第770話 勇者達の修行
――帝国の三勇者と呼ばれていたシュンが突如として暴走し、大迷宮から消え去った事は国中から広がった。捜索隊に同行していた冒険者達が大迷宮での出来事を話し、噂は一気に国内に広がる。
シュンが魔剣を手にした時から何時かはこのような事態に陥るのではないかと不安を抱いていた皇帝だったが、やはり予想通りの展開に陥り、彼は人々から非難を受けた。どうしてこのような事態に陥る前に止めなかったのかと責められ、彼は心労のあまりに倒れてしまう。
かつて魔剣を手にした事で力に溺れ、遂には他の勇者によって討ち取られた「ホムラ」という名前の勇者が存在した。その勇者は存在ごと歴史から抹消され、その名前を知る者も少ない。
だが、そのホムラと同様に魔剣を手にした勇者が現れてしまい、しかも他の勇者二人は手も足も出なかったという。聖剣を所有するアリシアでさえもシュンは止められず、帝国に残された手段はもうケモノ王国の最強の勇者に頼むしかなかった。
「どうかお願いします、解析の勇者様の御力をお貸しください!!」
「……事情は分かった。勇者殿を帝国へ派遣し、力を貸してほしいんだな?」
ケモノ王国の王城の玉座の間にて帝国から派遣された使者が平伏し、大量の宝物を持参して訪れていた。以前、派遣された帝国の使者は勇者の返却を求める際は貢物の一つも持参していなかったが、今回は状況が違い、へりくだった態度で交渉を行う。
女王であるリルは使者の態度にため息を吐き出し、その様子を見て使者は内心では焦りを抱かずにはいられない。何しろ国の問題を他国に丸投げしているに等しい行為だとは自覚していた。
「ケモノ王国の皆様にはこれまで帝国は友好的な関係を築いてきました……両国の関係の発展のため、どうか勇者殿の御力をお貸しください!!」
「友好的な関係か……どの口がいうんですかね」
「リリス、口が悪いぞ」
ケモノ王国とヒトノ帝国は同盟国同士であり、敵対国ではない。だが、過去にケモノ王国が勇者を迎え入れた際にヒトノ帝国は一方的に食料の支援を打ち切ろうとしたり、勇者の返却を求めてきた。
それが今回に限っては勇者の力を借りなければ解決できない事態へと陥ってしまい、以前の態度はどうしたのか貢物まで用意して訪れた使者にリルは頭を抑える。
「事情は分かった。しかし、急に勇者殿を派遣しろと言われても私の判断だけでは決められない。家臣を集めて話し合う故、今日の所は引き返すと良い」
「何卒……何卒お願いします!!」
「……気持ちは伝わった、出来る限りはそちらの希望に応えたいとは思っている」
リルに対して使者は深く頭を下げて懇願すると、余程帝国は窮地に追い込まれている事が分かり、それ故にリルも女王としての務めを果たすために他の皆を呼ぶ――
――場所を移動して王城に存在する会議室にて王国の重臣が集められ、その中には森の民も混ざっていた。会議には大将軍のライオネルは勿論、北方領地から訪れたガームも混じっていた。
「諸君、急に呼び集めて申し訳ない。ガーム将軍もカレハ殿もお忙しい中、来てくれた事を感謝する」
「何をおっしゃいます。例の転移台とやらで一瞬で移動できましたからな……あれは本当に素晴らしい」
「うむ、我々としても勇者殿の話ならば無視は出来ぬ」
北方領地と深淵の森にはそれぞれレイナが作り出した「転移台」が設置されており、それを利用すれば一瞬で二人を呼び寄せる事が出来た。現在の王城には複数の転移台が管理され、帝国や巨人国、更には海底王国にも寄贈している。
今回は海底王国にも連絡は送っているが、会議には参加していない。国の一大事とはいえ、流石に他国の重心を招いて会議に参加させるわけにはいかない。これはあくまでもケモノ王国とヒトノ帝国の問題であった。
「きゅろろっ……皆と久しぶりに会えたのに会議なんてつまらない」
「拙者も久々に戻ってきたのにまさか帝国でそのような問題が起きていたとは……これはゆっくり休んでいる暇はないでござる」
「二人も戻ってきてくれて嬉しいよ。サンちゃんは少し我慢してくれ」
会議には久々に帰国したサンとハンゾウの姿も存在し、やっと二人とも戻ってこれた。特にハンゾウは大分長い期間を離れていたが、とりあえずは任務を終えて戻ってこれた。
サンの方も大方の修行を終え、当面の間はこの国に留まる事が許されていた。精神的には幼いサンを会議に参加させる事はどうかと思うが、彼女も立派な仲間なので一応は参加させておく。
「さて、今回の会議の議題だが……帝国で失踪した勇者の対処を我が国の勇者、つまりはレア殿に任せたいという事だ。勇者を止められる存在は勇者のみ……帝国からすれば剣の勇者殿が暴走する前にレア殿に何とかしてほしいという事だろう」
「何と情けない奴等だ……自分達の勇者の管理も行えんのか!?」
「うむ、ライオネルの言う通りだ。我々は断固として勇者殿の派遣を反対しますぞ」
ライオネルの言葉にガームも賛同し、いくら国の一大事とはいえ、自分達が追放した勇者に力を借りようとするなど図々しすぎると主張する。
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