第772話 飛行船の存在を明かす

「私としてはこの際に飛行船の開発のため、帝国からも人材を派遣させるのも有りかと思っている」

「ええっ!?それ本気で言ってるんですか!?」

「飛行船の存在を帝国にも明かすのですか!?」



飛行船の開発のためにケモノ王国はドワーフや巨人族を集めているが、それに更にヒトノ帝国から人材を派遣してもらい、本格的に開発する事をリルは提案する。


ヒトノ帝国もケモノ王国にて飛行船の開発に関しては情報を掴んでいるだろうが、流石に確信には至っていないはずだった。だが、この機にリルは飛行船の存在を明かし、今後は帝国とも交流をする予定だった。



「大丈夫だ、飛行船の開発の要となる浮揚石は帝国には存在しない。それに飛行船の開発に必要な木材の方も簡単に手に入る代物ではない。そうだろう?」

「うむ、それは間違いないが……」

「でも、飛行船の開発に関わらせるとなると帝国にも飛行船の技術が流通するという事ですよ?それはしばらくの間は大丈夫でしょうけど、帝国の財力なら他国と協力して飛行船を開発するかもしれませんよ」



帝国は世界で最も人口が多く、人材の宝庫でもある。材料の問題で今すぐに飛行船を開発する事は不可能だろうが、時間を費やせばいずれは独力で飛行船を作り出せる可能性はある。



「だが、我々も飛行船を利用して他の国と交流するのであれば帝国の協力が必要になる。帝国には今後は飛行船の開発と、飛行船での交流を条件に今回の勇者レアの派遣を協力してもらおう」

「ふむ……その飛行船というのが本当に完成するのか気になるな。正直、船が空を飛ぶと言われても信じがたいが……」



ガームは飛行船の存在は聞いているが、実際に巨大な船が空を飛ぶなど信じられなかった。この世界の人間でも船が空を飛ぶなど突飛な発想であり、普通ならば信じられない。


魔王軍が王都へ襲撃したさいに破壊された飛行船は結局は試運転をする前に壊れたので実際に飛べるのかも分からなかった。だが、飛行船の開発に成功すれば険しい山脈に取り囲まれているケモノ王国でも他国との交流が積極的に出来るようになる。



「飛行船の開発のためにはやはり帝国の協力も必要だ。それに帝国が飛行船を開発するとしても数年はかかるだろう。その間に僕達はより高性能な飛行船の造船技術を身に付ければいい」

「簡単に言ってくれますね……分かりましたよ、そこは私に任せてください。一度飛行船を完成させればそこから先は改良を加えていくだけですからね」

「ああ、任せたぞ。それよりも……肝心のレア君はどうしている?」



会議室にはレアの姿が存在せず、一応は会議する事は伝えているが当のレア本人がいない事にリルは疑問を抱く。すると、ネコミンがレアの居場所を伝えた。



「レアは転移台を使って農場に向かった」

「農場……?ああ、巨塔の大迷宮の周囲に作った農場ですね」

「どうしてこんな時に……」

「魔王軍との戦いに備えて味方を増やす、と言っていた」

「味方?」



ネコミンの言葉に全員が首を傾げ、巨塔の大迷宮には農場を管理する「農民」の称号を持つ人間と兵士しかいないはずだが、そこにレアが求める味方がいるのかと不思議に思う――






――同時刻、巨塔の大迷宮に辿り着いたレアは第四階層へと転移していた。第四階層は「密林」で覆われており、その中心部には「火竜」が生息する火山が存在した。



「シャアアアッ!!」

「いでででっ!?ごめんって、迎えに来るのが遅くなって……」



火山の山頂付近には火竜の子供が住み着いており、かつてネコミンが「アカ」と名付けた個体だった。まだレア達が巨塔の大迷宮に辿り着いたばかりの頃、大迷宮の捜索を行う時は協力してもらった。


最近は巨塔の大迷宮に訪れる事もなくなり、ずっと放置してきたがアカは主人であるレアの事は忘れておらず、久々に現れた彼に怒ったように噛みつく。何気にレベルが90を超えているレアだからこそ大怪我には至らなかったが、普通は竜種に噛みつかれて痛いという言葉だけで済む事はない。



「ごめんね、ずっと放っておいて……でも、これからは一緒にいられるよ」

「グルルルッ……」

「ほら、機嫌治して……あ、そうだ。この間、手に入れたマグマゴーレムの核の破片がいっぱいあるよ。食べる?」

「シャウッ?」



レアはマグマゴーレムを倒した後、ちゃっかりと回収していた核の破片が入った袋を取り出すと、アカに渡す。それを確認したアカは鼻を鳴らし、やがて格の破片を喰らう。



「アガァッ……シャアアッ♪」

「美味しい?リリスの言う通り、火竜は火属性の魔石が好きだと聞いていたから持って来たけど……」



マグマゴーレムの破片を食らった事で機嫌を良くしたらしく、これで許してやるとばかりにアカは鼻を鳴らした。

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