第769話 不死と不死身の違い

「いったい、何の真似だ……!?」

「……私という存在が消え去る前に、最後に勇者を出し抜きたかった。と言えば信じますかね?」

「何を言って……」

「ぐふっ!!」



レイナはエクスカリバーを突き立てた少年の言葉に動揺するが、一方で少年の方も身体から徐々に力が失われ、肉体が灰と化していく。死霊人形として長い時を過ごした死体は浄化した場合、原型を保てずに失われてしまう。


少年の肉体が徐々に灰と化して崩れ去る中、少年は最後にレイナに顔を向けて勝ち誇った表情を浮かべる。自分の肉体が消えかかっているのに少年が態度を改めない事にレイナは嫌な予感を覚えた。



「悔いはありません……最強の勇者に討たれたのですから、誇るべき事です」

「何を言って……」

「ですが、僕の魂を浄化させる事は出来ませんよ……僕という存在は消えても、魂は元に戻るだけですからね」

「えっ……」



少年は最後に意味深な言葉を告げるとやがて完全に肉体が崩れ去り、灰は風に飛ばされて何処かへと消えてしまう。その様子をレイナは唖然と見届ける事しか出来ず、そんな彼女の元に仲間達が駆けつける。



「レイナさん!!倒したんですか?」

「あ、ああ……多分、だけど」

「……完全に肉体は朽ち果てた。もうこの状態では死霊使いであろうと蘇らせる事は出来ぬ」



カレハは地面に残っていた灰を摘まみ上げると、首を振って少年が完全に死んだ事を告げた。死霊人形で蘇った存在は二度目の復活は出来ず、どんな死霊使いだろうと蘇らせる事は出来ない。


エクスカリバーによって死霊人形として操られていた少年は浄化された。だが、エクスカリバーを覗き込んだレイナは言いようのない不安を覚え、本当に自分が少年を倒す事が出来たのかと不安を抱く――






――その頃、帝国とケモノ王国の領地の境目に存在するキタノ山脈、そこには魔王軍の隠れ家が存在した。そこには剣の魔王が存在し、彼の側近であるジャンも控えており、彼等は暗闇の中で鎮座していた。


いくら強大な力を持ち合わせていようと、死霊人形であるギガンとジャンにとっては日中の間の行動は控えるしかなかった。日中の間はアンデッドや死霊人形は力が衰えるため、行動するのならば暗闇に覆われた空間が最適だからである。



「……気づいたか、ジャンよ」

「はっ……?申し訳ありません、私は何も感じませんでしたが」



暗闇の中、剣の魔王バッシュは唐突にジャンに話しかけてきた。普段は物静かなバッシュが話しかけてきた事にジャンは驚くが、バッシュの方は自分の肉体に視線を向けて呟く。



「我々の力が増している……つまり、我々を蘇らせた存在に何かが起きたという事だ」

「えっ……言われてみれば確かに」



ギガンとジャンは自分の肉体に視線を向け、心なしか自分の肉体に埋め込まれた死霊石から流れ込む闇属性の魔力が増大化したように感じられた。この死霊石を通してギガンとジャンは肉体に魂が留まり、蘇る事が出来たと言っても過言ではない。


急に死霊石から溢れる闇属性の魔力が増えた事にギガンは何かを感じ取り、恐らくは自分達を蘇らせた存在に異変があったのだと判断する。



「あの小僧の姿に模した存在……奴の身に何かが起きたのだろう」

「まさか、ギガンの奴が何かを仕出かしたのでしょうか?」

「ギガン……待、もしかしたら小僧ではなくてギガンの方に何かがあったのかもしれん」

「は?それはどういう……」



最初は少年の身に何か起きたと判断しかけたバッシュだったが、改めて彼は自分とジャンに視線を向け、ある結論に辿り着く。



「もしかしたら……奴等は倒されたのかもしれん。そのせいで我々に送り込まれる魔力が増大化した。そう考えるのが妥当かもしれんな」

「ば、馬鹿な……あのギガンが敗れたというのですか?」

「有り得ない話ではない、奴がこの俺とお前以外に簡単に敗れるとは思えんが、もう我々は死霊の存在。弱点はいくらでも存在する」



ギガンは自分達の魔力の増大の理由をギガンが敗れたせいだと考え、その推理は決して外れてはいなかった。本来ならばギガンに送り込まれるはずの魔力がバッシュとジャンに流れ込んだ込み、より二人は強大な存在へと変化する。


本来ならばギガンに送り込まれるはずの魔力を得た事でバッシュとジャンは魔力が溢れ、特にバッシュの方はこれまでに行動を起こさなかった分、余分な魔力の消費を抑えていた。



「我々が動く時がきたのかもしれんな……」



バッシュは部屋の隅に立てかけられている「日本刀」に視線を向け、目つきを鋭くさせる。少年がバッシュのために用意しておいた武器であり、ドラゴンスレイヤーを手に入れなかった時に備えて少年が用意しておいた「妖刀」にバッシュは手を伸ばす――

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