第774話 勇者と魔王の歴史
――今から遥か昔、まだ勇者という存在が召喚される前の時代、圧倒的な力を持つ存在が誕生した。歴史上で初めて存在を現した「始祖の魔王」である。始祖の魔王は当時は「魔族」と呼ばれていた魔人族たちを従え、世界の国々に戦いを挑む。
魔王軍と称する魔族達の勢力は圧倒的であり、当時の国々は力を合わせても彼等には敵わなかった。そこで帝国の皇帝は異界から大きな力を持つ存在を呼び出し、彼等に魔王軍の討伐を任せる。これが勇者と魔王の因縁の始まりでもあった。
帝国の皇帝がどうして異界から勇者と呼ばれる存在を呼び出せる術を知っていたのかは不明だが、一説によればこの世界には元々は人間などという種は存在せず、ある時に何者かが偶然にも異界から人間を呼び出す方法を編み出したという。
異界から召喚された人間達はこの世界で暮らす種族にはない特別な力を持ち合わせ、その力によって人間は繫栄し、現在では世界で最も人口が多い種族となった。
しかし、あくまでも力を持つのは異界から召喚された人間だけであり、その力は子供達には継承されず、現在ではこの世界の人間の中に異界から召喚された勇者と並ぶ存在はいないとされる。
こちらの説が正しいかどうかは不明だが、ともかく当時の皇帝は異界から人間を召喚する事に成功した彼等はそのに人間達に討伐を命じる。彼等は人々から「勇気ある者」と褒め称えられ、いつの間にか「勇者」と呼ばれるようになった。
異界から召喚された勇者達は普通の人間が持ち合わせていない「加護」と呼ばれる能力を持ち合わせ、その力で魔王軍を徐々に追い込み、遂には始祖の魔王ですらも打ち破る。
だが、始祖の魔王は自分が死ぬ直前に彼の配下であった「死霊使い」に命じて死霊石を渡し、始祖の魔王が封じられた死霊石は死霊使いが管理する事になった。その後、魔王軍は潰滅する。
時は経過し、始祖の魔王が召喚された勇者が寿命で死ぬと魔王軍の残党が度々「魔王」の名前を語って復活を果たす。海の魔王、地の魔王は元々は魔王軍に所属していた魔族だったが、剣の魔王だけは事情が異なる。
剣の魔王バッシュは元々は勇者の一人であったが、ある時に彼は妖刀を手にした。この時に彼は妖刀に憑依していた魔王軍に属していた魔族の剣士の魂が流れ込む。
バッシュの場合はホムラと異なり、彼は妖刀の所有者である魔族の剣士が生きていた時代の記憶が流れ込む。その記憶のせいでバッシュの人格に影響が出てしまい、最終的には勇者の座から降りる。
その後はバッシュは二重人格のように変貌してしまい、人間でありながら魔族の記憶を手に入れた事で彼は人間に対する強い復讐心を抱く。一方で人々を守る勇者としての心を持ち合わせ、彼は苦しむ。
やがてバッシュが剣の魔王と呼ばれる切っ掛けになったのは妖刀を手にした彼を危険視し、帝国が派遣した暗殺者と接触した時だった。帝国のために尽くしてきたというのに自分を殺そうとするこの世界の人間に彼は失望し、彼は人類の敵に回った。
ホムラとバッシュは共通点は多いが、ホムラの場合はあくまでも自らの意思で裏切り、一方でバッシュの場合は殺された魔族の魂に触れた事で人格が変わり、人間に対して復讐心を抱くようになった。仮にバッシュが妖刀を手にしなければ彼も世界を救った勇者の一人として名前を残していただろう。
――ここまでが歴代の魔王の歴史だが、実を言えば剣の魔王バッシュを除き、これまでに魔王を名乗る輩の背後には常に始祖の魔王の配下である死霊使いが存在した。
『貴方様こそ魔王様の継承者に相応しい』
『貴方様以外に魔王様の意思を継ぐ者はいません』
『どうか、始祖の魔王様が果たせなかった望みを叶えてください』
異界から召喚された勇者が死ぬ度に始祖の魔王の右腕として仕え、彼から最も信頼が厚かった死霊使いは魔王軍の残党と接触し、新たな魔王を名乗るように促す。
海の魔王と地の魔王は死霊使いの言葉に従い、彼等は魔王を名乗って世界の国々を征服しようとした。だが、その度に帝国やケモノ王国から召喚された勇者によって阻まれてしまい、魔王軍の目的は果たせなかった。
幾度も勇者によって魔王軍は壊滅に追い込まれる中、死霊使いはある時に肉体の限界を迎える。いかに魔族と言えども不死の生物ではなく、死霊使いは自分が死ねば目的を果たせない事を悟り、それだけは何としても阻止しなければならなかった。
『あの方の目的を果たすまで……私は死ぬわけにはいかない』
死霊使いは自分の死期を悟り、その時が来る前に彼は、もしかしたら彼女かもしれないが、自分の魂その物を利用して不死の存在を作り出す事を決めた――
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