第778話 試験の難易度の高さ
――城下町に訪れた時点からレア達の試験は開始し、観光気分だったシゲルとヒナの意識は一変する。いつ、何処でエルフ達が襲ってくるのかも分からず、常に周囲を警戒して動かなければならなかった。
今回の試験は日常生活の中で唐突に敵に襲撃を仕掛けられた場合を想定した試験であり、魔王軍がいつ動き出すかも分からないため、勇者達は常に気を張らなければならなかった。魔王軍は確実に勇者の命を狙うのは間違いなく、そのためにカレハは勇者3人が急に襲われた時も対応できるように試験を通して鍛えようとしていた。
「うええっ……こ、このお饅頭、ものすごく辛いよ〜!?」
「あ、毒の代わりにからしが仕込まれてたみたいだね。これからは食べ物にも気を付けないと……」
「うっ!?き、急に腹がっ……!?」
「え?あ、もしかしてさっきの昼食の時に下剤を含まれてたんじゃない?」
レア達は警戒しなければならないのは直接的な襲撃だけではなく、食べ物などに毒が仕込まれるなどの間接的に命を狙われる場合もあった。最もカレハ達に殺すつもりはないので本当の毒は使用しないが、その代わりにちょっとした嫌がらせ程度の仕掛けを施す。
「くそ、何処だ……何処に隠れてやがる」
「そんなに気を張っていると疲れちゃうよ。少しは肩の力を抜かないと……」
「んな事をいわれてもよ……あいたぁっ!?」
「ああっ!?シゲル君の頭に花瓶が!?」
敵が直接襲ってくるとは限らず、遠方から攻撃を仕掛けてくる事も想定しなければならず、道を歩いている途中でシゲルの頭の上に花瓶落ちてきて彼は頭を強打する。拳の勇者であるシゲルは肉体が頑丈なので大惨事にはならなかったが、流石に痛そうに頭を抑える。
「いててて……くそ、せこい嫌がらせばっかりしやがって!!」
「シゲル君、気を付けないと駄目だよ〜……わあっ!?」
「えっ!?バナナの皮で転んだ!?」
「お前も引っかかってんじゃねえか!!」
シゲルを注意した直後にヒナは道端に落ちていたバナナの皮に足が滑ってしまい、お尻から地面に倒れて痛そうに摩る。一瞬の油断も許されず、この調子でレア達は夕方まで過ごす。
「くそ、折角の外国なのにこれじゃあ、気が休まらないじゃねえか……」
「も、もう疲れたよ〜……」
「頑張って、今日1日は油断せずに過ごさないと……」
「なんでお前は平気なんだよ……」
「まあ、俺も色々とあったからね……」
勇者の中で比較的に被害を避けているのはレアであり、彼の場合は他の二人と違って多数の技能を身に付け、毒物の類は「悪食」の能力で無効化され、襲撃の際も暗殺者の「気配感知」や魔術師の「魔力感知」の能力で事前に対応できる。
それ以前にレアも普段から色々と厄介事に巻き込まれており、その経験が生かされて急な襲撃にも対応できるようになった。逆に言えばこの世界に訪れて度々厄介事に巻き込まれている事を意味するが、深い事は気にしない事にした。
「さあ、頑張ろう二人とも……今日を乗り越えれば城の方でパーティーを開いてくれるそうだよ」
「パーティーしてくれるの!?すっごく楽しみだね!!」
「おいおい、俺達は強くなるためにここへ来たんだぞ。そんな事をしている暇なんて……」
「まあまあ、ケモノ王国としてもせっかく来てくれた勇者を歓迎しないわけにはいかないんだよ。明日は他のみんなに二人を紹介するためのお披露目会みたいな物だから我慢してよ」
シゲルとしては遊んでいる暇はないと言いたいが、ケモノ王国としても帝国の勇者をぞんざいに扱うわけにはいかず、二人のために歓迎会を開かねばならない。その際に他の重臣にも紹介する予定だった。
「さてと、そろそろ城に戻ろうか。一応は言っておくけど、城に戻っても油断しないでね。襲ってくるのはエルフだけとは限らないから」
「マジかよ……くそ、毎回襲った後はこそこそ逃げ回りやがって!!男なら堂々と戦いやがれ!!」
「え?でも、襲ってくる人が女の人だったらどうするの?」
「そりゃお前……えっと、それはだな」
ヒナの問いかけにシゲルは何も言えなくなり、襲い掛かる相手が必ずしも男性とは限らない。時と場合によっては色仕掛けなどを仕組んでくるかもしれず、その場合の対処法も考えなければならない。
「まあ、とりあえずは戻ろうか。皆もそろそろ準備できていると思うし……」
「準備?なんの準備だよ?」
「あ、さっき言ってたパーティーの事!?あれ、でもパーティーは明日なんだよね?」
「……行けば分かるよ」
二人の言葉にレアは敢えて答えは言わず、王城へと戻る。そのレアの雰囲気からシゲルは嫌な予感を抱き、ヒナは不思議そうな表情を浮かべるが、城に戻った彼等の前には思いもよらぬ人物たちが待ち構えていた。
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