の中でも浄化を免れてレアに襲い掛かろうとする個体も存在した。
「オアアッ……!!」
「くっ、このっ!!」
「ギャインッ!?」
「あ、やりすぎたかな……」
後ろから襲い掛かろうとしたアンデッドにレアは蹴り飛ばすと、予想以上の勢いで吹き飛び、忘れていたがレアの現在のレベルは限界値である「99」を迎えている。度重なる戦闘でいつの間にかレベルは99を迎え、もうこれ以上に肉体が成長する余地はない。
レベル99の人間など歴代の勇者の中でも数えるほどしか存在せず、もしかしたら拳の勇者であるシゲルよりも肉体面は強いかもしれない。レアは聖水を定期的に剣に注ぐ一方、ヒナの様子を伺う。
「えっと、あった!!浄化の魔法の呪文を見つけたよ!!」
「なら、さっさとやれよ!?」
「う、うん!!ホーリーライト!!」
ヒナが杖を天に掲げた瞬間、彼女の杖の先端から光球が誕生し、やがて巨大化していく。その光球の光を浴びたアンデッドたちは苦し気な表情を浮かべ、全身から闇属性の魔力が煙の如く溢れ出し、やがて朽ちていく。
『アァアアアッ……!?』
「や、やった!!聞いてるぞ!?」
「凄い……これが卯月さんの魔法か」
「ううっ……で、でも、もう限界だよ」
広範囲の散布するアンデッドの浄化には成功したが、長時間の持続は出来ないらしく、10秒程度で光球は消え去ると卯月は力が抜けた様にへたり込む。
浄化魔法というだけはあってその効果は絶大であり、周辺地域に存在したアンデッドは全て浄化された。しかもシゲルとレアがアンデッドを倒す時にこびり付いたアンデッドの血肉に関しても灰と化し、アンデッドの死骸は跡形もなく消え去る。
(流石は魔法の勇者……これだけの力があれば竜種とも戦えるかもしれない)
レアの見立てでは実は4人の勇者の中で竜種などのような驚異的な力を持つ存在に対抗できる可能性があるのはヒナである可能性が高い。理由としては他の3人は剣や拳でしか戦う手段がないのに対し、ヒナは多種多様の魔法が扱える。
だが、魔法の攻撃を受け付けない相手、もしくは魔法を封じられるような魔道具や能力を持つ相手にはヒナは対抗手段を失う。勇者それぞれには長所と短所が存在し、それを補うために勇者は数名召喚されてきたのかもしれない。
(俺がケモノ王国にいかず、帝国の勇者として一緒に戦っていればどうなっていたのかな……)
考えても仕方ないが改めてレアは他の勇者達の力を思い知る。シゲルも何だかんだで相当数のアンデッドを倒しており、苦手な相手なのに仲間を守るためならば果敢に挑む強い精神力を持ち合わせていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます