第780話 勇者の修行
――後に伝説として語り継がれる事になる勇者3人とケモノ王国の総戦力との決闘から数日後、遂に勇者3人はカレハの元で本格的な修行を行う事にした。最も修行と言っても肉体を鍛えるための修行だけではなく、精神面を鍛える修行も同時に行う。
修行の場所は森の民が管理する「死の森」と呼ばれる場所で行い、この森はケモノ王国の領地内に存在するが、森という名前ではあるが実際の所は枯れ木しか生えていたい場所である。
死の森はある時に土地の栄養が枯渇し、そのせいで木々は枯れ果てて雑草すら生えなくなった。普段は生物は寄り付かず、今では虫一匹も存在しない場所と化す。
「ううっ……何だか不気味な場所だね」
「卯月さん、そんなにくっつかれると胸が……」
「はっ……こ、怖くなんてないぞ」
「シゲル君、手が痛いよ……ていうか、こういうの苦手だったの?」
「ば、馬鹿野郎!!そんなはずないだろ!!」
死の森に訪れた3人は森の中を歩き進み、その不気味な雰囲気にヒナは怖そうにレアの腕に抱きつき、シゲルでさえもレアの手を掴む。意外と怖がりだったらしく、シゲルは周囲を警戒しながら歩いていく。
時刻は間もなく夜を迎えようとしており、今回の修行は3人しか参加していない。この地は普段は森の民さえも近づかない場所であり、日中の間は平気だが夜になると恐ろしい存在が現れる危険な場所だという。
「そろそろ日が暮れ始めたね……今日は眠れなくなるかもしれないから、気を付けてね」
「く、くそっ……やってやらぁっ!!」
「ううっ……レア君、絶対に離れないでね?」
「分かったからそんなに抱きつかないでよ……こっちが戦えなくなるよ」
レアは自分からぴったりとくっついて離れない二人に困り果てるが、やがて日が暮れて周囲が暗闇に染まる頃、すぐにレアはランタンを用意すると、火を灯す。
「よし、夜になった……二人とも、戦う準備をした方が良いよ。今のうちに聖水を用意して」
「こ、こんなもんで本当に戦えるのかよ?」
「ううっ……えっと、聖属性の魔法の名前は……」
死の森には生物は存在しないが、この森には並の生物よりも恐ろしい存在が招かれるため、それらと戦うためにレアとシゲルは聖水の準備を行う。一方でヒナはメモ帳を取り出して聖属性の魔法の名前を調べようとした時、周囲からおぞましい声が響く。
――オォオオオオオッ……!!
地の底から響くような身の毛がよだつ鳴き声が響き渡り、やがて地面から無数の人の死骸が出現し、姿を現す。それを目撃したヒナとシゲルは悲鳴を上げ、レアも流石に吐き気を催す。
『オァアアアッ……!!』
「ひいいっ!?」
「ぞ、ゾンビ!?」
「落ち着いて!!こいつらはアンデッドだよ!!」
「いや、結局はゾンビじゃねえか!?」
死の森には多数のアンデッドが地中の中に生息しており、生物の気配を感じ取ったアンデッドたちはレア達を襲い掛かろうとする。
――この死の森の名前の由来は言葉通りに死人であるアンデッドが多数眠っている事、そして普通の人間が立ち寄れば命がない事を意味している。この場所は何故か怨霊の類が集まりやすい土地柄らしく、普段は危険区域として何者も近づけない場所だった。
レア達がここへ訪れたのは精神面の修行のためであり、無数のアンデッドが生息するこの森で一晩過ごし、アンデッドを浄化しながら生き延びるしかない。
「アアアッ……!!」
「アガァッ!!」
「ウアアッ!!」
無数のアンデッドにレア達は取り囲まれ、仮に今から森の外へ引き返そうとしても他の場所でもアンデッドの大群が蘇っているはずであり、決して逃げ場はない。
「ひいいっ!?無理無理!!俺、こういうのは本当に駄目なんだって!!」
「でも、ここにいる人たちは大昔に起きた戦争で死んだ人たちだって言ってた。つまり、何百年も前からこの場所で過ごしてるんだ。だから、この人達を救うためには俺達の手で戦わないといけないんだよ」
「そ、そんな事を言われても……わあっ!?」
「ガアアッ!!」
ヒナにアンデッドの1体が襲い掛かろうとすると、それを確認したレアは咄嗟にヒナを抱き寄せて彼女を庇う。この時にアンデッドに対してレアは剣を振り払い、首を切断する。
「アガァッ!?」
「卯月さん、大丈夫!?」
「う、うん……ありがとう、レア君。あっ、意外と筋肉あるんだね……」
「おい、いちゃついている場合か!?」
抱き寄せられた際にレアの身体に触れたヒナは若干頬を赤く染めるが、それに対してシゲルは怒鳴りつけると、レアに斬りつけられて首を斬られたアンデッドは地面に落ちた頭部を拾い上げ、首元に繋げようとした。
「アアアッ……」
「な、何だこいつ!?首を切り落としても死なないのか!?」
「くっ……やっぱり、聖水や聖属性の魔法じゃないと倒せないか」
「ど、どうすればいいの!?」
「とにかく、俺とシゲル君は聖水で何とかするから卯月さんは魔法で援護して!!こいつ等には聖属性の魔法で浄化するか、火属性の魔法で焼き払うか、どっちかでしか倒せないから!!」
レアは二人に指示を出すと自分も聖水を取り出し、今度は剣に注ぐ。修行の間は聖剣の類は使用できず、自前の武器で戦うように言われているため、聖水だけが頼りだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます