第775話 魂の分裂
――死霊使いは魂を操り、それを死体に憑依させる事で死んだ人間を蘇らせる事が出来る力を持つ。死体と魂に繋がりを持たせるのが死霊使いであり、もしも死霊使いが死ねば蘇った者達も死体から魂が引き剥がされてしまう。
だが、死霊石などの一部の特殊な魔石を使用すれば魂を憑依させる事は可能であり、魔剣カグツチも死霊石と同じような性質を持つ金属で構成されている。死霊石に憑依した魂は死霊使いが死んだところで消える事はない。
しかし、ある時に魔王配下の死霊使いは自分の死期を悟った時、崇拝する魔王の復活と目的を果たすため、彼は、あるいは彼女は、不死の存在へとなろうとした。
『肉体が朽ちようと、この魂が朽ちなければ私は死なないはずだ』
死霊使いはあろう事か、死の直前に自分自身の魂に死霊術を施し、そして事前に用意していた複数の死体に魂を宿す。つまり、死霊使いは自らの意思で「死霊」となって他の生物の肉体に憑依する術を身に付けた。
普通の死霊人形と異なる点は死霊使いの場合は既に死んだ魂ではなく、生きている間の自分の魂を憑依させ、結果から言えば実験は成功した。死んだばかりの新鮮な死体ならば肉体を乗り移る事が出来るのがは発覚した。
『もっと強い肉体が必要だ……最も強く、大きな力を持つ存在が良い』
死を迎える直前に死霊使いは他の死体に乗り移る方法を編み出し、彼は肉体を変えては時代を越えて生きてきた。だが、この方法では限界が存在し、何度も他の肉体に乗り移り、様々な時代を生き延びてきた。
『何故だ、どうして上手く行かない……忌々しい勇者共め!!』
しかし、どんなに時代が変わろうと死霊使いの目的は果たす事が出来ず、彼が手を貸して魔王軍の残党に「魔王」を名乗らせて世界を征服しようとしても、必ずや勇者という存在が現れて邪魔をされる。
死霊使い自身も幾度も勇者を殺そうとした。だが、勇者の力は大きすぎて彼では敵わず、常に勇者の傍に心強き味方が存在した。このままでは目的を果たせないと考えた死霊使いは遂に最後の手段に出た。
『私一人の力ではどうしようも出来ない……だが、同じ力を持つ存在が複数人存在すれば目的を果たせるのではないか?』
あろうことか、死霊使いは自分と同じ力を持つ存在を生み出そうと計画し、彼はそのために必要な死体を集める。これが今から僅か1年前の出来事であり、この時に既に死霊使いは魔王軍なる組織を結成していた。
始祖の魔王の力を借りてナナシを筆頭とした新たな魔王軍を結成する一方、死霊使いは自分の魂を更に「分裂」させ、複数に死体に憑依させる術を生み出す。当然だが一つの魂を複数に分けるなど有り得ない行為だが、死霊使いの魂は普通ではない。
始祖の魔王のように強大な力を持つ存在は圧倒的な力を誇る悪霊と化す。そして数百年も生き続けた死霊使いの魂も同様に力を増しており、彼は魂を3つに分ける事に成功した。
『我々の目的は分かっているな?』
『魔王様を復活させる事、魔王軍の障害となる存在を排除する』
『そして……憎き勇者を殺し、その肉体を奪う』
3つの魂に分割された死霊使いはそれぞれが意思を持ち、3つ肉体へと憑依する。それこそが剣の魔王を復活させた「少年」そして剣の勇者であるシュンに近付いた「イレア」とその双子の妹にして現在は「ダーク」と名乗る女性、これら全員が元々は同じ人間である。
通常、死霊人形は本体となる死霊使いが存在しなければこの世に留まる事は出来ない。だが、死霊使いの能力を極めれば自分自身を悪霊へと変化させ、他者に乗り移だけではなく、魂を分割させて同時に憑依する力までも編み出す。正に狂気の発想だったが、それを成功させる事が出来たのは数百年以上も生き延び続け、執念を抱き続けた魂だからであろう。
しかも分割されたとはいえ、元々は同じ魂だったせいか3人は自分達がどれほど離れていようと行動を把握する事が可能だった。そのお陰で3人は別々の国で活動し、国同士の内情を把握して行動する事が出来た。
今までにレア達が裏を掛かれて罠を張られていたのはこの能力を利用したからであり、知らず知らずにレア達は死霊使いが憑依した存在と接触していた可能性もある。
『……残されたのは私だけか、もう魂を分割させる事は無理か』
死霊使いの唯一の誤算は少年とイレアが聖剣によって止めを刺された事により、その魂は浄化され、消えてしまった事だった。死ぬ間際に二人の肉体に宿っていた闇属性の魔力は回収したが、予想外にも彼が使役する他の死霊人形にも魔力が伝わってしまう。
つまり、現在の剣の魔王やジャンは殺された二人の死霊使いの魔力を吸収した状態であり、実質的に二人は死霊使いの力を吸収した事で全盛期に近い力を取り戻していた。
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