第777話 勇者の修行のために
――巨人国を牛耳っていた魔王軍のギガン討伐から一か月後、ケモノ王国の王都には帝国から派遣された人材を含め、本格的に飛行船の開発が行われる。
現在の帝国は皇帝が倒れた事もあり、皇帝の娘であるアリシアが皇帝の代理を務めていた。彼女は皇帝の業務を引き受けているのでケモノ王国に訪れる事は出来ないが、勇者であるシゲルとヒナはケモノ王国へと派遣され、遂に二人は帝国以外の国へと足を踏み入れる。
「うわぁっ……ここがケモノ王国なんだ」
「結構、獣人族以外の種族もいるんだな。それにこっちの方が雰囲気がいいな、なんというかファンタジーの世界らしいというか……」
「帝国と比べたら建物の構造が違うからね。二人とも気に入ってくれたなら良かったよ」
シゲルとヒナは初めて見る王都の風景に興奮し、そんな二人を見てレアは少し安心する。シュンの一件で二人とも落ち込んでいると思っていたが、少しは元気を取り戻したらしい。
――どうしてこの二人がケモノ王国に訪れているのかというと、それは以前にもカレハが提案した勇者の修行のためである。森の民は大昔に勇者によって命を救われた恩義があり、彼等はその恩を果たすために次世代の勇者に尽くす事を誓う。
カレハの提案で森の里に存在する修行場で勇者を鍛え上げたいという報告を聞きつけたアリシアはすぐに承諾し、二人を送り込んでくれた。
皇帝ならば大切な人材の勇者をやすやすと他国に送り込むなど有り得ないが、再び魔王軍が復活するかもしれないという情報を知り、今後のために勇者達はもっと力を身に付ける必要があった。
「おっと、呑気に観光している場合じゃねえ……あの馬鹿野郎をとっちめるために俺達は強くならないといけないんだよ」
「シュン君……今頃どうしてるかな」
「まさか、佐藤君がいなくなってるなんて……」
剣の勇者であるシュンが消えたという事はレアも聞いた時は驚き、話によると彼は魔剣の力を手にした事で暴走し、精神がおかしくなって姿を消したという。シュンの異変に魔王軍が関与している事は間違いなく、今頃何をしているのか心配だった。
シュンが魔剣に乗り移られた事までは流石に情報を掴み切れないが、彼が姿を消してからは消息掴めず。調査も難航している。この一か月の間にアリシアも各地に兵士を派遣したが、一行にシュンに関する情報は掴めない。
「よし、観光はここまでだ!!霧崎、すぐに俺達をその森の民とかいう奴等の所へ連れて行ってくれ!!」
「ああ、うん……それなんだけどさ、実は修行を始める前に二人の力を計りたいらしいんだ」
「え?どういう意味?」
レアはシゲルとヒナに対して言いにくそうな表情を浮かべ、やる気満々の二人に対してカレハから伝えられた言葉をそのまま言う。
「帝国の勇者殿の力量を計るため、今日一日は我等は貴方達を狙います。一瞬の油断もしないように気を付けてください……だってさ」
「はっ!?それ、どういう意味だよ?」
「気を付けてと言われても……どう気を付ければいいの?」
「それはね……」
会話の際中にレアは目つきを鋭くさせると、街道を歩ている通行人に視線を向け、唐突にレアは駆け出すと、腰に身に付けていた剣を抜く。そのレアの行動にシゲルとモモは驚くが、レアは躊躇なく通行人の男性に剣を翳す。
「そこまでだ!!」
「うっ!?」
「うわっ!?な、何だ!?」
「急にどうしたのレア君!?」
突如として剣を引き抜いて通行人に刃を向けたレアにシゲルとモモは戸惑うが、よくよく観察すると通行人の男性の手元には刃物が握りしめられており、位置的にはシゲルとモモの後方から近付いていた。
もしもレアが剣で静止しなければ男性に二人は襲われていた可能性があり、通行人の男性は身に付けていた帽子を取ると、細がない耳元が露になった。
「お、お見事です……勇者様」
「今度からは気配に気を付けた方が良いよ。襲い掛かってくるのがバレバレだったから」
「ちょ、ちょっと待てよ!!どういう事だよ!?」
「その人、知り合いなの!?」
「知り合いじゃないよ、顔を見るのは初めてだと思うけど……よし、もういいよ。早く行って」
驚く二人に対してレアはあっさりと刃物を構えたエルフを解放すると、相手は頭を下げて即座にその場を離れた。仮にも襲い掛かろうとした相手を解放したレアにシゲルとヒナは戸惑うが、そんな二人に対して今回の試験を説明する。
「今日1日の間は俺達は森の民が派遣したエルフに命を狙われるんだよ。勿論、本当に殺すつもりはないだろうけど相手も怪我を負わせるぐらいの勢いで襲ってくるから気を付けてね」
「ええっ!?」
「そんなの聞いてないぞ!?」
「試験はもう始まっているんだよ。これからは道行く人も気を付けてね、一瞬の油断も出来ないから……」
レアはシュンとヒナをわざわざ城下町に連れてきた理由はカレハが考案した試験のためであり、日常生活を送る中でもいつ襲われるか分からず、常に警戒心を抱くように行動するための試験である。
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