閑話 〈王国最強の剣士〉
――時は帝国の勇者が来訪する前日にまで遡り、勇者達の修行が開始される前に行われた会議の際、リリスの何気ない一言から始まった。
「そういえば王国で一番強い剣士って、誰なんでしょうね?」
「……何だって?」
今回の会議の議題は帝国の勇者をどのように迎え、対応するかの話し合いであり、国の重臣の殆どが参加していた。その中には大将軍のライオネルや北方領地を管理するガームも含まれ、当然ではあるが勇者が関わっているのであればカレハも参加していないわけがない。
会議自体は終わっているためにそれぞれが業務に戻ろうとした瞬間、リリスの素朴な疑問に雰囲気が一変し、特に剣を扱う者にとっては聞き捨てならない言葉であった。
「王国で一番強い剣士……レアの事?」
「いやいや、レアさんは確かに強いですけど剣士としては未熟だと本人も言ってたじゃないですか。実際にレアさんが剣を学び始めてから1年も経過してませんし、純粋な剣の腕はリルさんやチイさんが上じゃないですか」
「まあ、そうだな……」
王国最強の剣士となると真っ先に勇者であるレアが思いつくが、実際の所はレアの剣術の経歴は1年にも満たず、リルやチイから剣を教わっている立場である。確かに最初の頃と比べれば剣術の腕も上昇したが、純粋な剣の腕は指導者であるリルやチイが上である。
「なら大将軍のライオネルさんが妥当では?」
「いや、俺の場合はどちらかというと鉤爪の方が得意だからな……剣も扱えるが、そういう点ではガーム将軍の方が上だろう」
「いや、私も最近は政務にばかり励んでいて剣の鍛錬を行う暇はないからな。それを言うならば黄金級冒険者のティナ殿が一番ではないか?」
国の大将軍を務めるライオネルは剣よりも鉤爪を得意であり、元大将軍のガームはもう昔ほどの剣の腕はない事を告げる。それならば黄金級冒険者にして大剣の使い手であるティナが最強の剣士に相応しいのではないかと告げるが、本人は否定した。
「いえ、私もまだまだ未熟者です。それに私はレア様にも敗れていますし……」
「何?それは本当か?」
「でも、確か勝負した時はレアさんも聖剣を使ってましたからね」
「それをいうならば私の大剣も普通の武器ではありません。それにあの時よりもレア様も強くなられているはず……ならば私は最強の剣士はレア様であると思います」
ティナは自分が過去にレアに敗北している事を告げ、自分が王国一の剣士など有り得ないと断言した。彼女からすればむしろ敬愛するレアこそが最強の剣士に相応しいと思っている節もあるだろうが一理あった。
だが、そのレアを指導するリルとチイからすれば自分達が指導する相手が王国一の剣士と認めてしまうと、それを指導する彼女達の立場がなくなる。
「待ってくれ、レア君の強い事は認めるがそれとこれとは別だろう。剣士というからには純粋な剣の腕で競い合うべきではないのか?」
「そういう事ならハンゾウが有力候補だと思う。あのツルギを倒したんだから……」
「いやいや、それを言えばチイ殿が居なければツルギ殿に勝つ事は出来なかったでござる。それに拙者は前にツルギ殿に敗れているし……」
「ではチイが最強の剣士ということか」
「わ、私などリル様にも遠く及びません!!最強の剣士に相応しいのはリル様でしょう!!」
「まあまあ、これじゃあ話が終わらないじゃないですか」
誰も彼もが自分が最強の剣士だとは認めず、他人にその称号を譲ろうとする姿にリリスは呆れてしまう。人が良いというか、それとも最強の剣士の称号など恐れ多くて名乗れないのか、どちらにしろこのままでは埒が明かない。
「じゃあ、もう最強の剣士はやっぱりレアさんでいんじゃないですか」
「そんな投げやりな……」
「いや……それならこうしたらどうだろう?明日、僕達はレア君と戦う予定だ。なら、そのレア君を倒した剣士こそが王国最強の剣士という事で……」
「なるほど、勇者を打ち破る程の力を持つ者ならば王国最強の剣士に相応しいでござるな」
「それはちょっとレアさんが不憫のように思えますけど……」
「……他に決め方がないなら仕方ない」
レアが存在しない時に勝手に王国最強の剣士の決め方が決まり、皆は解散した――
――この翌日、王城にて勇者達と対峙したリル達は我先にとレアと戦おうと大勢の者達が押しかけた。その中には会議室で遠慮気味に発言していた者達も含まれていた。
「うおおおおっ!!勇者殿と戦うのは俺だ!!」
「ライオネル、ここは私に譲れ!!」
「最強の剣士の称号は渡さないでござる!!」
「ハンゾウ!!やはり何だかんだで狙っていたのか!!」
「ふっ、私も簡単に譲るつもりはない!!ここはいっその事、この場で誰が最強なのかを決めるいい機会だ!!」
「レア様以外の方が最強を名乗るなど認めません!!」
決闘中だというのに剣士達は我先にとレアに戦闘を挑もうとするが、最終的には同士討ちを開始し、その様子を見てレアは戸惑う。
「なにこれ……?」
「色々あったんですよ」
混乱するレアの方にリリスは手を置き、放っておくように促す――
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