第773話 火竜の可能性
「シャアッ!!」
「大丈夫だって、まだいっぱいあるから……」
おかわりとばかりに火竜の「アカ」は鳴き声を上げると、レアはそれに対して大量のマグマゴーレムの破片を袋から取り出す。それらを火竜は貪ると、やがて火竜の身に変化が起きた。
「シャアッ……ガアアアッ!?」
「うわっ!?」
アカの全身が光り輝いたかと思うと、その場で身体に亀裂が走り、まるで昆虫の脱皮の様に内側から巨大化したアカが出現する。その光景を見てレアは驚くが、事前に聞いていたリリスの話を思い出す。
『知ってますか、レアさん?実は竜種の中には昆虫の脱皮のように成長する種もいるんですよ』
『え?脱皮?』
『竜種の生態系の謎は多いんですが、何でも急速に肉体を成長させるために脱皮を繰り返すそうです。特に良質な魔石を食らい続けて成長を行う個体ほど脱皮をするそうですよ』
『へえ……なら、クロミンも脱皮するのかな?』
『ぷるるんっ?』
竜種が脱皮するという話はリリスから聞いていたが、実際に脱皮をする姿を見るのはレアも初めての出来事であり、彼は驚きながらもアカの様子を伺う。
アカは自分に張り付いた破片を振り払うと、身体を伸ばして気持ちよさそうな表情を浮かべ、羽根を広げた。一回りほど大きくなっており、アカは自分の背中に乗るようにレアに促す。
「ガウッ!!」
「え?乗っていいの?」
「ガアアッ!!」
脱皮した事で成長したのか鳴き声までも変わっており、その背中にレアが乗り込むとアカは一気に駆け出して空へ向けて跳躍を行う。
「ガアアアッ!!」
「うわっ!?凄い……って、わああっ!?」
「ガウッ!?」
空を飛ぼうとアカは羽根を広げたが、すぐに高度が落下してしまい、二人とも地面の上に落ちてしまう。どちらも痛みに耐えながらも起き上がると、今度はレアの方がアカに叱りつける。
「いたたたっ……ちょっと、何で落ちたの!?」
「ガウウッ……」
「え?初めて空を飛んだから上手く飛べなかった?それならちゃんと練習してから人を乗せてよ!!」
普段から魔物であるクロミン達と接してきたせいかレアはアカの言葉を何となく理解できるようになり、練習もせずにいきなり空を飛ぼうとしたアカを注意した。
アカは起き上がるとその場で大きくなった羽根を広げ、飛ぶための練習を行う。肉体的にはまだ成体の火竜には程遠いが、それでも戦力的には十分に心強い。
(アカの力を借りる時が来るかもしれない……問題はどうやって外の世界に連れ出すかだな)
巨塔の大迷宮にレアが訪れた理由は二つあり、一つ目はアカを外へ連れ出す事、そしてもう一つは第三階層に存在する古城を調べるためであった――
――同時刻、剣の魔王バッシュの元に二人の人間が訪れた。正確に言えばどちらも普通の人間とは言い難い肉体ではあったが、魔王軍の隠れ家で待ち構えるバッシュとジャンの前に現れたのはダークとホムラであった。
「お待たせしました、バッシュ様……もう間もなく、準備を終えます」
「…………」
「何だ、貴様等は!?いったい何者だ!?」
「待て、ジャン……そうか、そういう事か」
この4人は顔を合わせるのは初めてのため、唐突に現れたダークとホムラに対してジャンは警戒するが、バッシュの方はダークの姿を見て納得したように腕を組む。
「貴様から奴と同じ気配を感じるぞ……そうか、貴様と奴は同一の存在か」
「バッシュ様?それはどういう……」
「その通りでございます。彼は勇者に敗れましたが、その記憶は私に継承されました」
バッシュの言葉にジャンは訝し気な表情を浮かべるが、一方でダークは頷くと改めて自分達の正体を明かす。
「今まで貴方様に隠し事をしてきた事をお許しください。ですが、もう我々は運命共同体です……お話ししましょう、私達の正体と目的を」
「……聞かせろ」
自ら正体を話すというダークの言葉にバッシュは尋ねると、そんな彼に対してダークは語り始める。彼女の――彼女達の歴史から離し始める。
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